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描いて、削って、歯の形を体得する 歯科医の第一歩「歯の解剖学」

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歯の解剖学 対象:歯学部2年生 
大学院医歯薬学研究部 歯学域 組織再生制御学分野 教授
山本 朗仁 (やまもと あきひと)

とくtalk2026年冬号/取材2025年12月)

 

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歯科医師を目指す学生が、歯の形態や構造を正確に理解し、治療の際に患者へ正しく説明できるようになること、そして適切な修復物を作れるようになることを目的に行われているのが「歯の解剖学」です。
大人の歯は通常28本。上下左右にそれぞれ中切歯、側切歯、犬歯、第1・第2小臼歯、第1・第2大臼歯があります。それらの歯がどんな形をしていて、なぜその形なのか。1本1本の特徴や機能を学び、隅角や隆線といった歯の形状を表す用語などを学んでいきます。
 

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基礎的な内容はオンデマンドで学習し、月曜の午後、実習に参加します。学生は歯のスケッチや歯型彫刻の作成を通して、微妙な凹凸や角度、曲線の違いを自らの手で感じ取り、歯の形を立体的に理解していくのですが、これがなかなか大変。
 

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特に石膏棒から歯型彫刻を削り出す作業は、「美術や造形の才能がなければ合格点が取れないのでは?」 と思うほど、ポイントを押さえて精巧に作る必要があります。
 

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しかし「上手下手よりも、学生が自分で考え、気づくことを大切にしている」という山本先生。

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授業を担当している山本朗仁先生


「以前は学生が作った歯型彫刻に手を入れて、きれいに直していましたが、それではどこが違うのかを自分で考える機会を奪ってしまいます。今は手出しせず、作る過程を見守るようにしています。授業で上手にできないからといって、歯科医の仕事に苦手意識を持ってほしくないので、少しでも上達すれば『すごく良くなったね』と声をかけています」。

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こうした実習に力を入れているのは歯の治療の際、不適切な形の修復物は顎の破壊や関節の損傷、歯周病などを引き起こす可能性があるから。「詰め物や入れ歯などは歯科技工士が作りますが、歯科医もチェアサイドで即興的に暫間補綴物を作る能力が必要です。この実習を通して、そうした臨床につながる感覚を感じてもらえたら」と話していました。
 

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歯科技工士 津村希望さんによる特別授業

歯の形を総合的に理解するために有効な歯型彫刻。頭では分かっていても「思うように作れない」、「難しい」と感じる学生も。そこで「歯の解剖学」では、歯科技工士の津村希望さんに来ていただき、直接指導してもらえる特別授業が行われています。

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津村さんは徳島大学病院の歯科技工室に所属する歯科技工士で、学生時代に歯型彫刻のコンテストで全国二位の成績を収めた凄腕です。

授業で使用している歯型彫刻の制作動画も津村さんが作成している様子を撮ったもの。また、歯型彫刻の制作工程を段階的に示した教材「ステップ模型」も津村さんが作ったものです。

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ステップ模型は、削る箇所がわかりやすいよう、赤鉛筆で印をしてあるのですが、一点一点手書きしたものだそう。「私が学生の頃、こうした教材はありませんでした。あれば少しは分かりやすかったのではないかと思い、作成しました」という津村さん。自身の学習経験をいかし、学生たちに寄り添った指導を行っています。

立体を理解する難しさ

歯型彫刻の実習で多くの学生が直面するのは、平面情報を立体として再構成する難しさです。教科書には歯を上面・側面など四方向から描いた図が示されていますが、それらを頭の中でつなぎ合わせ、石膏棒から三次元の形を切り出す作業は容易ではありません。
 

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津村さんは、うまくいかない学生の歯型彫刻は「平らな面が多い」という共通点があるといいます。歯は基本的に曲面で構成され、平面はほとんど存在しません。図面通りに削っているつもりでも、結果として角張った“ポリゴン状”になってしまうのだとか。

技術習得のコツは「いろいろな角度から見ること」

では、その壁をどう乗り越えればいいのでしょうか。津村さんが強調するのは、「いろいろな方向から見る」ことの重要性です。「同じ角度からだけ見ていると、形のズレに気づきにくい。少し角度を変えるだけで、立体の印象は大きく変わります」。津村さんは一人ひとりの進捗を見ながら、つまずいているところを丁寧に確認し、次の形へどうつなげるかを具体的にアドバイスします。

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その時に役立つのが、ステップ模型です。どの段階まで出来ているのか、ステップ模型と見比べながら作業していきます。削ってはいけないところは青色の色鉛筆で印を付けておくのですが、使い慣れない小刀で石膏棒を削る作業はついつい削りすぎてしまう恐れがあるため、細かな調整は小刀から歯科用彫刻刀エバンスに持ち替えて行います。

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こうした道具の使い方も含め、歯型彫刻を上手に作るコツについて、津村さんは次のように語ります。
「まずは歯一本一本の特徴を捉えること。丸みの強い部分、尖りのある部分、噛み合わせ面の微細な凹凸など、細部の違いを理解するには反復練習が有効です。歯型彫刻は得意・不得意が分かれやすい分野。よく、才能のあるなしの問題と言われることもありますが、大事なのは練習と経験。何度も作っているとだんだんだと上達します。最初は時間がかかっても、一度苦労して完成させた経験が、次の制作を確実に楽にします」。

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歯型彫刻を通して培われる立体感覚と形態認識能力は、歯科医師の土台となる力です。繰り返しの練習によって身につけられたこれらの技術は、将来の臨床現場において、的確な判断と質の高い治療を支える基盤として活かされていくことでしょう。

 

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