私たちは分子レベルでの生体機能解明を指向した有機化学的研究を行います。
ゲノム解読後、ゲノム創薬を含むポストゲノムサイエンスを指向し、種々の試みがなされています。さて、ゲノム解析により、新規蛋白質の一次構造が次々と明らかにされつつありますが、この配列情報の蓄積だけでポストゲノムサイエンスは進展するのでしょうか?情報の蓄積は、ポストゲノムサイエンス発展の必要条件ですが、十分条件ではありません。一次構造既知の蛋白質がただ一つ存在しても、この蛋白質の機能(意味)の全貌は決して明らかになりません。なぜでしょう?
酵素や受容体蛋白質を例にします。酵素は、基質を他の生成物に変換する手助けをすることにより初めてその機能を発揮します。受容体が意味を持つのは、リガンド分子との結合を介して、リガンド情報を他の分子に伝える場合です。このように、蛋白質は、蛋白質を含む他の分子との相互作用を通じて、本来の機能を発揮します。蛋白質を中心とする生体分子間の相互作用は、生体機能を理解する上でのKey Wordとなります。
"生体分子間の分子レベルでの相互作用を有機化学的な観点から見つめ、そして調節すること"は、生体機能解明研究のみならず創薬研究にとって重要と考えます。そして、これを実現するために有機化学的な視点から"ペプチド"や"ペプチドのようなもの"をデザイン・合成し、その応用展開を図ろうとしています。すなわち、私たちは、ペプチド、蛋白質、有機合成化学を基盤とし、ポストゲノムサイエンスの一つとしてのPeptide-based Chemical Biologyの開拓を目指しています。
なぜ、私たちは有機化学に拘るのか?-分子の相互作用を微視的なレベルで解析、調節するためには有機化学は不可欠なものと信じるからです。また、生体分子複合体の分子機械としての精密さを合成化学に応用することも私たちの夢の一つです。