平成22年度徳島大学入学式式辞

平成22年4月6日(火曜日)

会場 アスティとくしま

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新入生の皆さんご入学おめでとうございます。また本日ご参列いただきましたご家族や関係の皆様方に対し、徳島大学を代表いたしまして心よりご入学のお祝いとお慶びを申し上げます。

徳島大学は昨年60周年を迎えました。1949年(昭和24年)、現在のほとんどの地方大学が誕生しました。60年の間、様々な出来事がありましたが、平成16年4月から国立大学法人としての再出発は国立大学にとって大きな変革でした。法人化は6年間を1期としており、今年度22年より法人化2期目に入りました。2期目において、国立大学を取り巻く環境は一層厳しさが増すことが予想されていますが、これからの4年間または6年間の大学生活を有意義に過ごし、また楽しんでいただくことを心より願っています。

本日は皆さんに3つのことをお話したいと思います。1番目は「人間力を養い、自分の個性を生かしたキャリアデザインを考える」についてです。

昨今、地球においては温暖化による環境破壊、食糧危機、そしてこれまで倒産することのないと思われていたJAL、GM等の大企業が倒産するような世界同時不況など、我々を取り巻く状況は大変厳しいものがあります。今までのように学歴があれば安心という考えは通用しなくなっています。学歴よりもその人が何を身につけてきたか、どういう人間力を養っているかが問われる時代となっています。

大学生活は高校までの生活とは大きく異なり、学ぶことにおいてはその多様性に対処しなければいけませんし、また体験等は高校時代とは比較にならないほど多くの範囲におよぶものと思います。すなわち色々な意味で大学生活は皆さんの心構えに依存しています。

皆さんが希望と志に燃えて大学生活を送り、自己形成ができる人間力を養ってください。大学から教えられるものだけで満足するのではなく、むしろ「こんなことも教えてほしい」「こんなことはできないか」等、自分を向上させるため、何が必要かを常に考えてほしいと思います。徳島大学は皆さんの希望、志がかなうような教育・研究システムを用意していますし、また用意するつもりです。

今、インターネットをはじめとする情報が氾濫しています。そのような状況の中で大切なことは、情報を選択する意識を持ち、そして選択できる知識、能力を身につけ、情報に惑わされず自分のキャリアデザインを描くことです。言いかえれば、情報に頼ることなく自分の頭の中で自分の志をもとに自分の将来を描くことです。これらのことを大学生活の中で身につけていただきたく思っています。

人はそれぞれ個性を持っていることは誰もが認めるところですが、現在の社会は、ややもすると統一的人間、ある一定の規格人間に育てる環境にあります。他人と違うことに対して、恥ずかしがったり、違和感を覚えたりせず、個性を磨いてください。個性を磨くにあたっては、自分を良く理解し、自分で考えて行動する人間力と倫理観を養うことが重要です。

2番目は、「探究心に基づいた教養的知識と専門的知識の獲得のバランス」についてです。

大学での学問は今までと違い、深い探究心に基づく本当の知識を身につけることにあります。もちろんその知識は倫理、道徳、知性、感性といったものに裏打ちされたものです。絵画の「モナリザの微笑」やフランスにある「ベルサイユ宮殿」を見ても、その歴史や背景を知らないとただの「上手な絵」「きれいな建物」としか思いません。是非、個人個人がそれぞれの探究心に基づく知識を深めてください。

ややもすると専門知識を得ることで一人前と思ったり、あるいは優越感を感じるようになる恐れがあります。すなわち専門教育、実学を学ぶために一生懸命になりすぎ、周りが見えない状態に陥り、いわゆる「専門バカ」と呼ばれるグループに分別されるようになってきます。そのため常に注意が必要です。専門知識は教養的知識に裏打ちされることにより一層磨かれたもの、本物になってくるのです。自分に有用な知識には教養的知識と専門的知識のバランスが大事なのです。

最後の3番目は、「21世紀に身につけるべきコンピテンシー」についてお話します。

OECD(経済協力開発機構)が2003年に発表した「コンピテンシーの定義と選択」の最終報告があります。「コンピテンシー」とは単なる知識や技能だけではなく、態度を含む様々な心理的・社会的リソースを活用して複雑な課題に対応することができる能力をいいます。言いかえれば「価値ある個人的・社会的な成果をもたらす能力」といえます。

具体的には「キー・コンピテンシーの3つのカテゴリーと9つの能力」として整理されています。それは、(1)「言葉や知識を相互作用的に用いる能力」 (2)「社会的に異質な集団で交流する能力」 (3)「自律的に活動する能力」の3つのカテゴリーです。すなわち(1)の「言葉や知識を相互作用的に用いる能力」とは、個人と社会との相互関係に関する能力です。社会や職場において十分な役割を果たすことができて、そして、対話に参画する上で鍵となる能力です。すなわち、情報や知識を双方向に使いこなせること、テクノロジーのイノベーションに対応できることなどのことです。(2)の「社会的に異質な集団で交流する能力」とは、自己と他者との相互関係に関する能力です。知人、同僚などと個人的な関係を作り出し、維持し発展させる能力をいいます。具体的には「共感する力」「感情を効果的にコントロールする力」をいいます。(3)の「自律的に活動する能力」とは、個人の自律性と主体性に関する能力であり、孤独になることではなく、むしろ周囲の環境や社会的な動き、そして自らが果たし、果たそうとしている役割を認識することです。具体的には大局的に行動する能力、人生設計や個人の計画を作り実行する能力。権利、責任を表明する能力をいいます。そして最も大切なことは、これら3つのカテゴリー全体を支えるための基盤、基本能力として、他人の立場に立ち、自らを省みることができる「思慮深さ」が必要とされています。個人が深く考え行動することが重要なのです。

今まで述べたこれらの能力を要求される背景には「変化」「複雑性」「相互依存」に特徴づけられるグローバル社会への対応が、現代社会では要求されているのです。

諸君のこれからの大学生活では教職員をはじめ多くの先輩がサポートしてくれるはずです。入学後、諸君とは会う機会がしばしばあると思いますが、学長としまして4年後あるいは6年後に、豊かな自然に恵まれた徳島で、大きく成長した君たちに卒業式で会えることを楽しみにして、平成22年4月6日、諸君の記念すべき入学式に際してのお祝いの言葉とします。

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最終更新日:2011年3月22日

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