DNAの二(に)重(じゅう)らせん構造(こうぞう)において核酸(かくさん)塩(しお)基部(きぶ)はA(アデニン):T(チミン)およびG(グアニン):C(シトシン)ペアからなるワトソン-クリック塩基(えんき)対(たい)を形成(けいせい)しています。このワトソン-クリック塩基(えんき)対(たい)の特徴(とくちょう)として、1)塩基(えんき)間(かん)の特異(とくい)的(てき)な水素(すいそ)結合(けつごう)形成(けいせい)と2)形(かたち)の相補(そうほ)性(せい)の二つ(ふたつ)が挙げ(あげ)られます。すなわち、A:T 塩基(えんき)対(たい)はAが水素(すいそ)結合(けつごう)のドナー、アクセプター(DA)、Tがアクセプター、ドナー(AD)の組み合わせ(くみあわせ)からなる二(に)本(ほん)の水素(すいそ)結合(けつごう)、またG:C塩基(えんき)対(たい)はGが ADD、CがDAAの組み合わせ(くみあわせ)からなる三(さん)本(ほん)の水素(すいそ)結合(けつごう)により、それぞれ特異(とくい)的(てき)な塩基(えんき)対(たい)を形成(けいせい)しています。もう一つ(ひとつ)の特徴(とくちょう)として、塩基(えんき)対(たい)は必ず(かならず)大きい(おおきい)プリン環(たまき)と小さい(ちいさい)ピリミジン環(たまき)の組み合わせ(くみあわせ)からなり、これはペアを形成(けいせい)する塩基(えんき)対(たい)どうしの形(かたち)の相補(そうほ)性(せい)と呼ば(よば)れています。
このような水素(すいそ)結合(けつごう)の組み合わせ(くみあわせ)と形(かたち)の相補(そうほ)性(せい)に基づく(もとづく)特異(とくい)的(てき)な塩基(えんき)対(たい)形成(けいせい)によりDNAは生体(せいたい)内(ない)で安定(あんてい)な二(に)重(じゅう)らせん構造(こうぞう)を形成(けいせい)し、塩基(えんき)配列(はいれつ)の正確(せいかく)な複製(ふくせい)、転写(てんしゃ)により厳密(げんみつ)な遺伝(いでん)情報(じょうほう)の保存(ほぞん)・伝達(でんたつ)が可能(かのう)となっています。またPCR法(ほう)やモレキュラービーコンなどの遺伝子(いでんし)診断(しんだん)技術(ぎじゅつ)もこのような塩基(えんき)対(たい)形成(けいせい)の特異(とくい)性(せい)を基本(きほん)原理(げんり)としており、バイオテクノロジーの上(うえ)でも大きな(おおきな)意義(いぎ)を持っ(もっ)ています。
私(わたし)たちの研究(けんきゅう)室(しつ)では、ワトソン-クリック塩基(えんき)対(たい)に続く(つづく)第(だい)3番目(ばんめ)の塩基(えんき)対(たい)創製(そうせい)を目的(もくてき)として4本(ほん)の水素(すいそ)結合(けつごう)によって塩基(えんき)対(たい)形成(けいせい)が可能(かのう)なIm:Na塩基(えんき)対(たい)を設計(せっけい)し、ヌクレオシドユニットの合成(ごうせい)とそれらを含む(ふくむ)オリゴヌクレオチドの性能(せいのう)・機能(きのう)評価(ひょうか)を行い(おこない)ました。その結果(けっか)、Im:Na塩基(えんき)対(たい)を含む(ふくむ)二(に)本(ほん)鎖(くさり)オリゴマーは熱(ねつ)的(てき)に極めて(きわめて)安定(あんてい)になることが明らか(あきらか)になりました。また水素(すいそ)結合(けつごう)のならびによって安定(あんてい)性(せい)に大きな(おおきな)違い(ちがい)があることも分かり(わかり)ました。
この塩基(えんき)対(たい)はDNAポリメラーゼによる酵素(こうそ)反応(はんのう)においても特異(とくい)的(てき)に認識(にんしき)されることが明らか(あきらか)となり、現在(げんざい)、これを利用(りよう)した核酸(かくさん)医薬品(いやくひん)創製(そうせい)の新しい(あたらしい)方法(ほうほう)論(ろん)の確立(かくりつ)をめざしています。