最先端研究探訪(とくtalk189号)

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医科歯科連携で、待望の「痛みセンター」開設 徳島に根を張り、地域医療に貢献する

川人伸次
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若手3人(左から)髙田真里菜さん、篠島理さん、西川美佳さん

 

全国的にも珍しい口腔・顔面の痛みにフォーカスしたセンター

麻酔科で手術麻酔、ペインクリニック、緩和医療、救急・集中治療など様々なことを手がけてきたという川人先生。
昨年8月に大学院医歯薬学研究部歯科麻酔科学分野教授に就任後、今年4月から徳島大学病院長補佐として医科歯科連携に一層力を入れ、8月に『徳島大学病院痛みセンター』を開設しました。
「例えば非定型顔面痛や三叉神経痛などに加え、実際に歯は悪くないのに歯が痛い"非歯原性歯痛"といわれる痛みの治療は非常に難しいのですが、徳島大学歯学部には日本口腔顔面痛学会の理事長を務める松香芳三教授を筆頭に多くのエキスパートの先生方が在籍されています。四国で唯一歯学部を有する徳島大学の強みを生かし、協力して治療にあたっています」。
擦り傷、刺し傷、火傷などの急性の痛みは鎮痛薬や神経ブロックなどで治すことができますが、神経の痛みや心理的・社会的要因などが絡んだ痛み、時間が経って治りにくくなった慢性疼痛などは、精神科、神経科、理学療法士、臨床心理士等、多職種で連携して集学的に治療を行うのだとか。
口腔・顔面の痛みにも専門的に対応できる痛みセンターは全国的に珍しく、期待が寄せられています。

 

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痛みセンターの多職種連携図
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基礎研究の図(ニューロン(神経細胞)、アストロサイト(星状膠細胞)、
血管平滑筋細胞から成る神経ー血管カップリング)

麻酔の効用に着目した 基礎研究にも注力

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医局員の集合写真(一人欠席で7名)
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ラット大動脈血管平滑筋の張力測定実験

一般的に麻酔と聞くと、なんとなく恐いイメージがありますが、最近では麻酔薬が狭心症などの治療にも有効な可能性があることがわかってきました。
「麻酔薬には各種臓器の保護作用があります。心臓や血管への影響を最小限にして、更に保護的な役割も果たすといった効果もわかってきているので、そうした良い作用にも注目してもらえたらと思っています」。
川人先生は以前から循環系、特に血管の薬理学や生理学を研究していて、「血管平滑筋や内皮細胞に麻酔薬がどのような影響を及ぼすか」といった研究も行ってきたといいます。今後は歯周病と酸化ストレス・細胞骨格制御、血管機能障害と腸内環境の関係なども研究したいと考えているそう。現在、医局は8名。大学院生など若い先生を中心に臨床研究に加え、基礎研究にも注力しています。

 

臨床研究は血糖値連続モニタリング・コントロールシステム(人工膵臓)を使った周術期の強化インスリン療法も

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臨床研究の図、人工膵臓のコンセプト
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川人先生は生まれも育ちも徳島県。「アメリカへ留学した2年間以外は、ほぼずっと徳島です」といい、徳島に貢献できることといえば…と教えてくださったのは、糖尿病に関する取り組みについて。
徳島県は平成5年~平成18年の14年連続で「糖尿病死亡率全国ワースト1位」となったことをきっかけに、平成17年、県医師会と共同で「糖尿病緊急事態宣言」を行い、注意喚起を行ってきました。しかし直近のデータをみても令和元年は全国ワースト1位、令和2年はワースト5位と依然、糖尿病死亡率の高い状態が続いています。
「私のもう一つの専門は体外循環・人工臓器です。コロナ禍で話題となったECMO(人工肺とポンプを用いた体外循環回路による治療)など、呼吸・循環・代謝などを補助する機器にも興味をもっていて、糖尿病患者さんの診断と治療に使う人工膵臓も扱っています。
人工膵臓は、血糖値を連続モニターして、それに応じてインスリンとグルコースが自動注入されて、血糖値を全自動で補正します。手術中と手術が終わってからも使います。徳島県は糖尿病の患者さんが非常に多いので、この分野の研究をさらに進め、糖尿病患者さんの予後改善に少しでも貢献できたら、と思います」。
専門性をいかし、地域に根ざした医療に取り組んでこられた川人先生。11月には『麻酔科医のための体外循環の知識(克誠堂出版)』を上梓されるそうなので、こちらもぜひご覧ください。

 

川人 伸次(かわひとしんじ)のプロフィール

川人伸次
病院 病院長補佐(医歯連携担当)

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