赤外線アクティブサーモグラフィによる構造・材料の非破壊検査技術

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令和4年度 若手研究者学長表彰 研究成果報告

報告者

 大学院社会産業理工学研究部材料科学分野 講師 石川真志

研究タイトル
 
 赤外線アクティブサーモグラフィによる構造・材料の非破壊検査技術
 
研究経緯等
 
【研究グループ】
 大学院社会産業理工学研究部理工学域機械科学系非破壊材料計測学研究室
  講師 石川真志
  教授 西野秀郎
 

【研究成果が得られた経緯】
 研究グループは各種の構造・材料の健全性評価に貢献し得る非破壊検査技術の研究に取り組んでおり、赤外線サーモグラフィを利用した検査技術に関する本研究についても、同研究の一環として実施されたものです。非破壊検査技術の中でも赤外線サーモグラフィを用いた手法は、比較的簡便に大面積を検査可能であることが特徴であるとされており、同手法の特徴を利用した効果的な検査技術、検査適用対象に関する各種の検討を実施しています。

【学術誌への掲載状況】
  1. Masashi Ishikawa, Takuto Miura, Hideo Nishino, Takeo Kato and Tetsuya Otsuki,
    Active thermography inspection of CFRP using cyclic heating and Fourier transform - comparison with flash heating method, Advanced Composite Materials, Published online: 05 Nov 2022.
  2. Masashi Ishikawa, Yuya Kawai, Hayato Ishigaki, Kenzo Ogawa and Hideo Nishino,
    Active thermography inspection of residual water in steel pipes: Detection and water height estimation, Nuclear Engineering and Design, Vol.386, 111566, 2021.
  3. Masashi Ishikawa, Masayuki Tsukagoshi, Hideyuki Kasano and Hideo Nishino,
    Influence of composition and surface discoloration of concrete on active thermographic nondestructive inspection, Measurement, Vol.168, 108395, 2020.
  4. 非冷却型マイクロボロメータを検出素子とする赤外線サーモグラフィ装置を用いたアクティブサーモグラフィ法による非破壊検査, センサイトWEBジャーナル 2022年6月号, 2022年6月, http://sensait.jp/21197/

研究概要

 赤外線アクティブサーモグラフィによる非破壊検査では、図1のように検査対象物をヒーター(光学ランプなど)で加熱し、加熱中および加熱後の検査対象物表面の温度分布を赤外線カメラで観察します。この際、内部に空隙や異物の混入などの異常があれば、これにより検査対象物表面から内部方向へ伝わる熱の流れが阻害され、異常部の周辺で局所的な温度変化が生じます。この局所温度変化を赤外線カメラで得られる熱画像より発見して、内部異常を検出する検査手法です。赤外線カメラで得られる画像を基にした検査であることから、カメラの視野範囲の調整、およびヒーターによる加熱範囲の工夫次第では、本手法は小型のサンプルから大面積を有する大型構造物に至るまで、様々な対象物に対する検査適用が期待されます。

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図1 赤外線アクティブサーモグラフィによる非破壊検査の模式図

 例として、図2は建物の外壁面(タイル壁面)にアクティブサーモグラフィによる検査を実施している様子を示しています。ヒーターを走査することで大面積の加熱・検査を試みたものであり、同方法により幅数メートルの壁面の検査も可能であることが確認されています。また、本研究では熱画像(図2(b))による検査だけではなく、位相画像に変換した画像(図2(c))を利用した検査についても検討を行っています。位相画像は、熱画像中の各画素における温度の時間変化データに対してフーリエ変換を行うことで得られる位相値を2次元配列して画像化したものであり、熱画像による検査と比較して、加熱ムラによる検査への悪影響が低減されることや、より深部の異常検出が可能になるなどの利点が得られます。本結果においても、位相画像への変換により内部の様子がより顕著に確認できるようになっています(例えば図2(c)画像中央から右下方向への延びる斜めの線は、タイル背面のモルタル中にあるき裂の存在を示唆するものであると考えられます。また、各所に見える暗く表示されたタイル箇所では、タイル背面に剥離が存在している可能性があります)。このような位相画像変換を含め、画像処理や温度データの処理による検査精度の向上方法の検討も本研究における重要な課題の一つです。

                                                                                                      (a) 14.png
                                    (b) 15.png (c) 17.png
    図2 建物外壁(タイル壁面)に対する検査実験
(a)実験の様子、(b)得られた熱画像の一例、(c)温度データのフーリエ変換により得られた位相画像

 

今後の展望(研究者からのコメント)

 赤外線サーモグラフィを利用した非破壊検査技術は、非接触かつ簡便な検査が可能であるものの、その適用事例は他の検査技術(打音検査や超音波検査、放射線検査など)と比較するとまだまだ少ないです。これは、その検査精度が他の技術と比較して劣ることも一因ではありますが、同時に本技術にどのような利点があり、何が検査できるのかについて、製造現場や検査現場の関係者に十分理解されていない点も理由であると考えられます。検査精度の向上に向けた効果的な検査手法/データ処理法の検討を引き続き進めるとともに、本技術への理解をより深めてもらえるよう、積極的な技術公開や情報提供を行うことが、本技術の今後の有効活用のために重要であると考えます。

お問い合わせ先

研究・産学連携部研究・産学企画課

電話番号:088-615-2318

メールアドレス:kskenkik@tokushima-u.ac.jp

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