健康食育サミット2020で講演する機会を、中村丁次先生(神奈川県立福祉大学学長)より与えて頂いたので、1年ぶりの東京への出張。今回のテーマは、”栄養と感染症”。まず、「免疫の仕組み」を順天堂大学医学部の三宅幸子先生が解説し、女子栄養大学の石田裕美先生が「感染症予防と食事」、早稲田大学の柴田重信先生が「感染症と体内時計」と話が続く。例年は参加者が会場に足を運ぶのだが、今年は新型コロナウイルス感染の影響で、講演を予め収録し、後日配信することとなっている(関心が高いのか現時点で約2,500人が申し込んでくれていると主催者から連絡があった)。無観客でうまく話すことは出来るだろうか。以前、読んだ書物を参考にしょう。「全集中の呼吸」では対応出来そうにない。

“観客は50人、小さなライブハウスで歌う二組のグループ歌手。一組は、目の前の観客1人ひとりに視線を送り、語りかけるように歌っている。もう一組は、狭くて薄暗いライブハウスの壁、はるか奥を見つめ、遠く叫ぶように歌っている。前者は目の前の50人に向かって歌い、後者は現実は存在しない5,000人に向かって歌っている。20年後、前者は街の片隅のライブハウスで50人の拍手に包まれ、後者は東京ドームで5,000人を震わせる”(中竹竜二、「挫折と挑戦」、PHP研究所)。

しゃべり出しは緊張からか思ったように言葉がでない。録画配信なので、通常のでレーザーポインターではなく、パワーポイント上のポインターを使用してくれと指示があり、常時顔を上げて話すことも出来ない。それでも半ばからは何とか慣れて、正面のカメラを向き話すことが出来るようになり撮影は終了。と思ったら、「先生、非栄養不良の人が36人と言っていましたが、スライドでは30人になっていました。ここだけもう一度取り直しをさせてください」。取り直したら、今度は「栄養不良の人が56人と言いましたが、スライドでは50人でした」。もう一度、加えて「話すトーンが違っています。気をつけてください」。やはり”乗って話している”時と同じようには話すことは難しい。講演終了間近に会場入りした石田先生には、照れ隠しで「2回も撮り直しをしてしまいました」と弁解気味に声をかけた。

ある日、部屋で来週の講義資料を作っていると、「いま時間はありますか?」とWさんが尋ねてきた。就職が決まったので、報告に来たと言っている。就職先は、私の出身県であるN県にある、ある町の職員とのことだった。田舎だが、自然はいっぱいだし、のんびりしていて、転勤もないし、何より(罪を犯さなければ)定年まで働きつづけることができる。生活が安定していて、良い就職先が決まってよかったと言ったが、本人はこの先、定年まで働くことを考えていないらしい。退職金も出るし、働き続ける方がいいと諭したが、本人はこれから色々やりたいことがあると言い張る。それでも説得を続けると、「じゃぁ、先生の夢はなんですか!」と切り返される。返答に困窮し、沈黙の時間が過ぎる。「夢」というものを長い期間、頭の中で考えたことはなかった。

<令和2年11月24日:酒井>

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