令和8年度徳島大学入学式式辞
令和8年4月6日(月)
会場 アスティとくしま
徳島大学長
河村 保彦
本日、徳島大学に入学された1,348名の学部新入生、481名の大学院修士・博士前期並びに83名の博士・博士後期課程入学生の皆さん、入学誠におめでとうございます。ご来賓ならびに本学教職員とともに、皆さんの入学を心から歓迎しお祝いします。また、皆さんを支えてこられましたご家族や関係者の皆様にお慶び申し上げます。
今日のよき日、ソメイヨシノが開花し、皆さんの門出に花を添えてくれています。徳島は、野にも山にも海にも自然の恵みが豊富で、澄んだ空気と美味しい水に恵まれ、健康的な学生生活を送ることができます。当地徳島は、八月の有名な「阿波踊り」がある一方、四国遍路の一番札所、霊山寺の静かで厳かな佇まいに心が鎮まり、自らを見つめ、将来への力を蓄えるまたとない場所です。
さて、私は2023年4月に、徳島大学の育成したい人物像や将来あるべき姿を、「INDIGO宣言」として策定しました。「INDIGO」すなわち「藍」は、徳島の伝統産業「藍染」をもたらす自然染料の原料となる植物です。まずINDIGOのIはIntegrity(誠実)、NはNoble 及び Novel(高潔と斬新)、DはDynamism 及び Diversity(活力と多様性)、次のIはInclusion(寛容・包摂)、GはGlobal(世界へ発信)、OはOpen(開かれた徳島大学)を意味します。すなわち、誠実で高潔な人格、地球規模の課題に立ち向かう斬新な発想と力強さ、徳島大学はこの両者を身につけるための教育研究の場を提供し、皆さんと社会の要請に応え続けます。性別、年齢、国籍、価値観などの多様性を前提に、全ての学生を受け入れて、皆さんの力を最大限引き出せる大学運営を推進します。皆さん、ぜひ「INDIGO宣言」を大学ホームページ等で確認していただき、学生生活の指針としていただければと思います。
次に、最近の徳島大学の動向についてお話しします。昨年1月に徳島大学は、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」、すなわち“J-PEAKS”(Program for Forming Japan’s Peak Research Universities)に採択されました。このプログラムは、10年後の徳島大学のあるべき姿、すなわち「創造的超高齢社会」の実現に貢献する-ことを描き、本学の強みや特色である「光工学」、医学領域の「慢性炎症研究」、そして「栄養学」と「情報科学」の研究に、全学を挙げて取り組み、その成果を全国に展開し、他のJ-PEAKS採択大学とともに我が国の研究力のベースアップに貢献するものです。徳島大学は、全国から5倍を超える競争率の中採択された二十五機関の一つとなりました。我が国は、少子高齢化、エネルギーや食糧、自然災害、新興感染症など、多くの課題を抱えています。そうした社会の課題に対して、本学は若年層から高齢の人々まで、すなわちオールエイジの人々が健康で社会に参加・貢献し、人間的で安心安全な生活を楽しむことができる社会―これを創造的超高齢社会と定義し―こうした社会の実現に貢献することを目指しています。皆さんはJ-PEAKS採択大学で学ぶという自信と誇りを持って、ぜひ毎日を受け身ではなく、能動的に過ごして下さい。
この入学式で、私は皆さんに「ArtとScience」についてお話ししたいと思います。まずアートの力について簡単なエピソードをお話しします。先月初めに、地元の空港から飛行機に乗りました。途中飲み物のサービスがありました。その際、私は手にした紙コップにふと目を惹かれました。ロゴマークの入ったいつもの画一的なデザインの白い紙コップではなく、さまざまな色彩の切り絵細工のような模様で紙コップの周囲全体を彩ったとても美しい、初めて見るコップでした。さらに目を凝らして紙コップの周囲を見渡したところ、「Heralbony®︎」と印字されていました。この名称とロゴマークがとても洒落ていて、外国のデザイン会社かと思ったのですが、実は障害を持ったデザイナーの作品を商品化する我が国発の企業でした。