大学生の時には図書館にだいぶ世話になった。図書館に行けば、無料で様々な分野の本を読むことができる。CDが普及し始めたころ(1986年くらい)、図書館でクラッシック音楽のCDをよく借りにいったことを思い出す。

公立小中学校の学校図書館の充実に向け、国が2021年度、図書購入費として220億円の地方交付税交付金を措置したにもかかわらず、全国の自治体で図書購入に使われたのは6割弱の約126億円にとどまることが、文部科学省の調査でわかった(2023年6月6日読売新聞)。国から地方交付税交付金を配っても、実際の使い道は地方自治体が決めるのでこのような結果になったと報じている。財政難に苦しむ地方自治体は高騰化する社会福祉や国が推し進めるICT(情報通信技術)整備を優先として学校図書館の環境整備は二の次となっている。

同じタイトルの映画を見るよりも小説を読んでみる方が内容に深みを感じることが多い。(日常では体験できない)ドキドキ感、ハラハラ感、緊迫感、感動、悲しみ等は本を読むことでしか得られない特有の感情体験である。これからの時代は今以上にAIや情報に関する技術を習得することの重要性・必要性を否定するつもりはないが、小さい頃より本やマンガを読むことによる人格・感情形成も必要だと思う。まずは関心を持つように働きかけるためにも図書館の魅力的な環境は必要だろう。小説を読むことにより文章の構成、話しに深みを与える表現、読者が興味を持つストーリー性などが身についていく。学術論文を書く時にストーリー性や文章の組み立ては必要で(データを捏造してよいとはいっていない)、どの部分を強調すれば読み手の方に良いインパクトを与えられるのかという観点も論文を受理してもらう上で重要である。

若者の活字離れがささやかれて久しい。といっても私の学生時代でも教養科目の選択科目で、担当教員がチューターとなり1冊の本を輪読する科目があった。私が選んだ本は、世界中で熾烈な競争が繰り広げられていた視床下部ホルモンの分離・同定に関する内容で、勝者はノーベル賞を受賞した。またその発見には、日本人の松尾寿之博士がペプチド構造決定で関与していた(松尾先生(宮崎医科大教授、国立循環器病センター研究所所長)は、世界で初めて心房性ナトリウム利尿ホルモン分離・同定を行った研究者として知られている)。この科目の存在は学生に少しでも本を読む習慣を身につけることが目的であったと思う。ちなみに私が選択した本のグループは3人であり、担当したのは歯学部の教授の先生だった。3人の学生のために教授がこれだけ時間を割いてくれたのは、いい意味で全体的に余裕があった時代背景を伺い知ることが出来る。

学生の皆さんは、卒業あるいは修了までに大学の社会資源・人的資源を十分に活用してもらいたい。図書を沢山利用しても、図書館で何時間勉強しようと追加のお金は取られない。授業で分からないことがあったら教員に尋ねよう。実験に関心があったら教員室のドアをたたこう。こちらも無料です。

<令和5年6月13日:酒井>

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