最先端研究探訪(とくtalk187号)

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地域づくりのプロセスが一目で分かる『地域づくりのフェーズと人的支援』

地域がどうなりたいかブレずに考え続ける

 2019年秋号の「魅力ある授業」で紹介した「先よみワークショップ」(@香川県まんのう町)。現在と10年後の集落の構成人数や年齢層を把握するため、住宅地図にシールを貼って色分けして、地域の人たちと学生が共に地域課外とこれからのまちづくりについて考えました。
 その手法はとても分かりやすく、和気あいあいとした雰囲気も楽しそうで、今後各地に広がるのでは・・・と期待していたのですが、コロナ禍で事態は一変。以来、対面でのワークショップはすべて中止となってしまいました。
 そんな中、田口先生が注力しているのが地域おこし協力隊の制度設計の見直しや、地方創生に関する様々な施策を理論的に体系化する作業。国への提言も積極的に行っています。
「現在よく耳にする地方創生は、人口至上主義みたいなところがあって、数字ばかりを追いかけているところがあります。関係人口(移住はせずに地域と交流し、町のために活動する人)を増やし、にぎわいを取り戻そうという“にぎわい至上主義”を掲げる人もいて、いわばメディア先導型地域づくりみたいなところがあるのですが、教育現場がやるべきことは本質をちゃんと見ること。
 地域がにぎわうことよりも、そこで暮らす人たちの安心、安全がちゃんと確保されていることの方がよっぽど重要です。地域がどうなりたいか、どうしたいのかをブレずに考えることが大事だと思っています」。

 

立ち位置を把握し、やるべきことを整理する

 とはいえ人口減少を止めることは出来ないし、自分たちが暮らす地域がどのような状態なのか、何をすればいいのか、地方創生における“立ち位置”を把握するのは簡単ではありません。
 そこで登場するのが、こちら!「地域づくりのフェーズと人的支援」の図をご覧ください。それぞれの段階において、行政の役割や必要な支援、求められる人材が記されているので、これに当てはめて考えると、自ずとやるべきことが整理され、地域づくりのプロセスを一目で理解できます。
「去年の11月ぐらい作ったものですけど、こうした図は今までなかったんですよ。これをベースにあちこちで行政の人たちに働きかけています。まちづくりは誰かに任せて終わりではなく、『行政の役割もしっかりありますよ』と話して、フェーズごとの取り組みを見ながら、制度のバグを直しています」。
 以前のように学生も関わる機会があるか尋ねると、「初期の段階だと、コミュニケーションや笑顔、感動などが地域づくりのやる気アップに繋がるので、このあたりは学生がフィットすると思います。仕組みづくり、体系づくりになると学生が活躍するというより、そこに行って学ぶ側になるでしょうね」という田口先生。フェーズによってマッチングする人材をどうコーディネートするかも、地域づくりの鍵となっているようです。

 

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地域おこしコーディネートゲーム 4セット入り12,000円(税別)。
詳しくは『合同会社暮らしと自治と創造』のホームページをご覧ください。
https://llc-kuraso.com/program

ゲームを楽しみながら様々な状況に対応できる思考を訓練する

 地域づくりはプロを連れてくれば解決する問題ではなく、あくまで自治が重要。そのためにも課題を自覚できるような人材育成、教育、各種研修をどうするかといった取り組みも大切です。高齢化、過疎化が進行していると分かっていても、その地域に住む人全員が問題意識を持っているとは限りません。無関心な人たちをどう巻き込んでいくかも、難しいところ。
 そこで一役買うのが『地域おこしコーディネートゲーム』です。ゲームを通して地域おこしのプロセスを学べるよう作られていて、4〜8名くらいのチームに分かれて行います。
 人口や高齢者の割合など、地域おこしをする架空の集落の状態はひいたカードによって決まります。課題カード、地域資源カード、内部人材カードには「獣害対策が必要」、「民宿がある」といった田舎あるあるが満載。これらをもとに具体的に地方創生のイメージを話し合い、地域づくりのプランを構築していきます。
「課題カードはその裏側にどういう問題があるかを推測するのがポイント。顕在化している課題の水面下には大きな氷山があるので、ブレストしながらその氷山が何かを探っていきます。
 地域に入って解決に向けて動き始める際のキーパーソンとなるのが内部人材カードに書かれている人たち。だいたい地元リーダーとか区長さんなんですけど、この人たちのやる気を引き出し、いかに解決に向かって動いていけるかというプロセスも考えます。
 ゲームではあるんですが、結構リアルな話ができるので、いろんなパターンで思考トレーニングをしていくと、様々な状況にも対応できるようになると思います」。
 このゲームに関心を持った福島県庁の職員の方々に向け、オンラインでの研修を行ったそう。JICA(国際協力機構)の研修でも使えないかという話も出ていて、今後地域づくりを考える際のマストアイテムになるかも!?

 

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地域コーディネートゲームはオンラインでも実施可能。コロナ禍では学部の専門科目などでも
オンラインを取り入れて地域づくりへの学びを深めています。

田口 太郎(たぐち たろう)のプロフィール

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大学院社会産業理工学研究部 社会総合科学域 准教授

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