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令和2年度卒業生・修了生へのメッセージ(徳島大学長式辞)

令和3年3月23日(火)
会場 ときわホール
徳島大学長
野地 澄晴

 徳島大学を代表し、この度めでたく卒業並びに修了される皆さんに対し、心からお祝い申し上げます。また、皆さんの成長を見守り、応援されてきたご家族の皆さま、関係者の皆さまにも、今日という素晴らしい日を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、卒業生、修了生全員が参列する形式ではなく、このような形で本年度の卒業式・修了式を行うことは、誠に残念なことでございます。
 卒業並びに修了される皆さん、そしてご家族の皆さまも、本日を心待ちにされていたことと思いますが、皆さんの健康を第一に考えた結果であることを、ご理解いただきたいと思います。

 4年前の入学式で、私は皆さんに「「my vision」を持ってください」とお願いしました。「世界レベルの問題を解決するような、大きなvisionを持って、粘り強く成功するまでやり抜いてください」と話したことを覚えていますか?その時に思い描いたvisionに、今、少しでも近づくことはできているでしょうか。visionを持つことはこれからの人生において非常に大切なことです。皆さんに向けて、改めて今日、「「my vision」を持ってください」とお願いすることといたします。
 皆さんは、青春の最も多感な時期を徳島大学で過ごされましたが、その間に、皆さんを取り巻く環境は大きく変わりました。新型コロナウイルス感染症の感染が全世界に拡大し、卒業を前に、visionを変更せざるを得ない人もいたかもしれません。通常は想像していなかったことが起こるのが現実なのだと、今回のことで改めて思い知らされました。理不尽な状況を前に、立ち止まらざるを得なかった人もいたでしょう。ただし、どんな困難に直面しても、必ずそれを乗り越えることができる時が来るでしょう。それが、visionを持つことの大事な点です。

 皆さんはこの一年間、非常に辛い大学生活を余儀なくされてきたと思います。新型コロナウイルス感染症の感染者は、3月1日時点、全世界で1億1千万人を超え、死亡者数は253万人になっています。日本でも、毎日感染者数が報道されていますので、新型コロナウイルス感染症のことを考えない日は、この1年なかったと思います。最近になり、日本でもワクチンの接種が始まり、この新型コロナウイルス感染症の終息への希望が持たれています。
 ワクチン開発を行っている国では、早期のワクチン接種が実現でき、重症感染者の数が減っているとの情報もあります。ワクチン開発に力を入れることで、自国の国民を救い、また、輸出することで、世界中の人を救っています。
 一方、日本はどうでしょうか。日本は多くのワクチンを海外から輸入しています。科学技術立国日本において、国家の危機に対応できないというのは、非常に残念なことだと思っています。国として、あらゆる事態に対応できるようなvisionを持っていれば、日本でもワクチン開発が進められていたことでしょう。
 私はこのようなウイルスの脅威を目の当たりにし、大学としての進むべき道の一つとして、次世代ワクチン開発の重要性を痛感し、開発に向けての準備を進める必要性を感じました。これは、本学が掲げる「人類の問題を解決する研究を行う。」という目標の一つにも合致しています。

 ここで、現在日本が輸入している新型コロナウイルスワクチンについて、少し紹介します。ご存知だと思いますが、ファイザー社やモデルナ社が開発したワクチンは、非常に画期的なワクチンです。これまでのウイルスに対するワクチンは、ウイルスそのものを弱毒化、あるいは不活化して、それを体内に注射していました。しかし、この度の新しいワクチンは、ウイルスを使用せず、mRNAを使用しています。
 一般的に、ウイルスに対するワクチンは、ウイルスに感染しても重症化しないように、体の中で抗体を作らせます。ファイザー社のワクチンは、mRNAを使用し、ヒトの細胞内で抗原のタンパク質を作らせるのです。この方法は非常に画期的なものであり、弱毒化させたウイルスをワクチンとして使用するよりも安全で、しかも、例え変異ウイルスが出現しても、ワクチンを作製するのに時間がかからないという特徴があります。
 新型コロナウイルス感染症のワクチンの製造は、必ずしも国が主導して行われている訳ではありません。ドイツのベンチャー企業であるビオンテック社は、ドイツが最初の封鎖を開始した3月までに、20のワクチン候補を開発していたそうです。ここで衝撃なのは、この企業の創業のきっかけが、創業者が大学病院に勤務していた時に、研究資金が得られなかったため、自分たちで会社を始めたということです。イノベーションのジレンマと言いますが、新しいものは小さなところから生まれるのです。おそらくvisionを持って進んだからこそ、多くの人を救う道を見つけることが出来たのでしょう。

 徳島大学から巣立つ皆さんを迎える社会には、多くの課題があり、それに対し、不安を抱えている方も大勢いることでしょう。しかし、visionに向かって努力してきた大学生活は、皆さんを確実に成長させ、困難に直面しても対応できる力が身についていると、私は思っています。
 多様化・複雑化した社会で、予想していなかった困難に直面した時、本学から巣立った皆さんが、様々な角度や立場から、問題解決にアプローチしていただけることを期待します。
 失敗を恐れず、これから先の未来を自ら創造してください。徳島大学で過ごした時間、出会った仲間は、これからの人生を生きるうえで、きっと支えとなってくれるでしょう。
 大きなvisionを胸に、地域で、そして世界で活躍されることを心より祈念して、私の式辞といたします。 本日は誠におめでとうございます。

 

 

最終更新日:2021年3月30日

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