筋萎縮ゼロプロジェクト;低周波治療器による筋萎縮の予防に期待

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徳島大学病院集中治療部 中西信人助教は、重症患者の筋萎縮予防に関する研究を米国集中治療医学会雑誌「Critical Care Medicine」から出版しました。この研究では低周波治療器(Electrical muscle stimulation: EMS)を用いて筋萎縮が予防可能か研究しました。

ポイント 
 ▶筋萎縮ゼロプロジェクトの一環として行っている研究である。
 ▶低周波治療器が重症患者さんの筋萎縮予防・筋肉分解抑制に有効であることを証明した。
 ▶下肢のみでなく上肢の筋肉の筋萎縮を予防することで病院の入院日数が短縮した。

発表概要
 低周波治療器(神経筋電気刺激療法)による重症患者さんの急性期の筋萎縮を予防することが可能である。下肢のみでなく、上肢にも低周波治療器を用いることで病院入院日数が短縮することを世界で初めて報告した。

発表内容
 ICU入室患者に対する早期リハビリテーションの有効性は広く知られている。しかし、重症患者では早期リハビリテーションが困難なことも多い。低周波治療器(神経筋電気刺激療法:EMS [electrical muscle stimulation])は患者の随意努力を必要とせず、電気刺激により他動的に筋収縮を誘発する。我々はICU入室急性期から両側上下肢へのEMS使用が患者の筋肉量・身体機能や、離床レベルに与える影響を調査した。人工呼吸管理48時間以上およびICU滞在5日以上が予測される成人患者を対象にランダム化比較試験を行った。EMS群では低周波治療器(ソリウス:ミナト医科学)を用いて入室1日目から5日目に両側の上腕と大腿に電極を貼付して1日1回30分間EMSを使用した。
 対照群ではEMSは使用せず通常のリハビリテーションのみ行った。入室時より上腕、大腿の筋厚と筋断面積を超音波で評価した。主要評価項目は入室5日目の筋肉量を1日目と比較した変化率とした。副次評価項目は5日目の筋力(Medical research council: MRCスコア)、ICU獲得筋力低下(ICU-acquired weakness: ICU-AW)発症率、退室時の離床レベル(Intensive care unit mobility scale: IMS)とした。対象患者は42人で除外された方を除くとEMS群17人、対象群19人だった。EMS群と対照群で上肢筋厚は5日目の減少率が-1.9% vs. -11.2%, p=0.007、下肢筋厚は-0.9% vs. -14.7%, p=0.003とEMS群で有意に少なかった。上肢筋断面積の減少率は-2.7% vs. -10.0%, p=0.03、下肢筋断面積は-1.7% vs. -10.4%, p=0.04とEMS群で有意に少なかった。EMS使用群で病院滞在期間が短縮した(23日 vs. 40日)。また血中のアミノ酸を測定するとEMS使用群で筋肉の崩壊を反映する分岐鎖アミノ酸の値が低値であった(入室3日目:40.5% vs 71.5%, p =0.04)。

【結論】重症患者の急性期からの上下肢へのEMS使用は上下肢筋肉量の維持に有効であった。また上下肢へのEMSが重症患者の蛋白分解を抑制して入院期間を短縮した。

発表雑誌
 雑誌名:Critical Care Medicine
 論文タイト:Effect of electrical muscle stimulation on upper and lower limb muscles in
critically ill patients: A two-center randomized controlled trial
 著者: Nobuto Nakanishi, Jun Oto, Rie Tsutsumi, Tomoko Yamamoto, Yoshitoyo Ueno,  Emiko Nakataki, Taiga Itagaki, Hiroshi Sakaue, Masaji Nishimura
 DOI番号:10.1097/CCM.0000000000004522

【問い合わせ先】
 (1) 所属 :徳島大学病院救急集中治療部
 (2) 氏名 :中西 信人 
 (3) 電話番号 :088-633-9347
 (4) メールアドレス :nobuto_nakanishi@yahoo.co.jp

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