学修目標

  1. 「プレゼンテーション力」とは何か、説明することができる。
  2. 「プレゼンテーション力」の3つの観点を説明することができる。
  3. 効果的なプレゼンテーションを行うためのポイントを説明することができる。

1.概要

 生まれた直後の赤ん坊は、泣くという手段で親に「お腹が空いた」、「オムツが濡れて気持ち悪い」、「眠い」という感情を伝えています。子供になったら「〜を買ってほしい」、「お小遣いを上げてほしい」ということを、大人になっても「共に〜しよう」、「結婚しよう」などと、相手に自分の主張(意見)を伝えながら、社会生活を送っています。家庭・学校、大学・会社・地域社会などにおいて自分の主張を伝え、さらには説得しているのであれば、それは立派なプレゼンテーションと言えるでしょう。

プレゼンテーション = 主張すること

(1)「プレゼンテーション力」の必要性
 上のプレゼンテーションにおいては、単に主張のみを繰り返すだけでしょうか。赤ん坊ではできないでしょうが、子供になったらその主張をする理由も合わせて述べているのではないでしょうか。これがプレゼンテーションの核となります。理由から主張を導くプロセスは、日常生活だけでなく、科学研究の中でも、あるいは社会(会社、地域社会)においても常に行われています。
 では、自分の主張を理由とともに相手に説明すると、相手にただちに主張を理解してもらえるでしょうか?必ずしも理解してもらえない場合もあるのではないでしょうか。相手に理解してもらうための「作法」があるのであれば、それを身につけておくことで、社会生活に役立てることが可能となります。

プレゼンテーション力 = 理由をつけて主張する「作法」

(2)大学における「プレゼンテーション力」
 上の説明でみたように、一般にプレゼンテーションは広い意味を持ちますが、これ以降での「プレゼンテーション」は、発表者が文章や図などを提示しながら、内容を相手に説明する、あるいは説得することとします。一般的には口頭で話す発表を思い浮かべるでしょうが、紙媒体のみの文章、あるいは動画などもプレゼンテーションに含まれます。紙媒体による文章のプレゼンテーションについては「3-1.『文章力』を身につけよう」で示されていますので、ここでは主に、口頭で話すことにより、伝えたい内容を説明するプレゼンテーションについて説明します。
 大学におけるプレゼンテーションの機会の代表としては、「卒業研究発表」が挙げられます。1年間程度の期間に、課題を発見し、研究し、卒業論文としてまとめるとともに、卒業研究発表の機会があります。そうした場で、自分の1年間の研究の成果(主張)を説明できることが、大学における「プレゼンテーション力」と言えるでしょう。こうした卒業研究を最終目標にして、授業・演習・実験・実習の中で様々なプレゼンテーションの機会が設けられています。また、就職における面接も、自分を説明し、入社を説得するという意味でプレゼンテーションと言えるでしょう。

大学における「プレゼンテーション力」 = 学んだ知識を使って論理的に主張できる

 大学においては、様々な知識を学んでいきます。単に知っているだけでなく、学んだ知識を生かす能力を身につけていくことが大切です。みなさんは学んだ知識を使って、自分の理解の幅を広げていくことになるでしょう。そして自分が理解した中から、課題を発見し、他人と共有していくといったことも大学で体験していきます。学んだ知識を積み重ねて主張を正しいものにしていく考え方は、「ロジカル・シンキング」と呼ばれています。つまり「論理的に考えることができる」ということです。大学におけるプレゼンテーションにおいては自分の主張や理由に、学んだ知識を論理的に組み込んでいくことを意識してください。
 論理的に考え、プレゼンテーションをすることを短期間にマスターすることは難しいでしょう。徳島大学ではSIH道場において、プレゼンテーション力を身につけるための第一歩となる場を提供しています。まずはこのテキストとビデオ教材*で学び、授業の中で体験していきましょう。

2.「プレゼンテーション力」の3つの観点と尺度

「プレゼンテーション力」には、「①内容の構成」「②姿勢」「③視覚資料」の3つの観点があります。以下では、これらの「観点」と、3つの尺度(「(A)期待通りです」「(B)まずまずです」「(C)努力しましょう」)について、「<プレゼンテーション力>ルーブリック」に基づいて説明します。

「①内容の構成」
 プレゼンテーションには、相手に内容を理解してもらう「説明のプレゼン」と、相手に行為を要求する「説得のプレゼン」があります。そのどちらであっても

理由(根拠+論拠)→結論・主張

を論理的に構成していきます。理由を複数述べるといった場合には、論理の構造を発表者だけでなく、聞き手にも理解してもらえるように工夫しましょう。


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課題  次の事柄について説明してみましょう。

(1)根拠とは
(2)論拠とは

(3)論理的考え方の例として演繹的推論、帰納的推論とは

ルーブリック評価表の「(A)期待通りです」の例:
・主張・結論が明確である。
・根拠が示されている。
・論拠が示されている。
・理由と結論・主張をわかりやすい順番で構成している。

※これらがすべてできていた場合、「(A)期待通りです」と評価しましょう。

ルーブリック評価表の「(C)努力しましょう」の例:
・理由が不明瞭である。
 ☞まずは、観察や実験を通して得られた発表者のみが持っている理由であるのか、文献に記述されている文章・考え方(この場合は引用して理由とする)なのか、一般的に教科書などに記述されていることがらなのか、を区別してみましょう。そして、どれが根拠で、どれが論拠かを考えてみましょう。

