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【個性派研究室セレクション】 VOL.2 地域デザインコース 空間情報科学研究室 夏目宗幸 准教授 前編 ~地理情報システム(GIS)~

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大学院社会産業理工学研究部 社会総合科学域 地域科学分野
准教授 夏目  宗幸(なつめ むねゆき)

徳島大学の個性あふれる研究室を厳選して紹介する「個性派研究室セレクション」。大学進学を考える中高生をはじめ、学内外の方にも、研究内容や学びの魅力を知っていただくため、できるだけわかりやすく発信しています。
第2回は「とくtalk」No.202(2026冬号)の特集にあわせて、総合科学部の地域デザインコースにフォーカス。夏目先生の「空間情報科学研究室」を紹介します。(取材/2025年12月)

GISのスキルが大きなアドバンテージに

空間情報科学研究室では、地理情報システム(GIS)を用いて様々な研究に取り組んでいます。
GISとは、位置情報(緯度・経度など)と関連する様々なデータをコンピューター上で重ね合わせ、管理・分析・可視化するシステム技術の総称です。GISは都市計画、防災、マーケティング、インフラ管理など幅広い分野で活用されています。
空間情報学研究室では「GISを使っていれば、研究テーマは自由」という夏目先生。研究室によっては教員の専門領域に沿ってテーマを選び、卒論を作成することもありますが、このゼミでは学生の関心を最優先にしています。
「GISという言葉を初めて聞いた」という人もいるかもしれませんが、近年、高校の教育課程の再編により、地理が必修化されたことで、高校生でもGISの基礎にも触れるようになっているのだとか。Googleマップなど地図を使った情報システムが世の中に広く浸透していることもあり、GISに興味を持つ生徒や学生も増えているそうです。
 中でも観光や防災に関心を寄せる学生にとって、GISのスキルは大きなアドバンテージになるといいます。
「特に防災は、自治体のハザードマップ作成とも密接に関わる分野で、各自治体には必ずGISの専門職がいるくらい、現場のニーズが高い傾向にあります。総合科学部の学生は公務員志望が多いですが、一般企業の就職活動でも「GISが使える」とアピールすると、担当者の反応が非常にいいと聞いています」。
最近では大手外食チェーンに就職した学生がいたそう。
「その企業は1990年代からGISを活用し、地形、交通、人口などのデータを統合して店舗展開を行っています。ただし本部にも、GISを使いこなせる人材はそんなに多くはないと思います。エントリーシートや面接では、GISスキルをしっかりアピールすることができた様子」と夏目先生は話します。
そのほかにも、GIS専門企業、地図ソフトウェア企業、測量会社などへの就職実績があり、GISを扱う能力は幅広い領域に応用でき、学生の選択肢を大きく広げています。

古文書を読み解き、地図化する 権力が分散していく課程

夏目先生自身は、戦国~江戸時代を対象に、歴史景観の復原のためにGISを活用しています。
見せていただいたのは東京周辺の領地が、時代とともにどのように変遷してきたのかを調査した「近世江戸周辺の空間構造に関する研究」をまとめたポスター。

 

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地図の白色の部分が徳川家の直轄領、青は大名家や旗本の領有地を示す私領、赤は寺社が管轄する寺社領です。このように色分けして示すことで、江戸の支配構造の複雑さが直感的に理解できます。
家康の時代(天正期1592年)は、徳川家の直轄領が広く存在していました。しかし、時代が進むにつれ、その領地は徐々に減少していきます。
「1800年代の中盤ぐらいになると、お寺のものになったり、大名家のものになったりと、直轄領がグッと減って、直轄領と私領という単純な構造から、寺社領が大きく増える状況へと移り変わっていく様子が確認できます」。
直轄領が減少していった理由について、夏目先生は次のように話します。
「幕府がだんだん“公儀”、つまり今の“国”に近い存在になっていく様子がわかります。旗本の生活が困難になれば与える、功績があれば褒美として与える。だから直轄領は減っていく。一方、寺社領は、将軍のお墓をつくるたびに寄進されるので、村ごと増えていきます」。
直轄領の減少は、単なる土地の移動ではなく、幕府の権力が相対的に低下していく過程とみることができるといいます。
地形データと重ね合わせて分析を行うと、青色で示した私領が台地部に多く分布したことがわかります。これに対し、直轄領は米のよく取れる平野部に残る構造になっていました。
「家光の段階では、米がたくさん取れるところは徳川家がしっかり押さえて、それ以外の米が取れにくい台地部分を他の大名や旗本に与えている。その一貫した政策が見えてきます。時代の変遷だけでなく、地形と政策の関係まで分析できます」。
地図化することで、近世の土地支配に潜む合理性や戦略性も浮かび上がり、江戸の支配構造を、広域的・空間的に把握することができます。
こうした研究はGISや古地図を使って行われているかと思いきや、研究の中心は文字資料に書かれた情報を地図として再構成する点にあるといいます。

