ある大手の食品企業から社内報の依頼があった。「食にまつわる話題から、興味深いテーマをご選定ください」とのことである。また、「従業員の多くが高校卒業後に入社しております。できるだけ専門用語を避け、平易な内容でお願い致します。」と加えられている。3回シリーズであるが、 最初の締め切りは今月末で、あと1ヶ月もない。
ある公衆栄養学の講義では、日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳(2021年)であり、世界の中でも長寿の国であることを説明し、その後、健康に関わる指標の現状を概説しながら栄養との関わりを説明している。悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患、肺炎等の年齢調整死亡率は減少しており、さらに好ましいことに老衰による死亡率は逆に増加している(自分の天寿を全うした死)。血圧のコントロールは、脳卒中、心筋梗塞、動脈硬化といった重篤な疾患予防に関わる共通の要因の一つである。収縮期血圧が140 mmHgまたは拡張期血圧が90 mmHg(または降圧剤を使用している者)であれば高血圧とされる。男性では、30歳代では高血圧の者は数%程度であるが、40歳代で一気に30%越えになりその後純増する。一方、女性ではほぼ年齢に比例して増加する特徴がある。社内報では、このような統計情報を示し日常の生活習慣において注意すべきポイントを書けばいいのだろうか?
それとも、以前、新型コロナウイルス感染症と栄養との関係についてまとめて執筆した書物を再度練り直して記事にした方がいいのか。感染症と栄養との(詳しい)話はあまり聞かないのでこちらを採用しても良いかもしれない。
食品に健康に対する機能性を表示できるものとして特定保健用食品が知られているが、類似のものとして機能性表示食品がある。両者の違いは、特定保健用食品は、個別の食品機能をヒトで検証する必要があるのに対して、機能性表示食品は、ヒト試験を実施しなくても関連する学術論文を科学的根拠として引用し承認されれば表示が可能となるものである。商品の売り上げを伸ばす為に機能性表示を取得する企業がこぞって申請を行い、その申請登録数は8,000に迫る勢いである(反面、取り下げ等も多く、現在販売されている商品はかなり限られている)。免疫機能に関する表示は、長らくキ○○が開発した乳酸菌株を用いた商品だけであったが、データベースを検索していると他社が開発した製品も追加されていた。この現状を考慮すると、食品と免疫の話も意外と興味を持ってもらえるかもしれない(もちろん文章の力量にかなり依存するとは思うが)。
来年1月から配属される学生に対して、事前に幾つかのアンケート項目に回答してもらった。「実践栄養学分野が第一希望でしたか」という問いに対しては全員が、“はい”であった。ある年は全員が“いいえ“であったことを思えば少しは好感度が上がったか。研究は、「実験系」と「疫学系」のどちらかを希望するかの問いに対しては、多くは「疫学系」という結果になった。近年の傾向とはいえ、栄養と免疫の関係を研究する「実験系」を希望する者を増やす取り組みも必要かもしれない。

<令和5年12月11日:酒井>

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