令和5年度 若手研究者学長表彰 研究成果報告
報告者
大学院医歯薬学研究部医学域医科学部門病理系分子病理学分野 講師 松本穣
大学院医歯薬学研究部分子病理学分野
大学院医歯薬学研究部疾患病理学分野
- AIRE illuminates the feature of medullary thymic epithelial cells in thymic carcinoma
Matsumoto M, Ohmura T, Hanibuchi Y, Ichimura-Shimizu M, Saijo Y, Ogawa H, Miyazawa R, Morimoto J, Tsuneyama K, Matsumoto M, Oya T.
Cancer Med. 2023 Apr;12(8):9843-9848. - Aire Controls Heterogeneity of Medullary Thymic Epithelial Cells for the Expression of Self-Antigens
Nishijima H, Matsumoto M, Morimoto J, Hosomichi K, Akiyama N, Akiyama T, Oya T, Tsuneyama K, Yoshida H, Matsumoto M.
J Immunol. 2022 Jan 15;208(2):303-320. - Revisiting Aire and tissue-restricted antigens at single-cell resolution
Matsumoto M, Yoshida H, Tsuneyama K, Oya T, Matsumoto M.
Front Immunol. 2023 May 3;14:1176450.
研究概要
現在、胸腺上皮性腫瘍は病理医による形態観察と、限られた分子の発現によって、胸腺癌と6種類の胸腺腫に分類されています。一方で、胸腺上皮性腫瘍の発生母地となる胸腺上皮細胞(thymic epithelial cell: TEC)は、胸腺内での位置や機能によって皮質上皮細胞(cortical TEC: cTEC)と髄質上皮細胞(medullary TEC: mTEC)に大別されます。胸腺上皮性腫瘍のなかでも、特に胸腺癌という予後不良の一群がcTECとmTECのどちらを発生起源とするか、という基本的な問いはこれまで未解決のままでした。
そこで、本研究ではmTECを最も特徴づける分子の1つであるAIRE(Autoimmune Regulator)に着目しました。AIREはmTECでほぼ特異的に発現しており、胸腺内で様々な自己抗原の発現を誘導することで、自己抗原に強く反応するT細胞の除去にはたらきます。我々はAIREを特異的に認識する抗体を用いることにより、胸腺癌の大部分がAIREを発現していることを見出しました。
このことから、胸腺癌はmTECへの分化を示す腫瘍ではないかと考え、公開データベースに登録されている胸腺上皮性腫瘍の遺伝子発現データを利用し、その可能性を検証しました。近年、mTECはAIRE発現細胞を含む多様な亜集団から構成されることが明らかとなってきています。驚くべきことに、胸腺癌では胸腺腫と比較してcTECに関連した遺伝子の発現が著しく低いのに対し、様々なmTEC亜集団に関連した遺伝子の発現が高いことが分かりました。
以上の結果から、これまで発生起源が不明とされてきた胸腺癌という一群が、mTECに由来するという新たな可能性を提唱しています。
今後の展望(研究者からのコメント)
私は病理医として病理診断の研鑽を積みながら、mTECおよびAIREの基礎研究に取り組むなかで、本研究に着想しました。胸腺上皮性腫瘍の病理診断経験や、胸腺上皮細胞の基礎研究で得た知見、データ解析技術を組み合わせることで、新たな切り口から胸腺上皮性腫瘍の病態に迫りたいと考えています。