筋層浸潤性膀胱がんの多段階悪性化の分子機構の解明と新規治療薬開発

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報告者

先端酵素学研究所 ゲノム制御学分野 教授 片桐豊雅

 

研究タイトル

筋層浸潤性膀胱がんの多段階悪性化の分子機構の解明と新規治療薬開発

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 徳島大学先端酵素学研究所ゲノム制御学分野:吉丸哲郎、松下洋輔、小松正人
  • 徳島大学大学院医歯薬学研究部泌尿器科学分野:布川朋也、金山博臣
  • 徳島大学病院泌尿器科:大豆本圭
  • 徳島大学病院病理部:上原久典
  • 国立がん研究センター:尾野雅哉

 

研究概要

【研究の背景】

膀胱がんの約30%を占める筋層以上へ進展した筋層浸潤性膀胱癌の治療は膀胱全摘術が標準ですが、再発率が高いことが問題となっています。特に、転移症例に対しては化学療法が標準治療ですが、その効果は限定されていることや重篤な副作用が深刻な問題となっています。このことから、新規治療法の開発が切望されています。がんゲノムシーケンス解析により、浸潤性膀胱がんにおける多くの遺伝子異常が同定され、その中でも、p53変異を含むp53経路異常やRas変異およびEGFR経路過剰発現異常が多く認められていることが明らかとなっていますが、これらの異常は相互排他的であり、お互いのがん悪性化の過程における関係性は不明でした。

 

【研究の成果】

われわれは、これまでに行ってきた浸潤性膀胱がんを対象とした網羅的遺伝子発現解析に基づき、正常尿路上皮組織と比較して顕著にがん組織で高頻度に発現亢進している核小体タンパク質DDX31(DEAD box polypeptide 31)に着目しました。一方、これまでに、われわれはDDX31は、腎淡明細胞がんにおいても高頻度に発現亢進し、核小体において、シャペロンタンパク質NPM1(Nucleophosmin)と結合して、NPM1の有するHDM2のユビキチン化機能阻害を抑止し、HDM2による野生型p53タンパク質の分解を促進するという、新たな野生型p53の不活化機構を証明していました(Cancer Res 2012;72:5867-5877)。しかしながら、腎細胞がんとは異なり、浸潤性膀胱がん症例では、p53変異を多く認めることが知られており、DDX31の過剰発現による膀胱がんの悪性化には腎細胞がんの場合とは異なるp53の制御機構が存在するという仮説をたてて、DDX31による変異型p53タンパク質の制御について検討しました。その結果、ステージの初期にあたる浸潤性膀胱がん細胞では、DDX31は、核内にて変異型p53と転写因子SP1との複合体を形成することで、変異p53タンパクの持つ転写活性を促進し、その結果、遊走能および浸潤能の亢進を導く機能を有するEPB41L4B遺伝子の転写亢進を導くことがわかりました。興味深いことに、さらにステージの進行した浸潤性膀胱がん細胞においては、DDX31は核内より細胞膜直下に移行して、シャペロン分子nucleolin (NCL)との結合を介してEGFRとの三者複合体を形成して、EGFRを安定化することがわかりました。その結果、EGFRの下流であるがん細胞の増殖シグナルでもあるAktシグナルの活性を導くことで、浸潤性膀胱がんの悪性化を促進していることを明らかにしました(図1)。

特に、治療薬開発の観点から、DDX31-NCL相互作用を標的としたDDX31アミノ酸は配列由来の相互作用阻害ドミナントネガティブペプチド(DDX31-peptide)を開発し、DDX31-NCL複合体の形成阻害によるEGFRの不安定化の誘導を介したAktシグナルの阻害によるin vitroおよびin vivo抗腫瘍効果を証明しました(図2)。

 

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(図1)DDX31/mutp53/EGFRは浸潤性膀胱がんを促進する

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(図2)DDX31-NLC相互作用阻害は浸潤性膀胱がんの増殖を抑える

 

 

今後の展望

以上の成果により、DDX31-NCL相互作用を標的とした筋層浸潤性膀胱がんの新たな治療法の開発の可能性が示唆されました。

 

その他参考となる事項

本研究成果は文部科学省科学研究費補助金の支援のもとで遂行され、国立がん研究センター、徳島大学病院病理部との共同研究によるもので、以下の掲載です。

【Cancer Research】

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