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徳島大学薬学部長
土屋 浩一郎

徳島大学薬学部では 「多様な薬学分野を基盤とした幅広い知識と技能を身につけ、薬学の種々の職能領域、そして、社会と相互連携し得る高い倫理観をもち、自ら活躍できる場を積極的に開拓できる人材(「インタラクティブ YAKUGAKUJIN」)を育成することを教育理念として掲げ、令和3年度より全員6年制の薬学部へと移行しました。以下、これからの薬学部の方針についてご説明いたします。
「薬の創製(創薬)をめざす」という、日本薬学の開祖、長井長義博士の進言により、大正11年に徳島高等工業学校応用化学科(製薬化学部)設立され、翌年度から学生を受け入れ昭和24年に徳島大学薬学部と改称され現在に至ります。わが国唯一の高等工業(工専)を前身とする国立大学薬学部として令和5年には創立100年を迎えることになります。
したがって徳島大学薬学部は「創薬研究」を基盤としてこれまで発展してきたことは明らかであり、卒業された方の多くは製薬会社や化学工業で活躍されています。一方で本学部は医学部・歯学部・大学病院が集積した蔵本キャンパスの中に位置しており、全国でも珍しい医療系学科に隣接した薬学部という特徴も有していることから、創薬研究と医療分野を融合できる素地も有していました。
さて、平成18年度より施行された改正学校教育法により薬剤師養成のための教育課程の就業年数は6年となりました。それまで徳島大学薬学部は薬剤師免許を必要としない分野に卒業生の約半数が就いていたこと、さらには薬学部に入学した学生には等しく薬学の基礎を身につけてもらいたいという考えから、全国の国公立大学と歩調を合わせて薬学科(6年制学科)と創製薬科学科(4年制学科)の2学科並立としましたが入学時に両学科を区別せずに一括募集し、学部3年次後期から各学科に分かれる方式を採用し、その当時から『薬学を基盤とした薬剤師・薬学研究者養成』に取り組んできました。
その結果として、薬学科の学生はもとより、創製薬科学科に入学した学生も薬が使われる医療の現場を理解した創薬技術者・研究者として、また一部の学生は博士課程の間に薬剤師国家試験の受験資格を得ることで、最終的に学位と薬剤師免許を持った研究者としての視点を持った薬剤師も生まれていました。
また、薬学部6年制となってから薬学を取り巻く環境も大きく変わり、今後は1)地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築と運用に貢献できる病院・薬局薬剤師、行政薬剤師、2)大規模災害時の医療救護活動に貢献できる薬剤師、3) 「超スマート社会(Society5.0)」の実現に貢献できるデータサイエンスに強い薬剤師・薬学研究者、4)臨床上の問題点を基礎研究で解明し、臨床へフィードバックできる薬剤師・薬学研究者、そして5)薬学教育研究の将来を担う、博士の学位を有する薬剤師、すなわちPharmacist-Scientistとして社会に貢献できる人材が強く求められるようになってきました。
そこで創製薬科学科で培ってきた研究指向の教育内容を薬学科と発展的に融合し、高度な基礎力の涵養と多彩な進路選択が可能な『薬剤師資格を基盤とする薬学部新6年制課程』を今回の改組により構築いたしました。
令和3年度からの徳島大学薬学部入学者は、全員が薬剤師免許取得可能な6年制を前提としつつ、研究能力のある薬剤師・薬学研究者、すなわち薬剤師養成だけではなく薬学に関する幅広い分野の研究に参画できる人材の育成を主とし、そこに薬剤師として医療のことを理解できるPharmacist-Scientistの養成を目的としてカリキュラムを新たに構築しています。
1~2年生では薬学および研究の基礎を習得して薬学とは何かを理解し、3年次からは個々の適正に合わせて2つのコースに分かれます。創製薬科学研究者育成コース(定員30名)は、飛び級(PharmD-PhD)による長期研究期間の確保を通じて、将来、薬学研究者および薬学教育者として活躍する人材を養成します。先導的薬剤師育成コース・研究型高度医療薬剤師育成プログラム(定員40名)は将来、チーム医療や先進医療分野で活躍できる専門薬剤師を目指す人材を、そして先導的薬剤師育成コース・研究型地域医療薬剤師育成プログラム(定員10名)は将来、地域医療において指導的役割を担う人材を養成します。
これらの課程を通じ、徳島大学薬学部では「多様な薬学分野を基盤とした幅広い知識と技能を身につけ,薬学の種々の職能領域,そして,社会と相互連携し得る高い倫理観をもち,自ら活躍できる場を積極的に開拓できる人材(「インタラクティブ YAKUGAKUJIN」)育成を実現し、国民および世界の人々の豊かで健全な未来社会の実現に貢献することを目指します。
以上、令和3年度以降の薬学部の特徴について説明いたしましたが、徳島大学薬学部が創薬と医療を車の両輪としていることは不変であり、この点においてはこれから入学する学生と、現在在籍している学生・院生において何ら変わるものではありません。
徳島大学薬学部が創設された1920年代前後は、1923年の関東大震災(自然災害)、そして1918年~1920年のスペイン風邪の世界的大流行が起きていた時代で、驚くほど100年後の現代と似ています。その時、長井長義博士は「薬の創製(創薬)を目指す」という志(こころざし)を立て本学が生まれました。
時代は移り変わりましたが今一度この言葉をかみしめ、徳島大学薬学部に集う人すべてが、薬学が関与する全ての分野において新しい時代を切り開いていてもらいたいと強く願う次第です。

 

 

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