数年前、徳島県は文部科学省の知的クラスター創生事業に採択された。地域特有の強みのある事業を支援し、地方創生を目標とするものである。徳島県の特産品にスダチがあり、全国で消費されるほぼ100%が徳島県で栽培されている(正確には98%)。スダチチンとは、スダチの果皮に唯一存在するフラボノイドの一種である。スダチチンの研究を始めたのはこの事業が切っ掛けであり、また徳島県工業技術センターの同級生が、スダチチンを所有していることも後押しになった。動物実験に使用できるだけのスダチチンを入手出来るのは、うちのラボだけであり、スダチチンに関する研究は独占状態かと安心していた。しかし、最近、明海大学の羽毛田先生のグループが、スダチチンは炎症性骨破壊を抑制するという論文を発表された(Plos One 13: e0191192, 2018)。また最近、スダチチンに関する研究論文のレビューも回ってきた。急がないと先を越されてしまう。

某テレビ局より、「スダチの果皮成分の機能性」について知りたいとの連絡があった。話を聞いてみると、「スダチの抗肥満効果」というテーマで番組を作成したいとのことだった。以前、私のラボでスダチの果皮に含まれるスダチチンをマウスに与えたところ、高脂肪食飼育による肥満を抑制できることを発表していたためであろうか(Nutrition and Metabolism, 11:32, 2014)。確かにマウスには効果があったかもしれないが、それがそのまま人に当てはまるかは分からないし、第一、スダチチンという精製物質の検証を人で行うことは費用的な面や安全面でかなりハードルが高い。動物実験で効果を確認したので、人でも同様な効果が期待できることを言ってもらいたいらしい。スダチチンには抗肥満作用がある→スダチ果皮にはスダチチン含まれている→スダチ果皮を食べることで痩せる。というのは二段論法的だと指摘しても一向に納得してくれない。「スダチは健康にいいようにコメントしてくれますか」と言われても、人での臨床試験の結果はないので“人”でどうかは言えないと答えた。管理栄養士の資格を有する教員であるので、一般の方々に変な期待を持たせることは禁句だと思う。納豆ダイエットが流行った時は、スーパーから納豆が消えたことがあった。私ごとであるが、ほぼ毎日、納豆を食べているが特に体重に影響しているとは思えない。「動物でのことなので」、「人ではわからない」を連発したので、電話先も嫌気がさし自然消滅のように会話が途絶えた。少しでもスダチをアピールできたらいいと思うのだが、この企画はボツになるかもしれない。

地元の新聞を見ていたら、「スダチ果皮入り生うどん 商品化」というタイトルの記事を見つけた。「粉末状にしたスダチの果皮を生地に練り込み、爽やかな風味に仕上げた。果皮には抗肥満作用があるとされる成分「スダチチン」が含まれており、健康面でのアピール材料にしている」と書いてあった。少しは役に立ったかもしれない。

庭にあるスダチの木を見てみたら、直径1センチくらいの小さな実が多数付いていた。

<平成30年6月14日:酒井>

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