環境中過塩素酸イオンの動態

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人間は,その成長と恒常性維持に不可欠な甲状腺ホルモンを合成するためにヨウ素を摂取,吸収する必要がある。しかし,甲状腺によるヨウ素の取り込みは,過塩素酸イオンによって妨げられる。過塩素酸イオンを多量に摂取すれば,甲状腺ホルモンを生産できなくなり,神経障害を引き起こす可能性がある。過塩素酸イオンは,燃焼推進剤(スペースシャトル,ミサイルなど)や,身近なところでは,発炎筒,花火などに含まれている。また,大気中においても塩素粒子の光化学反応などにより生成する。これらの過塩素酸イオンは,大気環境中に拡散し,飲料水,牛乳および母乳,あるいは食物へと移行し,人間に摂取されていると予想される。1997年に米国西部で過塩素酸イオンによる水質汚染が発見されて以来,米国では環境中の過塩素酸イオンについての関心が高まっている。
近年,日本と米国の各地で市販されている牛乳に含まれる過塩素酸イオンの測定を行い,日本の平均濃度は米国に比べて2倍近く高く,両国の平均濃度には有意な差(p ≤ 0.00001)があることが報告された。しかし,日本では米国のように軍事産業は存在せず,過塩素酸イオンを多く含む窒素肥料も使用していない。両国間で,なぜこのような過塩素酸イオンの濃度差が生じたのかは不明なままである。日本国内における環境試料中の過塩素酸イオンに関する報告は少なく,現状では,国内においてどの程度の過塩素酸イオンが環境中に拡散しているのか全く不明である。
本研究では,様々な環境試料中の過塩素酸イオン濃度を測定できるシステムを構築し,日本における過塩素酸イオンの拡散状況の解明を試みている。

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