令和3年6月1日より、病態生理学分野(Department of Pathophysiology)から遺伝情報医学分野(Department of Medical Genetics)へと分野名が変更されました。これまでは、ストレス脆弱性と疾患発症を結びつける「環境と遺伝子の相互作用」の解明をテーマにストレスゲノミクスの研究を行ってきました。特に、脳腸相関を介したストレス脆弱性の新しい克服方法の開発や、SRタンパク質ファミリーを中心としたRNA結合タンパク質、RNA修飾やnon-coding RNAを介したストレス研究など、新しい発想に基づく研究テーマに挑戦しています。

 これからは、これらの研究に加えて、遺伝学的解析に基づく疾患関連因子の同定からゲノム編集技術などを用いた疾患モデルの構築、さらには、これらの知見をもとにして得られた病態機序に即した新たな治療戦略の開発をテーマにした研究も進めていきたいと考えています。

 遺伝情報に関する技術や知識は爆発的に増加しています。ヒトの体の設計図であるゲノムDNAやそれから転写されたRNA、さらにはそれらの修飾によってさまざまな生命現象が調節されていることが次々に明らかにされており、いわゆる遺伝性疾患だけでなく、がんやcommon diseaseと総称される糖尿病や高血圧症も遺伝子の変化が大きく関与していることが分かってきました。遺伝性疾患は、基本的に1つの遺伝子変化(バリアント)で発症に至りますが、がんやcommon diseaseでは多くの遺伝子のバリアントが積み重なって病気を起こします。遺伝子解析技術が飛躍的に向上し、多くの遺伝情報が蓄積されてきたおかげで、このような複雑な仕組みが明らかになってきました。さらには、これらの知識を応用して、特定の遺伝子を調節することで病気を治療するという新たな薬剤も開発され、実臨床で使用されるようになっています。遺伝情報により、病気のメカニズムが明らかになるだけでなく、遺伝子が直接治療のターゲットとなる時代がやって来たわけです。この傾向は今後さらに顕著になり、多くの病気が遺伝情報に基づいて評価されるようになり、根本的な治療としてより多くの病気に遺伝子治療が行われるようになると推測されます。遺伝情報を適切に扱うスキルは今後の医療・医学において必ず必要になってきます。

 さまざまな疾患、さまざまな病態で遺伝学的な知識が役立つことがあると思いますので、幅広くいろいろな領域の方々と連携しながら研究を進めていけたらと考えています。興味を持っていただけたらお気軽にお声掛け下さい。宜しくお願いいたします。

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