骨形成と脂肪細胞分化の両方を調節する重要な因子を解明

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報告者

徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔保健教育学分野 講師 吉田 賀弥

 

研究タイトル

骨形成と脂肪細胞分化の両方を調節する重要な因子を解明

 

研究経緯等

【研究グループ】

  • 徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔保健教育学分野 吉田 賀弥
  • 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 口腔形態学分野 岡村裕彦、池亀美華、内部健太

 

【学術誌等への掲載状況】

Reduction of protein phosphatase 2A Cα promotes in vivo bone formation and adipocyte differentiation.

Kaya Yoshida, Jumpei Teramachi, Kenta Uchibe, Mika Ikegame, Lihong Qiu, Di Yang*, Hirohiko Okamura*. (*corresponding author)

Molecular and Cellular Endocrinology, in press

(DOI: org/10.1016/j.mce.2017.11.005)

 

研究概要

【本研究成果の概要】

我々の研究グループは、骨芽細胞で特異的にPP2Aの活性を抑制した遺伝子改変マウスを作製することに成功しました。マイクロCTや組織学的手法を用いて、骨の形態や骨髄内の脂肪量の変化を解析しました。

その結果、骨形成および脂肪細胞の分化における骨芽細胞のPP2Aの役割が明らかになりました。本研究は、骨および脂肪形成に関わる新たな機序を解明するという学術的な成果であるとともに、高齢化にともなう骨粗鬆症や骨髄の脂肪化を抑制するための予防法開発に寄与すると考えられます。

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【本研究成果の背景】

骨は骨格運動系の中心であるだけでなく、カルシウム代謝や造血幹細胞の維持・分化など多様な役割を担っています。つまり、骨の恒常性は局所の硬組織疾患だけでなく、全身の代謝・循環器疾患にも影響を与える重要な要素と考えられます。細胞の分化・機能は蛋白質のリン酸化・脱リン酸化により厳密にコントロールされています。このうち、蛋白質の脱リン酸化に関わる酵素の一つが「PP2A」であり、触媒サブユニットPP2A Cα を中心に多種類の調節サブユニットが会合し、さまざまな細胞内外の現象を制御しています。PP2Aを欠失したマウスは間葉系組織の形成不全により出生に至らないため、間葉系細胞の発生・分化におけるPP2Aの役割はよく分かっていませんでした。我々は骨芽細胞と脂肪細胞におけるPP2Aの役割について、PP2Aの活性を抑制した培養細胞やトランスジェニックマウスを用いて解析を行ってきました。

本研究では、個体の硬組織形成における骨芽細胞のPP2Aの役割について解析するために、骨芽細胞を特異的にPP2Aの活性を抑制した遺伝子改変マウスを作製し、解析を行いました。

【本研究成果の結果】

  • 骨芽細胞で特異的にPP2Aの活性を抑制した遺伝子改変マウスを作製した。
  • マイクロCT解析の結果、このマウスでは、骨量・骨密度が高く、骨髄内の脂肪組織の量も増加していた。
  • 共培養実験の結果、PP2Aの活性を抑制した骨芽細胞は、間葉系幹細胞から脂肪細胞への分化を促進した。
  • 骨芽細胞のPP2Aは、骨芽細胞の分化と骨形成を調節するだけでなく、脂肪細胞の分化を制御する重要な因子であること示す成果である。

 

今後の展望(研究者からのコメント)

世界に例のない超高齢化時代を迎えた日本では、健康で豊かな生活を維持するために骨粗鬆症、関節リウマチや歯周病といった骨に関連する疾患の克服は重要な課題となっています。骨の恒常性を維持する細胞は主として骨芽細胞および骨細胞(骨の形成と維持)と破骨細胞(骨吸収)です。これまで、個々の細胞の分化や機能の制御機構について分子生物学および遺伝子改変マウスを用いた手法によって飛躍的に解明されてきました。近年、骨芽細胞は、骨形成に関与するだけでなく、他の間葉系細胞および血球系細胞の分化や機能を制御することが明らかになってきました。そのため、骨芽細胞と周囲の細胞との相互関係を明らかにすることは、これまで骨と直接関連のなかった生理的現象や病態を新たな視点から解明することにつながると考えられます。

本研究成果は、骨芽細胞の分化と骨形成および脂肪細胞の分化にも関与する因子として新たにPP2Aの役割を見出したものであり、骨芽細胞と周囲の細胞との相互関係に関わる機構の解明に向けて重要な知見を提供することになります。

 

その他参考となる事項

【補足・用語説明】

  • 1.骨芽細胞
    • 骨をつくるための材料を作り出す細胞。年齢とともに働きが弱くなると考えられる。脂肪細胞と同じ起源をもつほか、骨を壊す破骨細胞の分化を調節するなど、骨形成以外の働きをもっている。
  • 2.蛋白質脱リン酸化酵素
    • 骨をつくるための材料を作り出す細胞。年齢とともに働きが弱くなると考えられる。脂肪細胞と同じ起源をもつほか、骨を壊す破骨細胞の分化を調節するなど、骨形成以外の働きをもっている。
  • 3.骨髄
    • 骨の中に存在し、白血球など血液中の細胞をつくる組織。高齢化によって脂肪に置き換わることで、免疫力の低下などにつながると考えられている。

 

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