企業名も、創業者の全く個人的な着想とのことです。その後、経済新聞紙を見ていた時、特集としてこのヘラルボニーが取り上げられていました。場所は岩手県盛岡市、知的障害を伴う自閉症の兄を持つ双子の兄弟が、2018年に創業したとのことでした。主にそうした障害がある人のアートを知的財産ライセンスとして管理し、原画や作品をモチーフにしたアパレル、雑貨を制作・販売しているとのことです。契約作家は、今や国内を含め世界10ヵ国、293人に達すると記されていました。私は一つの紙コップだけで、旅のお供としてとても暖かい気持ちと癒される思いに包まれました。アートの、さりげなくも大きな力に気付かされました。
一方、私は広い意味のサイエンスとアートの関わりについて関心を持っています。直近の例として、大阪・関西万博で落合陽一氏のプロデュースされたシグネチャーパビリオン「Null2」が、今年2月に「みんなの建築大賞2026」に選ばれました。また、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を体現したキャラクターの「ミャクミャク」は、ご存知の通り万博閉幕後も人気が継続しています。また古くは、15世紀後半に、万能の天才レオナルド・ダ・ビンチが描いた「ウィトルウィウス的人体図」は大変有名です。この図は、「人体の調和」や「プロポーションの法則」とも呼ばれ、古代ローマの建築家ウィトルウィウスの記述をもとに制作されたものです。これもサイエンスとアートの融合の一つではないでしょうか。そこで、話を現在の大学など高等教育の場に戻しますと、最近は「S T E M」すなわち、Science、Technology、Engineering、Mathの教育に、Artの”A”を加えて、「STEAM」教育が重要とされます。東京藝術大学の日比野学長は、STEAMに含まれるAはSTEMの一角を成すということではなく、STEMの全てを下支えすると云われています。私もその考えに賛同します。あらゆる機能を研ぎ澄ましていくと、その成果物は結果的に「美しい」と感じられるものになる。皆さんも1957年に創設された「グッドデザイン賞」をご存知でしょう。また、本日の入学式にしても、皆さんがご覧の通り、アーティストの方が、演台中央に華やかなフラワーアレンジメントを飾り付けて下さいました。そして徳島大学の学章と日本国旗、さらに左右にご来賓や各学部・大学当局の先生方等が着席しておられます。会場には、新入生の皆さんとご家族の皆様が整然と着席しておられます。こうした式典の様子は、この会場全体がそもそも様式美で彩られているといえます。アートは先に述べたエピソードのように、たとえ紙コップであっても、人に幸福感をもたらしてくれます。それを拡大して考えると、人のあらゆる「価値ある」活動と成果物にはアートのエッセンスが含まれていると思います。そしてそれは、人々にHappinessという一時的な幸せに留まらず、持続的で良好な生活状態や生きがい、すなわちWell-beingをもたらすと考えます。
最近の社会は、地震や戦乱、環境変化、物価や燃料費の高騰など喫緊の課題は数多い。そうした解答のない課題の解決の一歩として、皆さんには、文系、理系に関わらずそれぞれの専門とともに、歴史や文化、哲学や心理学など人々の考え方、そしてAIやデータサイエンス、SDGs、カーボンニュートラルなどの知識が必要です。併せて、将来グローバルに活躍する人も多いと思います。その際は、グローバルコミュニケーション力や自国の文化や歴史が語れる力が必須です。このように、皆さんには専門以外にも多くの学びが必要ですが、どうか皆さん、生涯「考え、学び続ける」とともに、あらゆる分野で先述した「アート」が意識できる成果物を創出し、人々のWell-beingに貢献するプロフェッショナルとして成長して下さい。
結びに、皆さんはこれからの新たな出会いと学び、学生生活への期待が膨らんでいることでしょう。徳島大学は、学生の皆さんが主役です。そして、皆さんが今後我が国と世界に雄飛し、リーダーとして世の中を先導されるよう願ってやみません。新入生の皆さん、入学おめでとう。
