地域実践 × 国際経験 × デザイン・美術 興味に応じた学びを自分自身でコーディネート
常三島キャンパス
総合科学部 社会総合科学科 3年
氣谷 愛良(きたに あいら)さん

地域に根ざした実践と海外留学。その両方の経験をもとに、学びと進路を自らコーディネートしている氣谷さん。1年生の夏にイタリアへ留学した際、「テッラマードレ・サローネ・デル・グスト2024」に日本代表団の学生として参加し、上勝町・浅野農園の出展サポートを担当しました。現地では、生産者の思いや背景を英語で伝える役割を担いましたが、浅野農園さんが生産する徳島特産の柑橘「ゆこう」についての知識が乏しく、単なる翻訳ではなく、地域の文化や価値を理解したうえで“物語として伝える”ことの重要性に気づいたといいます。その気づきは、人の心を動かすデザインや表現とは何か、という問いへと発展。より専門的に学びたいという思いを強くし、連携教育課程美術も履修。現在カナダに留学し、環境アートにも関心を広げ、繊維や布、糸を素材とするファイバーアート作品の制作も行っています。
(「とくtalk」2026年春号掲載/取材2026年1月)
イタリア留学で触れたスローフードの理念を
地域で実体験しながら発信していきたい
氣谷さんは地域活動も積極的に行っていると伺いました。どういう活動をされているのでしょうか?
氣谷さん 地域実践研究会「NOROSHI」というサークルで、マルシェ出店、取材活動、援農などの地域実践活動をおこなっています。NOROSHIの活動を基盤にしながら、個人としても活動していて、徳島大学と上勝町の包括協定に基づいて設置された地域活性化・人材育成の拠点「上勝学舎」に関わる松本卓也先生(徳島大学 人と地域共創センター 特任助教)や、浅野農園さんと一緒に、スローフード上勝支部の立ち上げに取り組んでいます。上勝にしかない、世界に誇れる「食」や「暮らし」の知恵や、その魅力をより多くの人に伝えたいと考えています。

そうした活動に興味をもつきっかけは何だったんでしょうか?
氣谷さん きっかけは、1年生の夏休みのイタリア留学です。プログラムの一環で「テッラマードレ・サローネ・デル・グスト2024」に参加しました。「テッラマードレ」はイタリア語で「母なる大地」を意味し、このイベントは地域固有の食文化や生物多様性を守る国際的な非営利団体スローフード・インターナショナルが2年に一度開催する世界最大級の食の祭典です。160カ国以上から農家や漁師、料理人、研究者らが集い、環境や動物福祉に配慮した持続可能な生産や、失われつつある在来種・郷土料理・伝統農法を守る取組について発信していて、浅野農園さんともそこで知り合いました。帰国後、上勝町の農園に伺い、徳島特産の「ゆこう」の収穫などをお手伝いさせていただき、テッラマードレで感じたスローフードの理念を、理想にとどめるのではなく、自分の活動を通して体現し、その意味を実体験として社会に伝えていきたいと思っています。
なるほど。今はどんなことをされているのでしょうか?
氣谷さん 「ゆこう」を使った商品開発にも関わらせてもらっています。まだ構想段階で、上勝町で活動されているパティシエの方にもご相談しながら、ゆこうを「どのように使えるのか」「どうすれば価値を発揮できるのか」といった可能性を探っているところです。私自身、ゆこうについての知識はまだ十分ではないため、需要が見込まれる場面や、素材としての強み・弱みは何かといった点を、学びながら整理しているところです。

