1分子の構造変化による細胞集団運動の制御 -異分野領域融合研究により高次細胞機能の謎を解く-

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報告者

大学院医歯薬学研究部生化学分野 教授 佐々木卓也

 

研究タイトル

1分子の構造変化による細胞集団運動の制御 -異分野領域融合研究により高次細胞機能の謎を解く-

 

研究経緯等

徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門生化学分野の佐々木卓也教授、坂根亜由子助教は、同大学院特定研究部門光イメージング研究分野(堀川一樹教授)、同大学院医科学部門人類遺伝学分野(井本逸勢教授)、理化学研究所光量子工学研究領域画像情報処理研究チーム(横田秀夫チームリーダー、吉澤信上級研究員、西村将臣テクニカルスタッフⅠ)、医薬基盤・健康・栄養研究所バイオインフォマティクスプロジェクト(水口賢司プロジェクトリーダー、土屋裕子研究員[現大阪大学蛋白質研究所助教])、大阪大学大学院基礎工学研究科生体計測学講座(出口真次教授)、北海道大学大学院先端生命科学研究院細胞ダイナミクス科学研究室(芳賀永教授)の異分野領域の研究グループとの共同研究により、JRABという1分子の構造変化に着目し、細胞集団運動の制御機構を解明しました。

本研究は、米国の科学雑誌『Molecular Biology of the Cell』(10月15日号)に掲載されました。

 

研究概要、今後の展望

複数の細胞からなる細胞集団の運動は、胎生期の組織・器官形成の過程だけでなく、創傷治癒やがん転移などでも広くみられる現象です。細胞集団の動きは複雑なことから、これまでは多数の分子が関与すると予想されていました。しかし、共同研究グループは、低分子量Gタンパク質Rab13の標的タンパク質として発見されたJRABというたった1分子の構造変化に着目して、細胞集団運動の制御機構を解明しようと試みました。

まず、バイオインフォマティクス(生命情報学)と生化学的実験を組み合わせることで、JRABのRab13との結合による構造変化モデルを示しました。また、JRABの野生型や構造変異体(open formとclosed form)を発現させた3種類の細胞集団の動きの異なった特徴をライブイメージング像の時空間ボリュームレンダリングによる解析で抽出・可視化に成功しました。さらに、オプティカルフローと主成分分析を組み合わせ、画像の輝度変化に強い手法を開発し、従来法では困難だった細胞集団の動きの計算と膨大な情報の定量的な解析を実現しました。その結果、構造を自由に変化できる野生型のJRABは、open formやclosed form変異体と比較して最も効率の良い細胞集団の動きを可能にしていることを証明しました。また、開発したバイオメカニクス(生体力学)の手法を用いた解析ではclosed form のJRABが細胞集団の先頭の一部で集団を引っ張るのに必要な力を生み出していることが分かりました。

今回、生化学、細胞生物学、コンピュータサイエンス、バイオインフォマティクス、バイオメカニクスといった異分野領域の融合研究によって、細胞集団運動という高次細胞機能の制御をJRABというたった1分子の構造変化で説明することができました。本研究は今後、発生異常の病態解明やがん転移機構の解明につながると期待できます。

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その他参考となる事項

本研究については共同研究先の理化学研究と医薬基盤・健康・栄養研究所のホームページでも同時リリースしています。詳しい説明は、以下のURLの理化学研究所ホームページ(プレスリリース[研究成果]2016))を参照してください。

URL: http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161027_1/

 

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