 

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「研究は、まず文字資料を読むところから始まります。たとえば『新編武蔵風土記稿』は江戸周辺の村々を詳細に記した資料ですが、執筆者によって記述の密度に差があり、十分に追えるのは全体の半分程度にとどまります。そこで次に参照するのが、幕臣の家系や業績、知行地を記した『寛政重修諸家譜』です。分厚い書物の中から、『どの村を与えられたか』という記述を拾い出していきます。さらに、幕府が国絵図作成のために各村の石高などを調査した『郷帳』や、寺社の領地を記した『寛文朱印留』なども突き合わせて用います。
こうした資料を総合すると、同じ村を武士と寺がそれぞれ領有していたり、場合によっては一つの村に複数の領主が存在したりすることもあります。どれが唯一の正解なのか、あるいは混在した状態が実態なのかは簡単には判断できません。その不確かさを含めて、一つ一つ丁寧に検証し、文字資料を空間情報へと落とし込んでいくことが、この研究の核心です」。
歴史好きにとっては垂涎の内容ですが、「歴史に興味をもつ学生ばかりではないので、授業としては時々歴史ネタを織り交ぜつつ、GISに触りながら学び、スキルアップにつながるような実習をしています。」とのこと。

夏目先生からのメッセージ

「総合科学部の設立以来、歴史地理学を専門とする教員の配置が続いてきました。昔の時代の地理を研究する先生方です。学会でも徳島大学といえば“歴史地理”というイメージが付きつつあり、私も着任前は、そのようなイメージを思っていました。
こうした評価の背景には、徳島大学附属図書館が所蔵する伊能忠敬測量図に関する長年の研究成果があります。その独自性と研究的魅力に引き寄せられ、研究者や学生が集い、結果として現在まで続く興味深い研究の流れが形づくられてきたのかもしれません。

 

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徳島大学附属図書館ホームページで公開されている「伊能図学習システム」にも
徳島大学の長年にわたる研究の歩みが生かされています。

 

中高生で大学進学を考えるとき、「どの分野へ進もうか、どこを入り口にしようかな?」と、迷うと思います。大学進学後も、どこかのタイミングで「自分はこれを中心に世界を見るんだ」という軸、つまり専門性みたいなものを定めることが必要なんじゃないかな、と私は思っています。
その軸があることで、ぐっと成長できるし、次のステップにも進みやすくなる。もちろん、総合的な視点を持ち、いろんな先生とコラボしたり、複数学会に論文を出すなど、横断的な活動はすごく刺激があります。ただ、それでも根っこの部分に「確かな技術」や「自分なりの考え方」がないと、論文としての成果にもつながりにくいし、研究発表としても形になりにくい。
だからこそ、「広く学ぶ」ことと同時に、「自分の専門を丁寧に育てる」ことの重要性も、ぜひ意識してほしいと思います。
GISは、その専門性を育てていくための道具のひとつ。GISという技術を身につけることで、自分の関心や問いを深く掘り下げ、研究として形にしていく力をつけることができます。歴史地理学に興味のある人はもちろん、GISを使えるようになりたい人も、ぜひ研究室に来てみて下さい。」

 

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