最先端研究探訪(とくtalk194号)

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細菌性肺炎の病態形成機構に基づく新規感染制御法を確立

細菌の"足場"となるタンパク質の出現を抑え肺炎予防につなげる

住友倫子

 住友先生は従来の抗ウイルス薬や抗菌薬とはまったく異なるメカニズムで、肺炎の発症を抑える研究を行っています。
 インフルエンザの流行拡大が心配されるこの頃。「インフルエンザをきっかけに、肺炎球菌という細菌や口腔内の細菌による肺炎を合併して亡くなる高齢者もいる」という話を聞いたことがあるのではないでしょうか。
 インフルエンザに罹ることで、気道細胞の表面に細菌を定着しやすくなる"足場"のような役割をするタンパク質が出現し、この"足場"を伝って口や鼻から細菌が体内に侵入しやすくなることが、肺炎を引き起こす原因なのだそう。

 

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"足場"となるタンパク質はGP96というもので、普段は細胞の奥にあるのですが、インフルエンザに感染すると炎症応答のため、細胞の表面へと移動します。これを足がかりに、肺炎球菌などの細菌がGP96を伝って気管から肺へと侵入します。
 インフルエンザも肺炎球菌も感染予防のため、ワクチン接種が行われていますが、中にはワクチンで対応できない型や、タミフルなどの抗ウイルス薬や抗菌薬にも耐性ができて、薬が効きにくいものもあります。
 「肺炎の治療は、細菌やウイルスを殺す方法が主流ですが、私は攻撃を受ける体側に注目した治療を行いたいと思っています。GP96が細胞の表面に出てくるのを抑えることで、病原体の足場をなくし、肺炎を起こすリスクを避けることができると考えている」という住友先生。
 また肺炎で亡くなる97%以上が65歳以上の高齢者であることから、「高齢者は慢性炎症状態にあり、ウイルスに感染していない健康な人でもGP96が気道に多く、口腔内細菌による誤嚥性肺炎に罹りやすい状態にあるのでは?」と仮定。唾液中のGP96の量を測定することで重症化や肺炎のリスクを測る目安にできるのではないかと考えています。
 マウスにGP96の出現を抑える薬を投与したところ、細菌の肺への侵入や肺炎の発症を防ぐことができたという実験結果も出ており、住友先生の研究が新しい治療法や予防法、検査法につながると期待されています。

 

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住友先生は徳島大学工学部生物工学科(現在の生物資源産業学部)で学位を取得し、大阪大学歯学部口腔細菌学教室に教員として15年間勤務。大阪大学に教員として採用される際、研究に加え、授業や実習も行うかなりハードな業務が予想されたため、求められたのは“鉈のような人物”だったそう。「よく切れる刃はポキッと折れてしまうけど、鉈は折れない。当時は女性を採用するのも珍しい時代で、強靭なメンタルと体力をもつ鉈のような人じゃないと務まらないと言われていました」。学生時代、環境微生物の研究を行っていた住友先生は大阪大学で新たに感染症の研究をはじめ、歯学部の教育にも精通していたこともあり、徳大歯学部に教授として着任しました。

住友 倫子(すみとも ともこ)のプロフィール

住友倫子
歯学部 教授

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