令和元年度卒業生・修了生へのメッセージ(徳島大学長式辞)

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令和元年度卒業生・修了生へのメッセージ(徳島大学長式辞)

令和元年3月23日(月曜日)

徳島大学長  
野地 澄晴

30年後の未来から考える

 徳島大学を代表いたしまして、学部卒業生の皆さま、大学院修了生の皆さま、またご家族の皆さま、関係者の皆さまに、心からお祝いを申し上げます。ご卒業、ご修了、誠におめでとうございます。本年度は、新型コロナウイルスの影響により、このような形式で卒業式を行うようになったことは、誠に残念ですが、皆さまの健康を第一に考えた結果でありますことを、ご理解いただきたいと存じます。

 多くの皆さまが青春の最も多感な時期を徳島大学で過ごしていただきましたことに対しまして、本当に感謝いたします。ありがとうございました。

 徳島大学は1949年に創立され、2019年に70周年を迎えました。皆さまには、70周年事業にご協力いただき、ありがとうございました。これまでに、学部卒業生、大学院修了生を含め、約80,000人の卒業生・修了生を送り出してきました。その中には、1977年に卒業され、2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二カリフォルニア大学教授や、同じく1977年卒業の日立製作所取締役代表執行役社長兼最高経営責任者でいらっしゃいます東原敏昭(ひがしはら・としあき)氏がおられます。

 さて本日は、世界の未来について、私の考えを述べ、皆さまへの祝辞といたします。
 徳島大学は、『自主と自律の精神に基づき、真理の探究と知の創造に努め、卓越した学術及び文化を継承し向上させ、世界に開かれた大学として、豊かで健全な未来社会の実現に貢献する。』という理念の基に、教育、研究、社会貢献活動を行っています。この理念にもありますように、豊かで健全な未来社会の実現に貢献することで、世界の様々な課題を解決することにも繋がっていくのです。
今から30年後、つまり徳島大学が創立100周年(2049年)を迎える頃、世界はどのようになっているのでしょうか?「未来は予想するものではなく、自分で作るものである」と考えるならば、「みなさんはどのような世界にしたいですか?」と問うべきかもしれません。徳島大学を卒業されて、これから新しい一歩を踏み出す皆さまには、世界の未来に貢献するための一歩にもぜひチャレンジしていただき、30年後の世界を創造していただきたいと思います。
 世界の未来について思考するうえで重要になってくるのは、Sustainable Development Goals (SDGs)だと思います。「持続可能な開発目標」と訳されますが、2015年に国連が定めた2030年までに達成すべき17の目標のことを言います。
 徳島大学の目指す主なものとしては、以下のものがあります。

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 例えば、目標2「飢餓をゼロに」という食料の問題についてですが、『世界の食料安全保障と栄養の現状 2017』によりますと「全世界で栄養不良状態にある人々の割合は、2015年の10.6%から2016年の11.0%へと上昇しました。人数にすると、2015年の7億7,700万人から2016年の8億1,500万人へと増加しています。」さらに、「2017年現在、5歳未満の子ども1億5,100万人が発育阻害(年齢に比した低身長)、5,100万人が消耗症(身長に比した低体重)、3,800万人が肥満の状態に陥っています。」という状況です。これらのSDGsに象徴される地球規模の課題を解決することが、結果的に日本の価値を上げることに繋がります。
 SDGsの達成のために創られた新規産業の発展により、日本全体が活性化し、また、徳島大学も新規産業への貢献などを通じて、結果的に世界的に有名になると思っています。
 ここで、SDGs産業とは何か?ということについて、私なりの思いを話します。今やまさに人工知能が流行の最先端であり、多くの産業がAI導入に必死に取り組んでいます。第四次産業革命あるいはSociety 5.0の時代であり、社会が急速に変化しています。このような状況で、明確なことは、バイオテクノロジーの加速度的な発展です。1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによってDNAの二重らせん構造が発見され、それから50年を迎えた2003年に、ヒトゲノムDNAの30億塩基配列の解読が行われるようになり、現在、さらに17年が経過し、遺伝子やその発現調節のメカニズムが解明されてきましたが、まだ不十分な状況です。特に生命の基本である寿命の長さ、生命体のサイズ、形態などの決定メカニズムがDNAレベルでどのようにプログラムされているのかについては未だ謎であり、さらに進化の分子メカニズムはほとんど解明されていません。逆に、それが解明されるとバイオ技術などが発展し、次の第五次産業革命が生じることは必然と言えるでしょう。ICTやAIの発展により、遺伝情報などが加速度的に解明され、多くの生物の基本が解ると、生命を自由に操作し、進化させることができる時代になります。特に、植物の遺伝子の解明は食料問題の解決に、ヒト遺伝子の解明は病気の治療法に、革命を起こすことになるでしょう。

 2017年には、“⽣命科学界の異端児”と呼ばれるクレイグ・ヴェンター⽒が2013年に設⽴した⽶ヒューマン・ロンジェビティ社(Human Longevity.Inc)の研究が注目されました。その研究結果とは、⼈間のゲノムを分析して得たデータを使い、顔、肌の⾊、⾝⻑、体重、年齢など、⾝体的特性を推測できる⼈⼯知能プログラムを開発したというものです。これがその一例ですが、左が本人で、右がゲノム情報から予測した顔です。解析に批判もあるようですが、例えば、犯罪捜査においては、DNAがあれば顔のモンタージュが作れるため、強力な武器になります。

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 標的とした遺伝子を効率よく改変する「ゲノム編集技術」を使った食品の届出制度が2019年10月から始まり、ゲノム編集食品の流通が可能になりました。もちろん、食品や医療などに応用した場合の安全性の議論などは必要ですが、ゲノム編集技術の有用性は計り知れません。さらに画期的な新技術が発明されることが期待されます。これらの技術により、SDGsを実現するための多くの課題が解決される可能性があります。それを皆さまが中心になって実現していただけることを願っております。SDGsの理念に「Inclusive」があります。「No one will be left behind.」(誰一人取り残さない)の意味ですが、この概念も含めて、SDGsを達成しなければなりません。

 結びになりますが、皆さまも、失敗を恐れずに、是非大きな夢やビジョンにチャレンジして、自ら未来を創造してください。

 以上、私の式辞といたします。本日はおめでとうございます。

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