平成22年度徳島大学卒業式・修了式式辞

平成23年3月23日(水曜日)

会場 アスティとくしま

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平成22年度徳島大学卒業式にあたり、めでたく卒業される皆さんに対し心からお祝い申し上げます。

また、多くの御来賓の皆様の御臨席を賜り皆さんの門出をお祝いできることは、徳島大学としても大きな喜びとするところです。また、この日まで卒業生の皆さんの成長を見守り、応援・支援されてきた御家族の皆様方にも、徳島大学を代表してお祝い申し上げます。

皆さんの在学期間中、様々な出来事がありました。この3月11日に起こった東北地方の未曾有の地震・津波による自然災害は大変な衝撃です。さらには新型病原菌による感染症の発生、そして地球温暖化に代表される環境破壊や、戦争などの国際紛争等があります。 その一方でiPS細胞に代表される科学的進歩があり、多くの日本人がノーベル賞を受賞しました。

現在、グローバル化の波がスピードをもって押し寄せ、多くの問題が提起されています。皆さんはこのようなある意味混沌とした世情の中卒業し、社会人としての一歩を踏み出すわけです。

2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生の造語に「井の中の蛙の定義」というものがあります。皆さんはある意味、徳島大学という「井」の中にいたわけです。その「井の中の蛙の定義」というのは「カエルを井戸の外に出してやると、最初は今までと違う世界の存在を認識する。そして二つの違った世界があると思った途端、この先にどんな世界があるかという第三の可能性に気付く」というものです。是非、皆さんは井から出てびっくりするだけでなく、第二、第三、第四の世界があるという可能性に気付く社会人になってください。

次に「社会人基礎力」についてお話しします。

「社会人基礎力」とは、経済産業省によって「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な力」と定義されたものです。すなわち、今まで学んできた「基礎学力」、大学で学んだ「専門学力」に加え、地域社会で活躍する上で必要となる第三の能力のことです。そして社会人基礎力は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の三つの能力で構成されています。

一番目は「前に踏み出す力」(アクション)です。一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力をいいます。実社会の仕事において、答えは一つに決まっておらず、試行錯誤しながら、失敗を恐れず、自ら、一歩前に踏み出す行動が求められています。失敗しても、他者と協力しながら、粘り強く取り組むことが求められる、というものです。すなわち「主体性」「働きかけ力」「実行力」が問われています。

二番目は「考え抜く力」(シンキング)です。疑問を持ち、考え抜く力をいいます。物事を改善していくためには、常に問題意識を持ち課題を発見することが求められます。その上で、その課題を解決するための方法やプロセスについて十分に納得いくまで考え抜くことが必要である、というものです。すなわち「課題発見力」「計画力」「創造力」が問われています。

三番目は「チームで働く力」(チームワーク)です。多様な人とともに、目標に向けて協力する力をいいます。職場や地域社会では、仕事の専門化や細分化が進展しており、個人として、また組織としての付加価値を創り出すためには、多様な人との協働協調が求められるため、自分の意見を的確に伝え、意見や立場の異なるメンバーも尊重した上で、目標に向けともに協力することが必要である、というものです。すなわち「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「情報把握力」「規律性」「ストレスコントロール力」が問われているわけです。

そしてこの三つの力のバランスを保ちながら、徳島大学で学んだ基礎知識、専門知識を活用されるよう願ってやみません。

最後に「国家の品格」の著者で有名な藤原正彦の日本文明を特徴づける価値観について述べた一文を紹介します。それは次のような一文です。

「欧米人が自由とか個人を最も大事なものと考えるのに対し、日本人は秩序とか和の精神を上位においているということができます。日本人は中世の頃から自由とは身勝手とみなしてきたし、個人を尊重すると全体の秩序や平和が失われることを知っていたのです。自分のためより公のために尽くすことのほうが美しいと思っていたのです。従って個人が競争し、自己主張し、少しでも多くの金を得ようとする欧米人のような生き方は美しくない生き方であり、そんな社会より、人々が徳を求めつつ穏やかな心で生きる社会のほうが美しいと考えてきました。」というものです。くしくもこのことは東北地方太平洋沖地震において証明されました。外国のメディアをはじめ、多くの外国の方々から日本人の行動に対し賞讃の声が上がっています。この大混乱の中でコンビニや店等で略奪もおこらず、常に整然と列をくずさず規則を守り行動する姿に感動を覚えるという報告、報道がなされています。

皆さんは、この不安定な情勢の中で社会人としてのスタートを切るわけです。是非「日本人の精神的美学」「品性」を忘れず、徳島大学卒業生として地域でそして世界で御活躍されることを心より祈念して、平成二十三年三月二十三日、徳島大学卒業のお祝いの言葉とします。 最後になりましたが、観測史上最大規模の東北地方太平洋沖地震に被災された皆様に心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲者の方々に深甚なる哀悼の意を表します。懸命の救助および復興活動が続いています。被災地の皆様には一日も早くの復旧を心よりお祈りいたします。

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最終更新日:2011年3月29日

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