ヒト乳歯歯髄幹細胞が分泌する新規M2マクロファージ誘導因子を用いた難治性肝疾患治療法の開発

トップ記事ヒト乳歯歯髄幹細胞が分泌する新規M2マクロファージ誘導因子を用いた難治性肝疾患治療法の開発
報告者

大学院医歯薬学研究部口腔組織学分野(平成29年4月1日から「組織再生制御学」に名称変更予定) 教授 山本 朗仁

 

研究タイトル

ヒト乳歯歯髄幹細胞が分泌する新規M2マクロファージ誘導因子を用いた難治性肝疾患治療法の開発

 

研究グループ
  • 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学 伊藤 隆徳
  • 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学 石上 雅敏
  • 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学 廣岡 芳樹
  • 名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学 後藤 秀実
  • 名古屋大学院医学系研究科医療技術学専攻 石川 哲也
  • 名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学/咀嚼障害制御学 松下 嘉泰
  • 名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学/咀嚼障害制御学 平田 真里奈
  • 名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学/咀嚼障害制御学 松原 弘記
  • 名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学/咀嚼障害制御学 日比 英晴
  • 名古屋大学大学院医学系研究科顎顔面外科学/咀嚼障害制御学 上田 実

 

研究経緯等

劇症肝炎は肝炎ウイルス、薬物、自己免疫肝炎などが原因となり短期間で肝臓に広範な壊死が起こり肝不全などの他臓器不全により死に至る極めて予後不良な疾患です。劇症肝炎に対しては原因の検索・治療とともに血液浄化療法を含む対症療法を行いますが、病態が進行した場合は肝移植以外に治療法がないのが現状です。しかしながら肝移植療法はドナー不足の問題もあり劇症肝炎に対する代替治療法の開発が急務であると考えられます。近年、幹細胞やiPS細胞等を用いた再生医学による劇症肝炎の治療が期待されていますが、倫理的な問題や移植細胞の安定性、拒絶の危険性などの諸問題が存在します。

本研究グループは2015年に劇症肝炎ラットモデルに対して乳歯歯髄幹細胞の培養上清を投与すると、抗炎症作用や肝再生促進作用により予後が回復することを報告しています。しかし、幹細胞上清内に含まれる多数の液性因子群のうち、どの因子が治療効果に寄与しているかは不明のままでした。一方、研究グループは歯髄幹細胞培養上清から、MCP-1とsSiglec-9で構成される抗炎症性M2マクロファージ誘導因子を世界に先駆け同定しました。本研究ではMCP-1/sSiglec-9の劇症肝炎治療効果を解析しました。

 

研究概要

本研究グループは、国際的に汎用されているD-Gal誘導劇症肝炎ラットモデルを用いました。本モデルではD-Gal腹腔内投与後4日目までに多くのラットが肝不全のため死に至り、生存率は30%程度です。D-Gal投与後24時間で肝臓破壊を確認したのち、MCP-1とsSiglec-9を混合して単回静脈内投与しました。すると肝障害が著しく改善し予後が大幅に延長しました。生存率は90%以上に改善しました。リアルタイムPCR、蛍光免疫染色を用いた検討ではMCP-1/sSiglec-9治療は肝内マクロファージを炎症性M1型から抗炎症性M2型マクロファージへシフトさせることで肝細胞のアポトーシスを抑制し、増殖を促し、肝再生を促進したと考えられました。更にin vitroにおいてMCP-1/sSiglec-9にて誘導したM2型骨髄マクロファージ培養上清が、初代培養肝細胞のアポトーシスによる細胞死を抑制し、増殖を促すことも見出しました。生体の自己組織再生能力を引き出す新しいM2型マクロファージ誘導因子である MCP-1/sSiglec-9は劇症肝炎の有望な治療薬となり得る可能性が示唆されました。 本研究成果は、英国雑誌「Scientific Reports」(英国時間 2017年3月8日付けの電子版)に掲載されました。

 

IMG_1.png

 

今後の展望(研究者からのコメント)

ヒト乳歯歯髄幹細胞の細胞培養液、およびMCP-1/sSiglec-9の製剤化を目指し開発研究を継続します。さらに様々な消化器疾患への治療効果を検証します。

 

その他参考となる事項

マクロファージ: 大食細胞、貪食細胞とも呼ばれる免疫担当細胞の一種。主な機能として、生体内に侵入した異物を捉え、捕食し、その免疫情報をリンパ球に伝える。さらに、炎症性物質の産生により炎症反応を惹起する。近年、炎症促進型マクロファージ(M1型)に加え、抗炎症性・組織修復マクロファージ(M2型)の生理機能や疾患における多彩な機能が注目されている。

  • MCP-1;monocyte chemoattractant protein-1。炎症組織へマクロファージを誘導するケモカインの一種。
  • Siglec-9;Sialic acid-binding immunoglobulin-type lectins-9。様々な免疫系細胞表面に発現している膜型受容体の一つ。

 

発表雑誌

Takanori Ito, Masatoshi Ishigami, Yoshihiro Matsushita, Marina Hirata, Kohki Matsubara, Tetsuya Ishikawa, Hideharu Hibi, Minoru Ueda, Yoshiki Hirooka, Hidemi Goto, Akihito Yamamoto. Secreted Ectodomain of SIGLEC-9 and MCP-1 Synergistically Improve Acute Liver Failure in Rats by Altering Macrophage Polarity. Scientific Reports

(2017年3月8日付けの電子版に掲載)

 

カテゴリー

閲覧履歴