還元性硫黄化合物測定方法

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バイカル湖は,ロシアの中南部に位置するアジア最大の湖である。南北に700 kmと細長く,最大水深は1637 mと世界で最も深い湖である。また,世界の淡水の20 %がバイカル湖にあるとされ,淡水湖では世界最大である。水質も世界一の透明度を誇り,世界遺産に登録されている。バイカル湖の湖岸にはほんの一部しか道路がなく,南部の一部を残して沿岸にはほとんど人が住んでいない。バイカル湖東岸の南に位置するバイカルスクでは,背景にある広大な森林を活用し,パルプ生産が盛んに行われている。バイカルスクは製紙コンビナート建設に伴い建設された町であり,パルプ生産が町を支えている。バイカル湖では,一時,このパルプ工場から排出されるPCB汚染や,工場廃水による富栄養化がもたらす水質汚濁が問題となったが,現在では廃水処理が完備され,水の汚染は沈静化したとされている。
現在では,パルプ工場からの排煙とそれによる悪臭が問題となっている。この臭いは,廃水処理の溜め池や木材の加工処理に伴って発生する還元性硫黄ガスが原因であることが判明している。パルプ工場では実に年間5000 tもの木材が加工されており,その結果,木材中の硫黄が,加工・廃水処理に伴って大気中に膨大に放出され,還元性硫黄ガスの発生源となっているのである。発生した排ガスは,パルプ工場の背後にある山々によって閉鎖され,さらに湖面と山との温度差によって発生した山から湖へと吹く風によって,バイカル湖上へ運ばれる。この硫黄ガスは特異な臭いを放ち,その悪臭はパルプ工場近辺の民家だけでなく,近隣の町や,時には70 km離れた対岸にまで届くこともある。これらの還元性硫黄ガスは大気中で硫酸塩やメタンスルフォン酸などのエアロゾルを生成している。しかし、これまでにエアロゾル中の硫化水素やメチルメルカプタン等の報告例はなく測定方法も確立していない。
本研究では,エアロゾルに含まれる還元性硫黄化合物の捕集・測定方法を検討し、パルプ工場から発生する大量の還元性硫黄化合物の動態や近隣地域への影響を解明しようと試みている。

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