・主張・結論が不明確である。
 ☞主張・結論が不明確であるのは、プレゼンテーションの構想が未熟だからです。さらなる根拠を求めたり、論拠を学習することを通じて構想をさらに練っていきましょう。

 ☞反論を恐れるあまり、わざと主張・結論を不明瞭にしていませんか。聞き手からの反論を通じて議論をすることは、同じ課題に対し異なる意見があることを知る絶好の機会です。反論を極度に恐れず、主張・結論を明確にしていきましょう。

・理由と結論がわかりやすい順序で構成されていない。
 ☞理由が不明瞭なのか、主張・結論が不明確なのかを見極め、補強し、再構成してみましょう。

※理由と結論がわかりやすい順序で構成されていない場合、「(C)努力しましょう」と評価しましょう。

「②姿勢」
 話すプレゼンテーションにおいては、説明や説得する内容だけでなく、発表者が内容に向き合う姿勢も同時に伝えています。具体的には発声、視線、表情、体の姿勢(ボディーランゲージ)などが姿勢と言えます。大学におけるプレゼンテーションは論理的に話を展開していくため、非日常的な行為です。いきなりプレゼンテーションの本番を迎えるのではなく、練習を通して発表の姿勢を学ぶようにしましょう。

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ルーブリック評価表の「(A)期待通りです」の例:
・声が発表会場に十分届いている。また、語尾まではっきりと発声している。
・会場の聞き手に視線を向け、どのような反応であるかを見極めている。
・自信をもった表情で発表している。
・口を動かすだけでなく、時々ボディーランゲージを使い、内容を伝える姿勢が見られる。
  ※上の4項目がほぼできていた場合、「(A)期待通りです」と評価しましょう。

ルーブリック評価表の「(C)努力しましょう」の例:
・声が小さく、発表会場の一部にしか届いていない。
・語尾が不明瞭である。
・視線が視覚資料または原稿に向いたままで、会場の聞き手をほとんど見ない。
・自信がない表情で発表している。
・ボディーランゲージを全く使っていない。
 ※説明する内容を聞き手に理解してもらう姿勢がなく、淡々と発表をこなしている場合「(C)努力しましょう」と評価しましょう。

「③視覚資料」
 
プレゼンテーションといえば、パワーポイントのような映像を見せながら話すというイメージがあるでしょう。話という聴覚ではなく、視覚を通して伝えたい内容の理解を助けるための資料を「視覚資料」と呼びます。具体的には、パワーポイントのようなパソコンによるプレゼンテーション・ソフトだけでなく、黒板、ポスター、ビデオ、といったものも含めて視覚資料と呼んでいます。
 プレゼンテーションの準備とは視覚資料を作成することと思いがちですが、実は視覚資料を作成する前に準備しておくことがあります。発表する内容そのものを調べるだけでなく、関連する文献を読み込む、発表のテーマを絞り込む、結論・主張を決める、構成を考えるといったことは、視覚資料を作り出す前に十分に行う必要があります。「②姿勢」の項目では、プレゼンテーションにおいては内容だけでなく、発表者が発表内容に向き合う姿勢も伝えられていると述べました。人生すべてが今後のあらゆるプレゼンテーションの準備とも言えるでしょう。


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ルーブリック評価表の「(A)期待通りです」の例:
・理由を説明するのに十分な文章、表、グラフ、図、式などが盛り込まれている。
・無駄な情報がなく、「見せる」視覚資料になっている。

ルーブリック評価表の「(C)努力しましょう」の例:
・必要な情報が不足している、または無駄な情報がある。
 ☞発表者がどういった根拠・論拠に基づいて結論・主張に至ったのかのプロセスを、聞き手に理解してもらうためには、適切な資料を用意しなければなりません。どの情報が大切であり、どの情報が不足しているのかは、単に発表者の準備の問題だけでなく、どのような聞き手を相手にプレゼンテーションするのかによって変化してきます。

 ☞プレゼンテーションの失敗が続いたからといって、自分はプレゼンテーションに向かないと決めつけないでください。プレゼンテーション後の議論の場で、聞き手の反応を確かめ、自分の発表のどこが不足または過剰であったかを振り返ることで、次のプレゼンテーションはもっと良いものとなるでしょう。

・「読ませる」資料になっている。
 ☞プレゼンテーションにおいて伝えたい内容を、そのまま文章にすることを「読ませる」資料と言います。これは望ましくないと言われています。聞き手には、見出し・箇条書き・キーワードといった短い文字情報によって構成される「見せる」視覚資料を表示します。発表者の話と視覚資料によって、聞き手はその論理構成を想像します。聞き手にとって想像した通りの話が展開されれば、それが「伝わる」プレゼンテーションと言えるでしょう。

 ☞また、「見せる」ことが「伝わる」につながるという点では、デザイン・絵画・映画などの芸術もプレゼンテーションの参考になるのではないでしょうか。良い表現にであったら、どうしてその表現を良いと感じたのかという点を自分なりに考えておくことで、自分の表現の幅を広げていってください。

さらに「プレゼンテーション力」について学びたい人へ:文献案内

  • 福澤一吉(2002)『議論のレッスン』日本放送出版協会
  • 渡部欣忍(2014)『あなたのプレゼン誰も聞いていませんよ!』南江堂
  • カーマイン・ガロ(2010)『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』日経BP社

    学習の振り返りルーブリック評価表.pdf (PDF 323KB)