【研究成果報告】昆虫が変態する普遍的な仕組みの解明-不完全変態するフタホシコオロギの幼虫でサナギに相当する時期を特定-

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研究成果報告

報告者
・大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 生体分子機能学分野 准教授 三戸 太郎
・大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 生体分子機能学分野 助教 石丸 善康

研究タイトル
・昆虫が変態する普遍的な仕組みの解明-不完全変態するフタホシコオロギの幼虫でサナギに相当する時期を特定-

研究経緯等
【研究グループ】
・大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 生体分子機能学分野 准教授 三戸 太郎
・大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 生体分子機能学分野 助教 石丸 善康

【学術誌等への掲載状況】
 論文題目:Regulatory mechanisms underlying the specification of the pupal-homologous stage in a hemimetabolous insect.
 論文著者:Yoshiyasu Ishimaru, Sayuri Tomonari, Takahito Watanabe, Sumihare Noji, Taro Mito.
 掲載雑誌:Philosophical Transactions of The Royal Society B : Biological Sciences.
 DOI:org/10.1098/rstb.2019.0225

研究概要
【研究の背景】
 昆虫は一般に、幼虫の段階で脱皮を繰り返して成長し、最終的に成虫へと形を変える(変態)。その成長様式には、(1)完全変態(幼虫→蛹→成虫)、(2)不完全変態(幼虫→成虫)、(3)変態しない(幼虫が形を変えず性成熟)の3つのパターンがある。昆虫の脱皮・変態には2種類のホルモン、脱皮ホルモン(エクダイソン)と幼若ホルモンが関係している。完全変態昆虫では、エクダイソンの初期誘導遺伝子であるBroad(蛹化誘導因子)とE93(成虫化決定因子)および幼若ホルモンのシグナル伝達の鍵遺伝子であるKr-h1(変態抑制因子)が相互作用することで劇的な変態(蛹化、羽化)が正常に制御されている。近年、完全変態類の各遺伝子オーソログが一部の不完全変態昆虫の変態制御にも関与することが報告されたが、異なる昆虫種間でその分子メカニズムがどの程度保存されているかは未だ不明である。そのため、不完全変態の昆虫種間で共通の分子メカニズムを知る必要がある。
 一方、多様な完全変態昆虫の共通点は蛹であり、幼虫から蛹の移行で生じる短期間での形態変化は、祖先型の昆虫の幼虫時期で生じる進行性の変化に起因すると推定されている。しかし、多様性を誇る昆虫において変態の分子メカニズムと蛹の進化を理解するためには依然不明な点が多く残されている。

【結果の概要】
 不完全変態の分子メカニズムの普遍性と多様性の知見をさらに広げるため、本研究では直翅目に属するフタホシコオロギGryllus bimaculatus(Gb)に着目し、変態におけるGb’Kr-h1, Gb’Broad, Gb’E93の機能解析を行った。フタホシコオロギは、孵化後に7回の幼虫脱皮を行い、8齢(終齢)幼虫になった後に成虫へと変態する。Gb’Kr-h1とGb’Broadは6齢幼虫で発現量のピーク値を示した後、7齢(終前齢)で減少する(図1)。そこで、RNA干渉法(RNAi)による各遺伝子の機能阻害実験を5齢幼虫で行った結果、本来8齢から成虫に変態するはずの幼虫が、6齢で早熟変態を引き起こし、体サイズも矮小化された(図2)。一方、Gb’E93は7齢で発現ピークを迎える(図1)。RNAiによるその機能解析において、成虫への変態が抑制され、幼虫の過剰脱皮を繰り返して巨大化した(図2)。さらに、RNAi個体を用いて各遺伝子の発現を解析した結果、Gb’Kr-h1またはGb’Broad のRNAiにより6齢幼虫でGb’E93発現が早期誘導され、逆に、7齢におけるGb’Kr-h1とGb’Broadの発現低下がGb’E93 RNAiにより抑制された。従って、Gb’Kr-h1とGb’BroadがGb’E93発現を抑制することで6齢幼虫から終前齢-終齢幼虫へと正常に脱皮した後、Gb’E93がGb’Kr-h1とGb’Broadを抑制すると成虫変態に至ることが示された(図3)。
 本研究により、この抑制的な相互機能は完全変態と不完全変態昆虫で普遍的なメカニズムであることが示唆された。この進化的に保存された変態のメカニズムをもとに、不完全変態昆虫の幼虫期で蛹に相当する時期が存在し、それは終前齢-終齢幼虫期である新たな仮説をコオロギで提唱した(図4)。

図1.
図1. Gb’Kr-h1, Gb’Broad及びGb’E93遺伝子の発現解析
図2.
図2. Gb’Kr-h1, Gb’Broad及びGb’E93 RNAiによる成虫変態への影響
図3.
図3.コオロギの成虫変態を制御する分子メカニズム
図4.
図4. 祖先型昆虫,完全変態昆虫,コオロギにおけるステージ対応の仮説

今後の展望(研究者からのコメント)
 本研究により、Gb’Kr-h1、Gb’Broad、Gb’E93の相互作用が完全変態と不完全変態の制御に共通して関わっていることを明らかにしました。しかし、変態のメカニズムが祖先型の昆虫から保存されているにも関わらず、多くの昆虫種は蛹の形成を進化の過程で獲得していきました。この進化の謎を解明する鍵は、蛹形成に重要なBroad遺伝子と考えられますが、その機能は複雑です。実際、完全変態と不完全変態昆虫を比較してBroadは全く異なる発現様式を示しており(図4)、また翅の形成にも関与します。さらに、Broadにはアイソフォームが複数存在することが報告されており、進化的背景を考慮した昆虫の系統樹に従ってアイソフォームの数も異なっています。今後さらに解析を進め、Broadの遺伝子進化がもたらす蛹の形成と進化の謎を解明していきたいと考えています。

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