他にも何か活動をされていましたか?
氣谷さん 2025年8月から半年間、実践型インターンシップに参加しました。牟岐町の地域おこし協力隊の方と連携し、海洋教育の視点に美術を取り入れた授業づくりを提案しました。対象は牟岐小学校の4・5年生です。授業当日は留学と時期が重なり現地には参加できませんでしたが、授業設計に向けたフィールドワークを重ね、牟岐町の漁師や漁協関係者、小学校の先生方へのヒアリングを行いました。地域の現場の声を丁寧に聞き取りながら構想を練ることで、自身の経験や視点を生かした学びのプログラムを形にすることができたと思います。
世界で活躍する多彩な講師陣やWSが魅力
豊かな知識・技能が身に付く連携教育課程美術
氣谷さんは連携教育課程美術を受講されているそうですね。将来は美術の先生に?
※連携教育課程美術…香川大学・鳴門教育大学・徳島大学の3大学が連携して実施する教職課程。2023年以降入学の学生を対象に、美術の教員免許取得を目指す学生が、世界で活躍する実技・理論両面の美術教育研究者から学び、将来の優れた美術教師に必要な知識と技能を身につけられる魅力的なカリキュラム(https://www.renkeikyoshoku-art.com/)
氣谷さん 美術教員を目指しているわけではありませんが、美術教育そのものには強い関心があります。連携教育課程では東京学芸大学やブリティッシュコロンビア大学の先生方による講義や多彩なワークショップを受けることができ、大きな魅力を感じています。その中でも私が特に興味を持っているのが、「どうすれば人の心を動かすデザインができるのか」ということです。
アート作品を制作することよりも、学問的なアプローチに興味があるというわけですね。
氣谷さん そうした考えから、ゼミ選択では社会学や地域学の視点から人や地域を深く理解できるゼミと、デザイン全般を学べる佐原先生のゼミのどちらに進むか悩みましたが、最終的に佐原理先生のゼミを選びました。見た目の美しさだけにとらわれず、受け手をより深く理解したうえで形づくられるデザインとは何かに焦点を当て、「NOROSHI」の活動を通して得た「知らなければ伝えられない」という実感も踏まえながら、「心を動かすデザインとは何か」を探究していきたいと考えています。
アートを切り口に社会と文化を問い直す
カナダ留学で磨く専門性
1年生の時はイタリアへ留学されていたということですが、なぜイタリアだったんでしょうか?
氣谷さん ヨーロッパに行きたいという思いがあって。バチカン美術館やサンピエトロ大聖堂に行くことができ、美術的な学びも多く、街並みや建築のすべてが胸が高鳴るような経験でした。
「テッラマードレ・サローネ・デル・グスト2024」に参加されたということですが、イベントがあることは現地で知ったんですか?
氣谷さん いえ、留学プログラムのメインは「テッラマードレ」への参加ということは決まっていました。日本代表団の学生として販売サポートを行うことは分かっていたのですが、具体的なことは現地へ行って初めて知ることが多かったです。
そうなんですね。
氣谷さん 出展される農家さんのことも知らず、浅野農園さんとも会場へ向かうバスで隣の席になり、「今日はよろしくお願いします」と挨拶したのが最初の出会いでした。私自身、知識が浅く、「ゆこうって何?」という状態だったのですが、生産者さんから伺った思いを、現地の方々に英語で伝える役割を担う中で、単に「citrus」と説明するのではなく、「ゆこう」という名前のまま、物語をきちんと伝える方が分かりやすいかも…と工夫しながら生産者さんの思いを橋渡しする役を務める中で、「もっと上手く伝えたい」と強く感じるようになりました。そのためにも語学力だけでなく、地域に根付いた文化や伝統についても深く知る必要を感じ、そうした思いからカナダへの留学を決めました。

↑写真左から2番目が浅野さん。(シシトトラ 浅野農園 https://shishitotora.com/)
今回のカナダ留学の一番の目的は何でしょうか?
氣谷さん 英語力の向上などいろんな要素がありますが、強いて言えば環境アートへの挑戦です。
環境アートとはどのようなものでしょうか?
氣谷さん 自然環境を素材としたり、展示空間などの「環境」と一体化して展開される芸術活動を、一般的に環境アートと呼びます。現在取り組んでいるプロジェクトがその枠に当てはまるかは分かりませんが、繊維や布、糸を素材とするファイバーアートの授業で、「染め」をテーマに制作を行っています。

作品制作も行っているんですね。
氣谷さん はい。カナダで採れるブラックウォルナットというクルミの一種を細かく砕いて染料を作り、その染料で染めた糸を用いて作品を制作しています。さらに藍染めによる作品も制作し、二つの異なる染めを通して、自分自身の心情の変化を表現したいと考えています。
カナダでの留学生活で、楽しみにしていることはありますか?
氣谷さん モントリオール美術館へ行ってみたかったのですが、それは昨日、実現しました。やはりそのスケールや内容は圧巻でした。
もともと美術館巡りなどが好きなのですか?

氣谷さん そうですね。作品を見ることは昔から好きでしたが、美術部に所属していたわけでもなく、本格的にアートを学んできたわけではありません。作品制作の経験も多くはなく、大学に入ってから地域デザインコースの授業を履修する中で、いくつか関連する講義を受けている程度で、今まさに学びながら、吸収しているところだと思います。
地域デザインコースに進んだことで、興味が広がったのでしょうか?
氣谷さん 幼少期から芸術に触れる機会があり、英語や美術、地域、農業、文化といった分野への関心は、ずっと自分の中の根っこにありました。ただ、大学進学の際にそのどれか一つに絞ることができず、「選べないからこそ総合的に学びたい」と考えて、総合科学部に進みました。総合科学部の様々なことに取り組める環境は気に入っているのですが、専門性を極めるという部分が薄くなってしまうのではないかと思い、今回の留学ではアートを中心に学びを深めたいと思っています。
自分でテーマを設定し、専門性を極めようとされているんですね。
氣谷さん アートが好きというだけでなく、社会課題の解決や文化のあり方を考えるための一つの切り口として、アートに取り組んでいます。






