今村恵⼦(京都⼤学iPS細胞研究所(CiRA)、理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC))、和泉唯信(徳島⼤学⼤学院医⻭薬学研究部)、⻄⽥敬⼆(神⼾⼤学先端バイオ⼯学センター)、神⾥興太(琉球⼤学⼤学院医学研究科)、垣花学(同左)、⽇置寛之(順天堂⼤学⼤学院医学研究科)、Martin Marsala(カリフォルニア⼤学サンディエゴ校)、加藤友久(⾦沢医科⼤学総合医学研究所)、井上治久(CiRA、理研BRC)らの研究グループは、近位筋優位型遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)の原因となる遺伝⼦変異を⼀塩基単位で修正する「塩基編集」による治療法を開発し、その効果を調べました。
HMSN-Pは、成⼈期に発症して⼿⾜の筋⾁の⼒が徐々に低下する遺伝性の神経疾患です。特定の変異をもつTFG(TRK-fused gene)遺伝⼦から作られる変異型のTFGタンパク質が運動ニューロン(運動神経細胞)や感覚ニューロン(感覚神経細胞)に溜まることが原因と考えられています。現在、病気の進⾏そのものを抑える治療法は確⽴していません。
正常なTFG遺伝⼦(野⽣型)は、運動・感覚ニューロンで必要なため、研究グループは、DNAを切断せずに変異の修正が期待できるアデニン塩基編集技術を選定しました。さらに変異を修正する塩基編集システムをアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに搭載し、HMSN-Pの病態を再現したモデルマウスの脊髄に投与しました。その結果、モデルマウスでみられた運動神経の軸索の減少が抑えられ、運動機能の改善と、⽣存期間の延⻑が確認されました。さらに、HMSN-Pの患者さん由来iPS細胞から作製した神経筋オルガノイドに対して、同様に塩基編集システムを導⼊したところ、TFGタンパク質の異常な凝集と神経細胞死が減少しました。
本研究は、HMSN-Pに対する塩基編集治療の有効性を動物モデルとヒト細胞由来モデルの双⽅で⽰した概念実証です。今後、安全性や投与法などをさらに検討する必要がありますが、塩基編集による治療は、HMSN-Pだけでなく、⼀塩基の変異が原因となるほかの遺伝性神経疾患への応⽤にも期待されます。
この研究成果は、2026年9⽉4⽇に国際科学誌「Molecular Therapy Advances」にオンライン掲載されました。
【プレスリリース】運動ニューロン疾患に対する塩基編集治療の可能性を実証 ―患者さん由来神経筋オルガノイドとマウスで効果― (PDF 2.53MB)
