歯周病の原因菌であるフゾバクテリウムが口腔がんの進展を促進する

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令和3年度 研究成果報告

 

著者名

Wenhua Shao1,*, Natsumi Fujiwara2,*, Yasuhiro Mouri1, Satoru Kisoda1, Kayo Yoshida2, Kaya Yoshida3, 
Hiromichi Yumoto4, Kazumi Ozaki2, Naozumi Ishimaru5, and Yasusei Kudo1
(Wenhua Shao, 藤原 奈津美, 毛利 安宏, 木曽田 暁, 吉田 佳世, 吉田 賀弥, 湯本 浩通, 尾崎 和美, 石丸 直澄, 工藤 保誠)
1.    徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔生命科学分野
2.    徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔保健支援学分野
3.    徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔保健教育学分野
4.    徳島大学大学院 医歯薬学研究部 歯周歯内治療学分野
5.    徳島大学大学院 医歯薬学研究部 口腔分子病態学分野
*共同第一著者

論文タイトル

Conversion from epithelial to partial-EMT phenotype by Fusobacterium nucleatum infection promotes invasion of oral cancer cells.
( フソバクテリウム・ヌクレアタム感染による上皮性からpartial EMT表現型への変換は、口腔癌細胞の浸潤を促進する) 

掲載雑誌
 Scientific Reports
 
研究概要

 徳島大学大学院医歯薬学研究部のShao Wenhua 大学院生、木曽田 暁 大学院生、毛利 安宏 講師、工藤 保誠 教授(口腔生命科学分野)、藤原 奈津美 助教、吉田 佳世 大学院生、尾崎 和美 教授(口腔保健支援学分野)、吉田 賀弥 准教授(口腔保健教育学分野)、湯本 浩通 教授(歯周歯内治療学分野)、石丸 直澄 教授(口腔分子病態学分野)の研究グループは、口腔内に存在する歯周病原因菌であるフゾバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)が口腔がんの進行に関与することを明らかにしました。
 口腔がんは、舌や歯肉などの粘膜に発生するがんで、超高齢社会を迎えた我が国ではその発生率が増加しています。口腔がんは侵襲性が高く、再発やリンパ節転移を起こしやすいのが特徴で、審美的な問題や会話や食事などの機能的な問題を抱えています。 F. nucleatumは口腔に存在する細菌で、歯周病の原因となる細菌の1つです。近年では、大腸がんや食道がんでF. nucleatumが検出され、悪性度や死亡率に関わることが報告されています。口腔がん組織中にも多量のF. nucleatumが検出されることは知られていましたが、その詳細や口腔がんに対する影響は明らかにされていませんでした。

  がんの悪性化に深く関わる現象の一つに上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition, 以下EMT)があります。これは、皮膚や粘膜などを覆う上皮細胞が、細胞の形や細胞同士の細胞接着性を失い、結合組織などを構成する間葉系細胞の性質を獲得し、運動能や浸潤能を活性化する可逆的なプロセスです。EMTは、初期発生における様々な形態形成で重要な役割を果たしますが、がん細胞がEMTの性質を獲得すると、運動能や浸潤能を活性化することにより浸潤・転移しやすくなります。 さらに、最近では、完全にEMTを起こしたがん細胞ではなく、不完全なEMT(Partial EMT)をおこしたがん細胞が上皮系の性質と間葉系の性質の両方を兼ね備え、高い浸潤・転移能を示すことが報告されています。

 本研究では、口腔がん細胞におけるF. nucleatum感染がEMTやPartial EMT誘導を含めて、どのような影響を及ぼすかを検討しました。実験モデルとして、上皮の性質を保った口腔がん細胞、Partial EMTの性質を持つ口腔がん細胞、EMTの性質をもつ口腔がん細胞を用いました。 F. nucleatum感染は、口腔がん細胞の形態変化や細胞増殖には影響しなかったものの、上皮の性質を保った口腔がん細胞では、Partial EMTの誘導に関わる遺伝子群の発現を有意に上昇させました。この現象は、すでにPartial EMTやEMTの性質をもった口腔がん細胞では認められませんでした。 興味深いことに、F. nucleatumを感染させ、Partial EMTに関わる遺伝子群の発現が上昇した口腔がん細胞は、非感染細胞に比べて浸潤能が有意に上昇しました。 また、この現象は、生きた細菌のみならず、熱処理した死菌でも同様の結果をもたらしました。さらに、口腔内に存在する他の細菌感染では上述のような結果は得られなかったことから、F. nucleatum感染に特異的な現象と考えられました。口腔がん細胞におけるF. nucleatum感染は、Partial EMTに関わる遺伝子群の発現を誘導することにより浸潤能を高め、がんの進行に関与していることを解明しました。本成果をもとに、今後はF. nucleatumの口腔がんの悪性化に関わる病原因子を特定し、治療への応用が期待されます。
 

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 本研究成果は、口腔内細菌が口腔がんの進行に関わることの科学的根拠(エビデンス)となります。日常動作である口腔清掃(ブラッシングやうがい)による口腔内細菌の除去および細菌コントロールの重要性や、口腔がん予防のための歯周病治療や定期的な歯科検診の重要性を科学的にサポートする報告です。
 本研究は,日本学術振興会科学研究費助成事業の支援を受けて実施されました。

 本研究成果は、2021年7月22日に英国の科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。
 

 

お問い合わせ先

【研究内容に関すること】
部局名  :徳島大学医歯薬学研究部口腔生命科学
責任者  :工藤 保誠
電話番号 :088-633-7325
メールアドレス: yasusei@tokushima-u.ac.jp
【その他本件に関すること】
部局名  :歯学部事務課総務係
電話番号 :088-633-7302
メールアドレス: isysoumu2k@tokushima-u.ac.jp

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