細胞がストレスを受けると、熱ショック転写因子1(Hsf1)が標的DNAに結合し、細胞を保護する遺伝子群を一斉に活性化させます。この際Hsf1は、相分離を介して複数の転写因子を効率よく集積させます。しかし、DNAの認識という局所的なイベントが、どのようにして相分離へと変換されるのか、その詳細な分子メカニズムは未解明でした。徳島大学先端酵素学研究所の川越聡一郎助教(研究当時、現セントジュード小児研究病院博士研究員)、齋尾智英教授、北海道大学大学院先端生命科学研究院の久米田博之学術研究職らの研究グループは、溶液核磁気共鳴分光法(NMR法)を主体とした生物物理学的研究手法を駆使した研究に取り組み、Hsf1がDNA結合によって自己阻害型から活性型へと切り替わるメカニズムを解明しました。具体的には、定常状態のHsf1では、相分離駆動に関わる天然変性領域(IDR)がDNA結合ドメイン(DBD)と分子内で結合することでその活性が封じ込められています。これに対し、DNA結合時にはDBDの構造柔軟性が高まることでIDRが解放され、IDR同士の相互作用による相分離が促進されることが明らかになりました。本成果は、DNAの持つ情報が細胞内の広範な相分離現象へと変換される構造的及び熱力学的な基盤を提供するものです。本成果は、2026(令和8)年5月19日付けで『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版に掲載されました。
【プレスリリース】相分離を介した転写因子ハブ形成を制御する 「分子スイッチ」の機構を解明 ~構造揺らぎが転写因子の分子集合を制御する〜(PDF 505KB)
