持続可能な地域の在り方を探るエコノミックガーデニングによる地方創生
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(関連記事:第2回 地域経済活性化のための人財育成-エコノミックガーデニングの知見から-)
植物を育てるように中小企業を支援し、はぐくむE Gという手法
段野先生の研究室では、行政機関や企業を訪問し、政策や財務状況に
ついて、ヒアリングやアンケート調査を実施。講義で習得した理論を
実社会に応用し、課題を分析し、よりよい政策や経営のあり方を考え
ています。
地元企業や地域産業の発展により、地域経済の活性化を目指す 〝エコノミックガーデニング(E G)〞。地域を「土壌」、中小企業を「植物」に見立て、庭木を育てるように地域経済を手間暇かけて育てていこうという取組です。
1 9 8 0年代にアメリカのコロラド州リトルトンで始まったエコノミックガーデニングは、雇用は2倍、税収は3倍という成功を収め、世界的に有名になりました。
大企業誘致に頼るのではなく、地元中小企業を資源と捉え、その魅力を掘り起こすことで地域経済活性化に繋げていこうという、エコノミックガーデニングは日本でも注目を集めています。
日本におけるE Gの先進地徳島県鳴門市
この手法を日本でいち早く取り入れたのが、徳島県鳴門市。鳴門市では2 0 1 2年に産学公民金が連携して「E G鳴門」を立ち上げました。運営については公共政策や経済学を専門とする段野先生にも相談がありました。
鳴門市では2 0 1 6年に中小企業の支援条例を策定し、市職員が年間1 0 0社以上の企業を訪問。支援金などの情報提供を行い、サポートしています。「業績の向上に繋がった」という声もある一方、「エコノミックガーデニングを知らない」という企業も多いといいます。
「エコノミックガーデニングは体系化された手法ではないため、各地でその土地にあったやり方が模索されています。例えば神奈川県寒川町では行政職員だけでなく、地域経済コンシェルジュという中小企業診断士の資格をもった専門家も一緒に訪問し、Face to Faceの伴走型の支援を実施しています。中小企業の支援のあり方も含め、企業が抱える労働問題や生産性の向上といった課題解決のためには、大学や経済の専門家、地域の経済団体、銀行などが一緒に取り組んでいくことが大切。中小企業を地域の資源と考え、その魅力をみんなで掘り起こし、経済の活性化に繋げるために産学公民金が連携したプラットフォームを作り、地域が一体となって進めていくことで、成果に繋がるのではないかと考えています」。
シンポジウムや勉強会をきっかけに地域企業へエントリーする学生も
段野先生はエコノミックガーデニングについて、多くの人に関心をもってもらおうと、2 0 2 1年から勉強会やシンポジウムを開催しています。
企業や自治体、地域の経済団体などが全国各地から参加し、そこにゼミ生も加わります。こうした会をきっかけに企業に興味を持ち、地元企業への就職を考える学生もいるそう。
「例えば『ふとんのタカハシ』さんは、社員同士で感謝を伝え合う『サンキューカード』を導入するなど、働きやすい職場環境づくりを行っている楽しくてアットホームな会社です。ブライダルの『ときわ』さんは、社員の提案や意見をもとに経営を進めるボトムアップ企業。現場の意見を重視し、それが企業の方針や戦略に反映される仕組みを持つのが特徴です。個々の能力が高くないと成り立たない形態で、組織力もすごい。徳島県はこうした優良企業が多いということを情報発信していくのも、エコノミックガーデニングなのかなと思います」。
2025年3月1日は「第2回 地域経済活性化のための人財育成-エコノミックガーデニング(EG)の知見から-」を開催。
EG寒川、EG京都、EGおおさか、EG鳴門などEGに取り組む人たちが全国から集まり、
「エコノミックガーデニング施策における自治体の取組」について発表しました。
情報発信をサポートする学生ベンチャー『O S A T O』
エコノミックガーデニングを広めるための地元企業の情報発信に一役買っているのが、段野先生の研究室のゼミ生たちが立ち上げた徳島大学発ベンチャー企業『株式会社O S A T O』です。
現在、立ち上げに関わったゼミの卒業生は会長となり、4年生が社長を務めているのだとか。『O S A T O』は学生の視点から、企業の魅力を紹介する動画やインタビュー記事の作成、商品開発のためのアンケート調査など、情報発信を通じて中小企業支援を行っています。
「学生が情報発信するメリットは、同じ立場で学生の心に響くものを作れること。学生が地域に入って企業を深く知ることで、就職の際、県内企業に目を向けるきっかけになります」。今後は地域経済論の受講生も企業を訪問し、取材を行う予定だといいます。
「学生は自分がやりたいことができる企業か、自分の意見を聞いてもらえる企業かなど、働きがいや自身のキャリアビジョンを真剣に考えています。そうした企業が徳島にもあると分かれば、徳島県に残ってもらえるはず。在学中にできるだけ地元企業の魅力に触れる機会を作れたらと思っています」。
日本各地のEG実践地に取材し、調査結果を発表した公共政策コース4年の鈴江ひかりさん。(左)
鳴門市の126社を対象としたアンケートから、設立年数10年未満の企業は支援制度をよく活用しているが、20年以上30年未満の企業の活用率は低く、
企業から手続きの簡略化や専門家による適切なアドバイスを求める声があったことなど、EGに関する考察と提言を行いました。
社会人向けビジネススクールは7月開講!
段野先生は2 0 2 4年から始まった社会人向けのビジネススクール『とくしまビジネスリスキリングスクール』で「エンゲージメントマネジメント講座」や「人を大切にする経営学」なども担当しています。経営者やマネジメント層も多く受講し、異業種交流会のような雰囲気なのだとか。
「企業の方にはどんどん大学に入っていただきたいと私は思っています。共に学び、連携し、エコノミックガーデニングを推進することで、徳島県の中小企業やスタートアップの成長が促進され、地域経済の活性化につながります。外部企業の誘致に頼るのではなく、地元企業の力を高めることで、持続可能な雇用創出や産業の多様化も期待できます。地域資源を活かしたビジネスが増えれば、地域産業の発展にも貢献できる。県全体の魅力が向上すれば、若者の定住の促進にもつながると思います」。
今後は阿南市でもエコノミックガーデニングが導入される予定。徳島県がエコノミックガーデニングの最先端地域として注目されるかもしれません。
シンポジウムに参加したゼミ生の皆さん。
段野先生の講座を受けてみたいという社会人は5月から募集がはじまる『とくしまビジネスリスキリングスクール』をチェック!