第2回 地域経済活性化のための人財育成-エコノミックガーデニングの知見から-
2025年3月1日、「第2回 地域経済活性化のための人財育成-エコノミックガーデニングの知見から-」 が開催されました。アメリカのコロラド州リトルトン市で編み出されたエコノミックガーデニング(EG)は、地域社会に大きな経済効果を生み、地域経済の持続的成長をもたらした成功事例です。日本でも中小企業を支援して地域経済を成長させるべく、さまざまな自治体がこの手法を導入しています。 今回のシンポジウムでは、各自治体の取り組みや課題についてEGの担当者や有識者の方々にお話いただきました。EGを通して地域経済について「もっと知りたい」という人は、段野聡子教授の地域経済論研究室の活動とあわせてチェックして。
(2025年とくtalk春号 最先端研究探訪)
▲EGは総合科学部の段野先生の研究分野。当日は段野先生の研究室のゼミ生たちもシンポジウムに参加しました。
“よりよいまちづくり”を意識した日本版EGは地域活性の鍵
高崎商科大学 教授 梅村 仁さん
地域産業振興、中小企業政策を研究する梅村教授。冒頭、EGの概念とその実践について詳しく説明し、従来の企業誘致型の政策から、地元中小企業の成長支援へとシフトする必要性を指摘しました。具体的な事例として群馬県高崎市や尼崎市での経験を共有。また2022年、アメリカのオレゴン州のポートランドで1年間、EGに関する取材を行い、EGの創案者クリス・ギボンズ氏(元リトルトン市産業振興部長)と面談し、そこで得たリトルトン市におけるEG政策成功のポイントを4つにまとめて紹介しました。
- 成長志向の強い意欲のある地元の中小企業に絞って支援を行い、成長を促すことで雇用創出効果に導いた
- 市場規模や消費者動向などの情報についてデータベースそのものを提供するのではなく、中小企業の支援につながる分析結果を提供した
- 商工会や大学など地域間で連携しながら事業を推進した
- 明確なビジョンをもち、政策を牽引する強力なリーダーシップの重要性
日本版EGの例として今回のシンポジウムの登壇者について触れ、新たにEGを取り入れようとする自治体は、先行して取り組む自治体から政策を学ぶことが大切であると呼びかけました。
企業の成長を促す制度で地域産業の未来をひらく
EG京都 京都府商工労働観光部産業振興課 副主査 上垣 皓太朗さん
2007年に中小企業応援条例が施行された京都府における主な支援施策についてお話しいただきました。
まずは3つの主要な補助金制度(京都エコノミックガーデニング支援強化事業、共創型ものづくり等支援事業、産学連携支援事業)の目的や補助率、具体的な支援内容について説明し、京都府元気印中小企業認定制度、経営革新計画、「知恵の経営」実践モデル企業認証制度、チャレンジ・ バイ〈京都府新商品・サービス販売促進支援制度〉の4つの認定制度を紹介。
多彩な表彰制度やグローバルな販路開拓支援についても言及し、京都府の産業振興に向けたあらゆる取り組みについて説明いただきました。
地道な伴走支援で地域の活性化に尽力
EG寒川 寒川町環境経営部 地域経済コンシェルジュ 高島 利尚さん
神奈川県湘南地域に位置する寒川町。かつて寒川町では中小企業、特に製造業への支援が不足していましたが、2016年から本格的な支援活動をスタート。まずは町内の企業131社を訪問して話を聞き、経営計画を立てて事業に取り組む企業がわずかという状況を把握しました。
そこで事業承継を控えているような将来性の高い企業に焦点を当て、事業計画を立てる支援を始めます。その後、定期的な企業訪問による事業計画の作成や販路開拓のサポート、若手経営者を中心としたネットワークの構築、横請けの連携強化などを実践し、直近の成果として5000万円規模の共同受注も創出されたことを紹介いただきました。
多岐にわたる施策で地元のビジネス展開を促進
EG鳴門 鳴門市産業振興部商工政策課 課長 藤瀬 蔵さん
徳島県鳴門市では、地域の少子高齢化や企業誘致の限界をふまえ、2012年からEGに取り組んでいます。2016年には中小企業振興基本条例を制定し、年間100社を目標に企業訪問を実施。現状と課題をヒアリングし、地元企業の成長支援に注力しています。
近年は「挑戦誘致」をキャッチフレーズとしたサテライトオフィスの誘致や、都市部企業と地元企業とのマッチングを通じた新たなビジネスの創出、スタートアップ企業との連携や市外から移住し、起業してもらうための支援強化なども実施しています。社会情勢が大きく移り変わる中で、地元企業の成長を促していくための多岐にわたる施策について紹介しました。
求められる専門家による伴走支援と連携強化の重要性
徳島大学総合科学部公共政策コース4年 鈴江 ひかりさん
2025年3月に徳島大学を卒業予定の鈴江さんは鳴門市の中小企業126社を対象としたEGに関する調査結果を報告しました。調査を通じて、設立年数10年未満の企業ではEGに関連した支援制度の認知度や活用率が高い反面、20年以上30年未満の企業ではあまり活用されていない実態が明らかになったことを発表しました。
企業側から支援制度の手続きの簡略化や専門家による適切なアドバイスが求められているといった要望が挙がっていることに触れ、寒川町、京都府、大阪府における事例の紹介、課題の分析と共に他の地方自治体との連携を強化し、企業を伴走支援できる専門家育成の必要性について提言しました。
自治体における産業支援人材育成の重要性
生駒市 副市長 領家 誠さん
大阪府や生駒市で中小企業の支援に取り組んだ経験をもとに地域産業政策における3層構造に言及。成長分野への投資、中小企業の販路開拓につながるプラットフォームの形成、中小企業振興地域の企業研究を挙げ、それぞれの相関関係と課題について説明いただきました。
領家さんは「産業支援を推進する上で、あらゆる企業、機関と連携し、継続的な関係性を構築することが必要だが、自治体は定期的な人事異動が課題になっている」と指摘。産業支援の推進には専門性の高いスペシャリストが必要であり、インフォーマルな活動を通じた産業支援の継続的な取り組みや人材を育てる研修プログラムについて説明しました。
▲シンポジウム後半の質疑応答、意見交換会では講師を務めた皆さんがパネリストとなり、
各企業訪問の重要性や人材育成における公務員の人事異動の課題について、活発な意見交換が行われました。
▲EGに興味のある社会人は『とくしまビジネスリスキリングスクール』の受講を検討してみて。
段野先生は「エンゲージメントマネージメント講座」や「人を大切にする経営学」などを担当。2025年の講座は5月に開講!
詳しくはこちら↓
https://www.tokushima-u.ac.jp/recur/recurrent-list/sonotanokouza/