最先端研究探訪(とくtalk167号 平成29年4月号より)

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ゲノムからエピゲノムへ生命探求の旅は果てしなく

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通常の遺伝学では解明できない現象を解明
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顕微鏡観察は毎日欠かせない。

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全ての細胞のもとになるES細胞

立花先生の研究テーマはいくつかありますが、その中で今回紹介するのは「エピジェネティクス」の最先端研究です。DNA(遺伝子)の配列情報を「ゲノム」と呼びますが、このDNAに刻まれた"しるし"を「エピゲノム」と呼びます。

私たちの体は細胞からできています。細胞核の中にDNAがあり、どの細胞も同じ遺伝子情報を持っているのに、いくつもの種類の細胞が存在するのはなぜなのでしょうか?

それぞれの細胞には、遺伝子の使われ方のマニュアルがあります。遺伝子をカタログに例えるとします。それぞれの細胞は膨大なカタログの中から、必要なページを探し、その情報をもとに細胞の部品を組み立てていきます。このとき必要なページに付箋を付けておけば、つぎにまた同じ細胞を作るときに素早く組み立てられますよね? ページを「ゲノム」とすると、そこに付いた付箋が「エピゲノム」です。少し複雑になりますが、付箋にも色々な種類があるのです。例えば、組み立てに必要なページと、組み立てに使ってはいけないページには別の種類の付箋が付きます。どのページにどのような種類の付箋を付けるのか、それが「エピジェネティクス」です。私たちの体は200種類の細胞からできていると言われますが、それぞれの細胞で付箋が付いているページが違っているのです。

エピジェネティクスの一番の特徴は可逆的であること、つまりカタログにつけた付箋はあとで外すことができるのです。最近の研究によって、付箋が間違って付いてしまうことが、様々な疾患の発症に関わっていることが分かってきました。

 

 

修飾酵素によるタンパク質のメチル化

エピジェネティクスをうまく説明する一般的な例は一卵性双生児でしょうか。一卵性双生児は全く同じDNAを持っていますが、成長とともに性格や体格などが違ってくるようなことです。これは成長とともに、付箋が付く場所が兄弟(姉妹)で徐々に異なってくるからだ、とも考えられています。

ガンや、今号の「研究室へようこそ」の記事にもあるように、遺伝子に依らない糖尿病の増加などは付箋が間違って付いてしまうことによるものかもしれないと考えられています。

立花先生は、DNAを核の中に巻き取っているヒストンというタンパク質をメチル化(メチル基と呼ばれるものを結合させることで、分子の形を変えること)することで、染色体(DNAとそれを取り巻くタンパク質)に"しるし"(=付箋)を付ける酵素の研究をしています。この研究には遺伝子操作を加えたマウスを使用します。

ある種の病気で"しるし"がどうして間違って付いてしまうのか、このメカニズムはまだ詳しくはわかっておらず、多くの研究者が解明に取り組んでいます。これを解明、制御できたら様々な病気の治癒や予防に役立ちます。ただ、遺伝子に間違った"しるし"が付くことで病気になるのか、あるいは病気になった結果として遺伝子に間違った"しるし"が付くのか。そのあたりは微妙で、まだまだ奥が深いものです。

ヒストンのメチル化は高等生物の主要な「エピジェネティック制御」のひとつです。

"しるし"をつける酵素の働きを変えてやれば、遺伝子を本来の正常な働きに戻すことできることが期待されます。この間違った"しるし"を正しく戻す薬の開発は、「エピジェネティック創薬」と呼ばれ、今後の医療分野において重要な役目を果たすと期待されています。

 

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実験室の風景

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ゲノムに刻まれた"しるし"エピゲノムを可視化する。

 

 

最先端の研究を多くの学生に知ってほしい

東京大学農学部、東京大学大学院農学生命科学研究科を経て、企業に就職。その後、再び研究に戻り、京都大学ウイルス研究所から徳島大学へ。

徳島に来るにあたり、高松出身の京大の先輩から、徳島に行くならぜひ海釣りを、とのアドバイス。「もともと海釣りは好きだったんですが、京都は山に囲まれていますから(笑)。でもこちらに来てまた始めたら、本当にいいところですね」という立花先生。「私たちの研究は長い道のりですが、今もっとも期待・注目されている研究の一つでもあります。ぜひ学生の皆さんに興味を持っていただいて、私の研究の後を継いでほしいです」と期待を寄せています。

 

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エピゲノム制御はさまざまな生命現象に密接に関わる。

 

 

立花 誠 (たちばな まこと)のプロフィール

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  • 先端酵素学研究所
  • 次世代酵素学研究領域
  • エピゲノム動態学分野 教授

 

[取材] 167号(平成29年4月号より)

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