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発電プラントを守る「保護膜形成型防錆(ぼうせい)剤」の研究/吉田 健 研究室

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大学院社会産業理工学研究部 物質機能化学分野
准教授 吉田 健(よしだ けん)

「とくtalk」2025年夏号の「魅力ある授業」にも登場いただいた吉田先生の研究室を訪問。発電プラントの安全運転を支えるうえで、金属製の配管の腐食対策は欠かせません。吉田先生の研究室では、「皮膜形成アミン(FFA)」の働きを解明し、金属表面に薄い保護膜を形成して腐食を防ぐ新たな技術の確立に挑んでいます。(取材/2026年3月)

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発電プラントを守る「保護膜形成型防錆(ぼうせい)剤」の研究

私たちの生活に欠かせない電気。現在、日本の発電量の8割以上は、火力発電や原子力発電など、蒸気の力でタービンを回す発電システムによって支えられています。
高温・高圧という環境で稼働する発電プラントにとって、ネックとなるのが金属の腐食です。発電所の内部では、膨大な量の水が熱せられて蒸気となり、タービンを回しています。そのため、配管の腐食(サビ)は、発電所の安全運転や設備の寿命に直結する重要な問題です。
腐食(酸化)を防ぐために、これまでヒドラジンという化学物質(脱酸素剤)が広く使われてきました。しかし、ヒドラジンには発がん性の疑いがあり、世界的に代替物質への転換が急がれています。
そこで研究の鍵を握るのが「皮膜形成アミン(FFA)」です。
FFAは、疎水性の炭化水素鎖と親水性のアミノ基を併せ持つ「両親媒性分子」という特徴をもっています。これは、実は私たちの体の細胞膜を形成する脂質分子と共通の性質です。FFAの場合は金属表面で分子が吸着・集合し、1ミクロン以下の保護皮膜を自発的に形成し、腐食の原因物質が金属に届くのを遮断します。さらに、従来のpH(酸性・アルカリ性の度合い)調整による防食方法では効果を得るための調整が難しかった銅合金などの材料に対しても、優れた防食効果を発揮します。
こうした特徴から、FFAの普及は欧州を中心に海外で先行して進んでいます。一方で、高温高圧の水の中でFFAがどのように機能するのかといった基礎的な知見が、十分に解明されていませんでした。さらに、従来の無機物中心の防食剤にはなかった課題として、FFAは有機物であるため、高温水中ではより小さな分子への分解反応を起こすという点が挙げられます。現場での適用実績から、この分解反応は経験的には問題にならないと考えられてきましたが、それがなぜなのかはまったく分かっていませんでした。
そこで吉田先生は、炭素や窒素の同位体(¹³Cや¹⁵N)で標識した化合物とNMR(核磁気共鳴)分析を組み合わせることで、化学結合の変化を精密に追跡。エチルアミンやオクチルアミンをFFAのモデル化合物として用い、発電プラントの運転温度域である300℃以上の条件下でどのような反応を起こすのかを系統的に解明しました。
この実験により、アミンの分解の速さは水のpHに大きく影響されることがわかりました。水を弱アルカリ性に保つとアミンの分解は抑えられますが、水が酸性になるとエチルアミンは水素イオンを受け取り、反応しやすい形(プロトン付加体)になります。その結果、分解の速さは通常の約50倍になることも明らかになりました。
吉田先生は、発電に関する水質管理の国際的な技術指針の策定が主な活動の一つである国際水・蒸気性質協会(IAPWS)で役員を2018年から務め、さらには日本のJIS規格の改正に関わる委員を今年(2026年)から務めます。吉田先生が新たに開拓した知見も、まさに世界的なスタンダードづくりへの貢献として実を結ぼうとしているところです。

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↑大学内にあるNMR(核磁気共鳴)分光装置。撮影協力/条辺真由さん(修士2年)

 

ドイツとの共同研究で証明 FFAの新たな可能性を発見

最近の研究で、FFAの働きに関する新たな発見がありました。
FFAのバリア機能は、水や湿った蒸気の中では有効ですが、ボイラーの過熱器のように非常に温度が高く、水分をほとんど含まない「過熱蒸気」の環境でも、FFAの分子が金属表面に付着してバリアを形成できるかは、これまで科学的な議論が続いてきました。乾いた蒸気でもこの機能が確認されれば、発電プラントのより広い範囲を効率的に腐食から守ることが可能になると期待されています。
吉田先生はドイツのグループと共同で、精密な実証実験を行いました。ドイツのヘルムート・シュミット大学では、パイロットボイラーを用い、湿り気を全試験時間のわずか0.002%にまで抑えた“純粋な乾き蒸気”の環境を再現。FFAが本当に乾き蒸気に含まれているのかを検証するため、試験用の金属片をその乾き蒸気にあてて、金属表面にFFAが付着するかどうかを調べる実験をしました。金属表面では水滴が丸く弾かれ、FFAの付着を示唆しましたが、拭き取り試験(表面の一部を拭き取り、機器で分析)ではFFAの存在が証明できませんでした。そこで、金属片をドイツから吉田先生の研究室に送り、最新の分析装置(XPSやIR)を用いてFFAが金属表面に付いたままの状態を調べました。そうしたところ、FFA分子が一貫して金属表面に吸着していることが裏付けられました。
従来、ボイラーの過熱器のような高温の過熱蒸気が流れる部分では、FFAの保護バリアは十分に働かない可能性があると考えられていました。吉田先生らは、このような環境でもFFAが金属表面に保護膜を形成し、腐食を防ぐことができることを世界で初めて実証。研究成果は発電分野の専門誌にも掲載されました。
FFAによる保護膜形成型の防錆技術を専門とする研究者は国内でも数少なく、吉田先生はこの分野を牽引する貴重な存在です。
こうした研究の積み重ねが、発電プラント設備の寿命延長や安全で安定したエネルギー供給につながると期待されています。

吉田先生からのメッセージ

「最近では国際共同研究も盛んに進めています。例えば、国立台湾科技大学とは理工学部の支援を受けた3年間の共同研究プロジェクトを実施しており、半導体分野に使われる精密分析手法をFFAの課題に適用することで、面白い成果が出てきています。
カナダのニューブランズウィック大学とも共同研究を行い、修士1年の学生(条辺真由さんです。詳しい話はまた別の機会に!)を4ヵ月間派遣しました。研究では、試験片を溶液に浸して皮膜の形成を調べる実験を行いますが、実際の発電所では水が流れる環境の中で皮膜が形成されます。そのため、本来の状況を再現するには、水が流れる条件で実験できる大型の装置が必要になります。こうした設備を持つ海外の研究機関と連携することで、より実際の環境に近い条件で研究を進めています。

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また、タイのキングモンクット工科大学トンブリ校とも新たに共同研究を始める予定です。キングモンクット工科大学トンブリ校は徳島大学の協定校で、今年6月からの半年間、2人の交換留学生が研究室に滞在することになっています。その準備も兼ねて、今年1月に現地を訪問し、大学の研究環境を視察するとともに、候補となっている学生とも面談を行いました。

研究室の最新の研究成果や活動の様子は、Instagramでも発信しています。SNSは地道に更新を続けながら、今の研究室の空気感を伝えるようにしています。
行っている研究はニッチな分野ですが、世界とつながる面白さがあり、若手研究者が国際的な舞台で活躍できるチャンスもあります。興味のある学生はぜひ研究室に来てみて下さい」。

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