口腔から、全身の健康を支える 四国唯一の歯学部が歩んだ半世紀 ~徳島大学歯学部創立50周年記念湯本浩通学部長インタビュー~ 前編

昭和51年(1976年)、四国で唯一の歯学部として誕生した徳島大学歯学部。地域の歯科医師不足の解消を使命に歩み始めた歯学部は、この50年間で約2,500名の卒業生を輩出し、教育・研究・地域医療の拠点として発展を続けてきました。創立50周年を迎えた今、本学卒業生でもある湯本浩通学部長に、半世紀の歩みと教育改革、研究の進展、そして「口腔から、全身の健康を支える」次の50年への展望について伺いました。
(「とくtalk」2026年秋号掲載/取材2026年7月)
地域格差を埋めるため、四国唯一の歯学部が誕生
徳島大学歯学部は、昭和50年(1975年)、蔵本キャンパスの旧薬学部跡地に設置された創設準備室から歩みを始めました。当時は、歯科医師の不足と地域間の偏在が大きな課題となっていました。国立大学の歯学部は全国でもわずかで、私立大学の多くは東京に集中しており、四国には歯学部が一つもない状況でした。

こうした地域格差を解消し、各地域で歯科医療を担う人材を育成することを目的に、昭和51年(1976年)、徳島大学歯学部が国立大学として全国で8番目に設置されました。
創設当初は施設や設備も十分とはいえませんでしたが、初代学部長・竹田義朗教授をはじめとする関係者の尽力により、教育・研究環境は着実に整備されていきました。昭和56年(1981年)には講義棟が完成し、本格的な歯科医学教育・研究が始動しました。
湯本学部長は、設立の背景について次のように振り返ります。
「私は10期生なのですが、私が入学した頃も、国立大学の歯学部は非常に少なく、現在でも国公立大学は12校しかありません。私立大学の歯学部は東京に集中し、関西・中国・四国地方では大阪歯科大学があるだけという状況でした。そのため国は地域格差を解消し、各地域で歯科医師を確保するために国立大学の歯学部を整備していきました」。
徳島大学歯学部設立後、鹿児島、岡山、長崎などに歯学部が設置され、地域医療を支える体制づくりが進められたといいます。
歯学部設立当時、県内の歯科医師の多くは県外の大学出身者で、特に近県にある大阪歯科大学出身の先生方が多かったといいます。また、歯学部の教員も東京医科歯科大学(現 東京科学大学)や大阪大学など、県外の大学出身者が中心でした。
しかし、時を重ねる中で、徳島大学歯学部の卒業生が教員として教育・研究を担い、地域の歯科医療を支える存在へと成長していきました。県内の開業医にも徳島大学出身者が増え、現在では徳島県歯科医師会に所属する歯科医師のうち、4分の1以上を徳島大学出身者が占めるまでになっています。
「これまでに歯学部は約2,500名の卒業生を輩出し、歯科医療の現場をはじめ、行政、教育・研究など幅広い分野で活躍しています。また、口腔保健学科の卒業生も、地域の保健・医療を支える人材として歩みを進めています」。
2007年に口腔保健学科を新設 西日本の国公立大学で唯一!「歯科衛生士」と「社会福祉士」のWライセンス取得で超高齢社会に挑む
歯学部50年の歴史の中で、大きな転換点の一つとなったのが、平成19年(2007年)の「口腔保健学科」の新設です。
歯学部創設から約30年が経過すると、今度は「歯科医師過剰」が課題として取り上げられ、文部科学省による歯学部定員の抑制が進められていました。徳島大学でも、かつて60名だった歯学科の定員は、現在では40名へと削減されています。また、2年次への編入学として3名の定員があります。
しかしその一方で今もなお、慢性的な歯科衛生士不足が課題となっています。
「資格を取得しても、結婚や出産、育児などを機に離職し、その後復職されない方も多く、免許を持ちながら実際に働いている人は半数程度ともいわれています」と話す湯本学部長。
そこで徳島大学歯学部が目指したのは、単なる歯科衛生士の養成ではなく、これからの社会に求められる幅広い知識と能力を備えた人材の育成でした。
それが歯科衛生士と社会福祉士、二つの国家資格取得を目指す本学ならではの教育カリキュラムです。
「歯科衛生士を養成する学校は専門学校が多く、2年又は3年で資格取得を目指すのが一般的です。そのため口腔保健学科を設置するにあたって、歯科衛生士教育に加えて新たな学びを組み込む必要がありました。そこで、社会福祉士の資格取得を目指せるカリキュラムを取り入れることになりました。
超高齢社会を迎え、医療が高度化・専門分化する中では、医療だけでなく社会保障制度や行政の仕組みを理解し、地域全体を支える人材が必要になります。将来的には、制度や仕組みづくりにも関わることのできる人材の育成というニーズに加えて、歯科医療と福祉の両面から地域を支える人材の育成につながっているという考えから、社会福祉の学びを取り入れました」。
実際に、卒業生の中には市町村をはじめとする行政分野に就職し、活躍している人も多く、当初目指していた、歯科医療と福祉の両面から地域を支える人材の育成につながっているといいます。
「また、医学部や薬学部との連携をはじめ、学外実習では地域の介護老人保健施設や介護施設、歯科医師会などとの協力体制を築くことができました。こうした学内外のつながりを生かしながら、実践的で充実した教育環境を整備していくことができたのではないかと思います」。
研究の進展 病気を治す医療から、予防する医療へ
この50年間で、歯学研究のあり方も大きく変化したと振り返る湯本学部長。
「以前は基礎研究を通じて、病気が発症した後の病態を解明する研究が中心でした。しかし現在では、医学分野と同様に遺伝子解析などの技術が進み、病気が起こる原因そのものを明らかにし、予防や早期介入につなげる研究へと発展しています」。
遺伝子解析による発症リスクの把握や、病原体の解明、分子レベルでの原因究明により、個々のリスクに応じた予防や治療を目指す研究が進んでいます。また、iPS細胞に代表される再生医療の研究も進展し、失われた組織や機能の回復を目指す新たな治療の可能性が広がっています。また、歯科治療で広く使用される金属材料に関連した金属アレルギーの発症メカニズムの解明や予防法の開発にも力を注いでおり、安全で質の高い歯科医療の実現を目指しています。
さらに、超高齢社会を迎えた現在では、加齢に伴う口腔機能の低下への対応も重要な研究テーマとなっています。口腔機能の衰えを早期に発見し、維持・改善につなげるための研究が進められています。技術面でも大きな変革が起きていて、従来、歯の型を取って作製していた入れ歯やかぶせものは、現在では口腔内をカメラで撮影し、デジタルデータをもとに作製する時代へと変化しています。
またAI(人工知能)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の活用も進んでいます。
「特に放射線分野では、画像診断の支援や、病理組織の画像を解析して診断を補助する研究が進んでおり、今後は研究成果を臨床現場へ応用していくことが期待されています」。
50年前には想像できなかった技術革新により、歯学研究は「病気になってから治療する」時代から、「病気を未然に防ぎ、健康を維持する」時代へと大きく進化しています。




