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心理学の成り立ちと 人の心の基本的な仕組みや働きを学ぶ「心理学概論」

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心理学概論 対象:総合科学部 社会総合科学科 2年他
大学院社会産業理工学研究部 社会総合科学域 心理学分野 准教授
榎本 拓哉(えのもと たくや)

「とくtalk」2026年夏号掲載/取材2026年4月)

enomoto05.JPG公認心理師や教職員を目指す学生が受講する「心理学概論」。心理学を専門とする4人の先生方がオムニバス形式で担当していて、取材時は榎本先生による「心理学の歴史/ヴント以前の心理学」が行われていました。
ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスの「心理学は過去は長いが、歴史は短い」という言葉に象徴されるように、心理学が学問分野として独立したのは約150年前。1879年にヴィルヘルム・ヴントが世界初の心理学研究室を設立したことに始まります。
心理学が成立する以前、人々は「心」をどのように捉えてきたのかーーー。授業ではまず、古代ギリシャの自然哲学を取り上げ、自然現象を神話ではなく、観察や思考によって理解しようとしたことについて触れ、その中で、「人はどのように世界を認識しているのか」という認識論が発展していったことが紹介されました。
その後、プラトンとアリストテレスの対立する考え方にフォーカス。プラトンの「イデア論(理想主義)」は現代の認知心理学や脳科学にもつながっていること、アリストテレスの「現実主義」は知覚心理学や行動分析学へ発展していったことに触れ、続いて中世ヨーロッパで心の探究が神学と結びついていった歴史や、ルネサンス以降に自然科学として人間を捉え直す動きについても解説。デカルトの「心身二元論」とスピノザの「心身一元論」を通して、古典哲学と現代の感情研究とのつながりについても学びました。
「単に歴史を追うだけではなく、現代における心理学の考え方の“根っこ”がどこにあるかを知ってほしい。どんな心理学研究も、哲学的立場のどこかに力点を置いています」と話す榎本先生。
榎本先生は後期の発達心理学も担当されます。また、来年度からは「障害者障害児心理学」も新たに開講が予定されています。
心理学を学ぶ上でベースとなる哲学的バックグラウンドの重要性を垣間見た授業でした。

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▲授業の冒頭で、榎本先生は自身の専門である応用行動分析学の視点から「人は“したいから行動する”のではなく、環境との関係の中で行動している」と説明。「心は自分と他者、自分と環境との間にある」と話し、心を身体の内側だけに求めない視点を示しました。

 

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▲心理学のルーツである哲学を古代から紐解き、その歴史を90分にギュッと凝縮した授業。

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▲学生は真剣に聞き入っていました。

 

障害と発達の視点から問い直す「普通」の境界線

榎本先生は応用行動分析学を基盤とした神経発達症(発達障害)のある子どもへの支援研究を専門としています。障害のある個人だけでなく、社会との関係性の中で「発達」や「障害」を捉えることを重視している点が特徴です。
こうした障害をテーマにさらに深く学ぶことが出来る「障害者障害児心理学」が、来年度から新たに開講される予定だそう。
授業では、「障害とは何か」という根本的な問いを出発点に、発達や支援、共生社会のあり方について、多角的な視点から学んでいきます。
「学生に“障害”のイメージを尋ねると、『重い』『不幸』『変わらない』といったネガティブな言葉が挙がることが少なくありません。しかし障害は個人だけの問題ではなく、社会構造と密接に結びついています。
例えば、読字・書字障害(ディスレクシア)は支援の対象として広く認識されていますが、読み書きが限られた人だけの技能だった時代には、それは社会的な障害として顕在化していませんでした。現代社会で高く評価される『数字に強い』『仕組みを作るのが得意』といった特性も、狩猟中心だった時代には適応しにくい能力と見なされていた可能性があります。障害は個人に固定された属性ではなく、その時代や社会が何を普通とするかによって変化する、相対的な概念といえます」。
 

「発達」を知ることで見えてくるもの

一方、榎本先生が後期に担当する「発達心理学」の重要性についても次のように語ります。
「発達心理学は、多くの人がたどる一般的な成長や変化のプロセスを学ぶ学問です。一見すると当たり前に見える『積み木遊び』や『ままごと』も、実は高度な認知能力を必要としています。相手とイメージを共有し、その場にないものを想像し、さらに相手の気持ちを推測する――。こうした『見立て遊び』は、人間ならではの複雑なコミュニケーション能力の上に成り立っています」。
相手の気持ちを読むことや、その場の空気を察することを、単に「普通」として求めるのではなく、その行為自体が高度で複雑な営みであることを理解した上で支援を考えること。それが、榎本先生の研究の根底にある視点です。
こうした約8割の人に共有する“普通”から外れるケースとして、不登校を例に尋ねてみると、榎本先生は次のように話してくださいました。
「無理に既存の集団へ戻すことが、必ずしも本人のQOL(生活の質)の向上につながるとは限らないと思います。研究室で大切にしているのは、『生活体は常に適応的である』ということ。学校へ行かないという行動も、その人自身を守るための“適応”である可能性があります。『なぜ適応できないのか』を問うのではなく、『どのような環境なら、その人らしく生きられるのか』を考えること、社会の側に多様性が不足している場合もあると考える方が自然なのではないでしょうか」。

榎本先生からのメッセージ

enomoto01.JPG多様性やダイバーシティへの理解が社会全体で広がる中、「障害に対する学生の理解も深まっていると感じる」と話す榎本先生。障害のある人や性的マイノリティ、発達障害・知的障害のある人が、「特別な存在」ではなく、自分たちの日常や人間関係と結びつけながら理解する傾向が強まっているのだとか。
また、従来の「支えなければならない存在」として一方向的に捉える見方から、当事者性や、その人が置かれている文脈・環境を踏まえて理解しようとする姿勢への変化も見られるそう。
榎本先生の研究室には「障害のある人たちへの支援を深く学びたい」という学生が集まっていて、「心理学のなかでは比較的知名度の低い領域でありますが、その分、本当に関心のある学生が来てくれていると感じます」と話します。
「徳島大学で心理学を学ぶメリットは、大学の中だけで学びを完結させないこと。研究室では、学生たちが放課後等デイサービスや児童発達支援施設などの現場へ積極的に足を運び、ボランティアや研究活動を通して、実際の支援現場で必要とされる感覚を身につけていきます。障害児支援や発達支援の専門家を目指す学生も多く、卒業後は大学院進学や福祉・教育分野の専門職として活躍しています。
心理学は、現代社会の中で、人々がどのように生き、どのような支えを必要としているのかを考える学問です。『普通とは何か』を身近なところから問い直し、多様な人々が共生できる社会のあり方を、講義や実習を通して一緒に考えていけたらと思います」。

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