最先端研究探訪(とくtalk186号)

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昆虫食のイメージを一新環境にやさしくサステイナブルな食用コオロギを研究

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渡邉先生。学生として徳島大学に在籍中からコオロギ研究を続け、生物資源産業学部の誕生をきっかけに、雑食で飼育しやすく、味も
いいフタホシコオロギの研究に取り組んでいます。

昆虫食におけるエポックメーキングコオロギせんべい発売の衝撃

 皆さん、「コオロギせんべい」、食べたことありますか?その名の通り、コオロギのパウダーの入ったせんべいで、味はほぼえびせんです。
 2020年5月、『無印良品』のオンラインショップで発売されるやいなや即日完売し、その後実店舗でも販売が始まりましたが、現在(2021年11月時点)でも徳島市にある『無印良品 アミコ東館』では「お一人様3個まで」という購入制限がかかるほどの人気ぶりです。
 イナゴや蜂の子など、これまでキワモノ扱いされていた昆虫食が抵抗なく世間に受け入れられたのは、「コオロギせんべい」とともに発信された「地球に優しいサステイナブルなたんぱく源」というメッセージによるところが大きいのではないでしょうか。2020年の「コオロギせんべい」発売により、昆虫食に対するイメージはアップデートされ、未来の食糧問題についても考えるきっかけを与えてくれました。

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「コオロギせんべい」。現在に至る昆虫食ブームの発端といわれるのが、
2013年に国連食糧農業機構(FAO)が発表した報告書。
その中で2050年、世界の人口は90億人に達すると予測され、
食糧不足解消のため、昆虫食が推奨。
牛や豚などに代わる新たなたんぱく源として昆虫食が注目されています。

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石井町にある実験室。プラスチックの衣装ケースがズ
ラリと並び、中にはコオロギがいっぱい!蓋はされていな
かったのですが、コオロギはプラスチックの壁を登ること
ができないので、逃げることはないのだとか。

食用コオロギは環境負荷の低いたんぱく源

 『とくtalk』をご覧の皆さんはすでにご存じと思いますが、この「コオロギせんべい」、『無印良品』を展開する『株式会社良品計画』と食用コオロギの研究を行っている徳島大学が協業して開発した商品です。
 2016年、生物資源産業学部が設立されたことを機に、渡邉先生は産業化を見据えた食用コオロギの研究を本格的に開始します。昆虫食が日常的なものとなるよう、食用コオロギの安定供給を目的とした大規模飼育を可能にする自動飼育装置の開発を目指したクラウドファンディングに挑戦。「牛や豚、ニワトリなどの家畜と比較し、飼育に必要な水や餌の量も少なく、温室効果ガスの排出も少ない昆虫食は、環境負荷の低いたんぱく源」と呼びかけ、見事目標額を達成しました。
 クラウドファンディングを行ったことで徳島大学が食用コオロギの研究をしていることが広まり、企業からの問い合わせが増えたそう。しかしそのほとんどが情報収集に止まり、商品化には繋がりませんでした。回り込みを解除します。

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研究室のみなさん。実験中、コオロギが服についてもすぐに分か
るよう、コオロギの世話をするときは白衣を着用します。


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紙製の玉子トレーがコオロギの住み家。フタホシコオロギは食品
の残渣を食べて育つので、食品ロスの問題にも役立つと考えられ
ています。残渣の種類もいろいろ変えて実験しています。


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実験したコオロギを観察しているところ。コオロギは脱皮を繰り返し、
約1カ月で成虫になるそうです。

商品からバックキャスティングで研究に繋げる

 研究と並行し、自分たちの手で商品化を進めるため2019年、食用コオロギの養殖から、商品販売を手掛ける大学発のベンチャー『グリラス』を立ち上げた渡邉先生。現在、『グリラス』では食用コオロギをパウダー状にして使用したクッキーやクランチ、カレー、パンを『C.TRIA(シートリア)』のブランド名で販売しています。商品化が実現したことで、商品に必要な研究は何かをバックキャスティングで考えて、研究開発を行い、大学で得た技術や知見を『グリラス』で活用するというサイクルで進行しています。
 「今、世界中いろんなところで新たなたんぱく源として昆虫が注目されていますが、その中でより有望な昆虫がコオロギと言われていて、そのコオロギの中でより大型で飼いやすいと我々が注目しているのがフタホシコオロギです。そのフタホシコオロギをゲノム編集技術を使って、品種改良していこうとしています」。
 例えば…と教えていただいたのが、コオロギを一定の空間で飼育すると共食いし、生産性が落ちるのですが、共食いしない形質への品種改良も考えられるのだとか。そのためにはどういう遺伝子が関わっているかといったことを調べて、より短期間で狙った品種改良を行うために、ゲノム編集技術を活用しています。
 これまでの品種改良技術では、コオロギを品種改良するには一般的にどんなに短くても4年〜5年かかると考えられるそうですが、品種改良したい形質にかかわる遺伝子の機能が確定しているものであれば、ゲノム編集技術を活用することで半年くらいで実現できるケスもあるといいます。
 そう聞いて「遺伝子さえ分かればすぐに出来るんだ」と思ったら大間違い。遺伝子はちょっと解析すれば機能が簡単に分かるものではなく、遺伝子の機能を解析する技術も必要で、それを下支えするのが基礎研究です。
 徳島大学にはコオロギに関して、野地学長の時代から約30年続く基礎研究があることが強み。コオロギの食用化も基礎研究から生まれたアイデアのひとつです。
 これほど長く研究が行われていても、このように商品化されるまで「徳大でコオロギの研究をしていたなんて!」と初めて知った人も多いのではないでしょうか。
 「我々の研究だけに限らず、大学でどんな研究が行われているか知らないのはもったいない」という渡邉先生。
 研究の詳細は分からなくても、関心をもつことで、何か面白い発見や気付きがあるかも。食用コオロギもまだ食べたことがない人は、ぜひトライして、研究成果を味わってみてください。

渡邉 崇人 (わたなべ たかひと)のプロフィール

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バイオイノベーション研究所 助教

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