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令和4年度卒業生・修了生へのメッセージ(徳島大学長式辞)

令和5年3月23日(木)
会場 アスティとくしま
徳島大学長
河村 保彦

 卒業生・修了生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。徳島大学に入学したその日から、この日を迎えるまで様々な学びがあったことと思います。そして、ご家族、関係者の皆さま、おめでとうございます。長い日々をいろいろな思いを込めて見守っていらしたことと思います。皆々さまの努力と思いが実を結び、本日の卒業式・修了式とあいなりました。明日から卒業生・修了生の皆さんは、立派な社会人として徳島大学を巣立って行きます。本当におめでとうございます。

さて、皆さんが徳島大学で過ごされた日々は、新型コロナウイルスのパンデミックに大きく影響されました。3年前の2020年2月、私はイスラエルのテルアビブに徳島大学訪問団の一人として訪れていました。新たにテクニオン-イスラエル工科大学と大学間学術交流協定を結び、学生や研究者の間の教育・研究を通じた交流を活発化させることが目的でした。そのときは、まだパンデミックを迫り来る危機と実感できていませんでした。しかし滞在中のある日、突然イスラエルはロックアウトを決行しました。今まさにテルアビブ空港のゲートが閉じようとしているときに、私たちは辛くもイスタンブール経由で帰国することができたのです。その時、私は身をもってこのコロナウイルスが世界的に流行拡大し始めたことを知ることになりました。そして、その年の卒業式と入学式に始まり、学生の皆さんは、私たち大学教職員とともに、新型コロナウイルスと否応なく対峙することになりました。普段の年であるならば、皆さんの2020年は大学2年生として、あるいは6年制課程では4年生として、それまでと同じように学生生活を謳歌できたことと思います。教室や実験・実習の場で学び、サークル活動等で友達とたくさん語り合うこともできたでしょう。しかし、得体の知れないウイルスに私たちの生活は翻弄されました。皆さんにとり、この体験は辛く厳しいものであったことと思います。常に付きまとう閉塞感をどう乗り越えたらよいか、考える日々もあったかと思います。先の見えない長いトンネルの中から、ようやく少し先に明かりが見え始め、昨年から大学祭も行われ、対面での授業も始められました。このように、皆さんはそれまで誰も経験していない日々を乗り越え、今日この日を迎えたことを讃えますと共に、ぜひ自信を持ってください。

私たちが生きている現代は良くVUCAの時代と言われます。Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguityの四つの英単語の頭文字をとった造語です。それぞれ、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を示します。転じて、社会あるいはビジネスにおいて、不確実性が高く将来の予測が困難な状況であることを示します。社会を取り巻く状況はこの20年間で大きく変化しました。21世紀に入った当初は、IT革命によって産業構造が劇的に変化しました。2011年には、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発の事故が起こりました。さらに2020年には、前述した新型コロナウイルスのパンデミックでそれまでの常識が全く通じなくなってしまうとともに、昨年2月からはウクライナの戦禍が人々の平穏な暮らしを蹂躙し、世界のエネルギー危機や物価の高騰を招いています。このようなVUCAの時代に、私たちはどのように生きて行ったらよいのでしょうか。

私は、過去を学び、現在を正しく理解し、理想とする未来を思い描いていくことが必要と考えます。ここで、インドの民主化指導者マハトマ・ガンジーも言っていた言葉を紹介します。それは、「永遠に生きるかのように学べ、明日死ぬかのように生きよ。」というものです。ラテン語では、「Disce quasi semper victurus, vive quasi cras moriturus. ディスケ・クゥァシ・センペル・ウィクトゥールス ウィーウェ・クゥァシ・クラース・モリトゥールス」と言います。長く言い継がれているこの言葉は、 VUCAの時代だからこそ、より心に響きます。不確実で曖昧な時代だからこそ、私たちは継続して学び続ける必要があります。先に触れました12年前の東日本大震災での予想を遥かに超えた津波による被害は、このVUCAの一例とも言えるでしょう。

この震災に関連して、私には印象に残った出来事があります。皆さんも映像を通じて仙台空港が大きな被害を受けたことをご存知だと思います。しかし、震災の一ヶ月後、なんと早くも空港は再開したのです。一体どうしてそんなことができたのでしょう。再開した当時、空港周辺は瓦礫の山、 エスカレーターは途中からめくれ上がり、津波の傷跡がありありと残っていました。しかし、臨時のカウンターで手書きの案内板を持って誘導している職員の方々は、皆生き生きとして見えたそうです。移動も物流も困難を極める中、飛行機を一日も早く飛ばしたいという強い思いが不可能を可能にしたかのようでした。そこに、日本人の、困難な中でも何かを変えていこうとする根源的な力に感動しました。世界の人々もその力に驚嘆しました。私たちの社会は、あらゆる場面で強い前向きな思いを有した方々に支えられています。

先日ある講演会で、東京パラリンピックでパラトライアスロンに出場された谷 真海さんのご講演を聴く機会がありました。病気で右足を失いながらも、谷さんの超人的な精神力と、それをあたかも日常のことであるかのように話される姿に感銘しました。そのお話の中のエピソードに、サッカーのワールドカップで日本人がロッカールームや応援席を心を込めて綺麗にしたことが、世界から絶賛されたと紹介されました。このことは、皆さんもご存知かもしれません。後で使う人の気持ちを考える大切さは、まさに「立つ鳥跡を濁さず」の言葉通りです。最近は心無い振る舞いを見たり、聞いたりすることもありますが、私たち日本人の根本には、こうした清々しい美しさが脈打っていると確信します。私たちは、こうした日本人の一員であることを誇りに思うとともに、留学生の皆さんには、それぞれご自身の国を誇りに思うと同時に、この日本、徳島大学で学んだことに自信を持っていただきたいと思います。

Apple社創業者のSteve Jobs氏は、2005年6月12日、スタンフォード大学の卒業式の来賓挨拶で次の名言を残しています。「Stay hungry, stay foolish!」。よく耳にするフレーズかと思いますが、私はこのJobs氏の言葉を通じて皆さんに伝えたいと思います。どうか常に夢を渇望し、夢を思い描きチャレンジし、たとえ失敗してもまた不死鳥の如く立ち上がってください。そして、我が国のみならず、世界へとそれぞれの立場で大いに羽ばたき世の中に貢献して下さい。併せて、今後は、同窓生としても本学を支援頂けましたら幸いです。そして今後の変動性に富む世の中で、益々学び直し―リスキリング―の必要性が高まると思われます。新たな学びがまた必要となったとき母校を活用してください。最後にもう一度先のフレーズを送ります。「永遠に生きるかのように学べ、明日死ぬかのように生きよ。」徳島大学から今日羽ばたく皆さん、卒業・修了おめでとう。

 

最終更新日:2023年3月28日

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