平成29年度 APテーマⅠ(アクティブ・ラーニング)シンポジウムを開催しました

1.概要
 本シンポジウムは、徳島大学における教養教育科目及び専門科目におけるアクティブ・ラーニングの実践事例を共有し、その成果と課題について議論を行うことで学内への普及につなげること,及びAPテーマ採択校代表3校の取組について情報共有し、成果の発信を行うと共に、今後の大学教育改革の方向性とそのための指針について協議することを目指し,平成29年度より新たな企画として実施された。徳島大学
総合教育センター教育改革推進部門の上田勇仁特任助教が司会を務め、同部門の新原将義助教、京都光華女子大学の酒井浩二教授,徳山大学の庄司一也特任講師・寺田篤史特任講師の3組によって,それぞれの大学におけるアクティブ・ラーニングの普及の取組が紹介された後、筑波大学の茂呂雄二教授による指定討論を行い、会場を交えたディスカッションを実施した。

以下ではまず、プログラムの主旨と各提題者による提題の内容を記すことでプログラムの詳細を示し、その後、実際に行われたシンポジウムの様子を報告する。

2.プログラムの詳細
 -2.1 本シンポジウムの主旨
 徳島大学は平成26年(2014年)に,「学生と教員が共に成長する『SIH道場~アクティブ・ラーニング入門~』」を中心とした取組を提案し,文部科学省大学教育再生加速プログラム(AP)のテーマ「アクティブ・ラーニング」に採択された。平成26年度を実施準備の期間とし,平成27年度から「SIH道場~アクティブ・ラーニング入門~」を開講し,平成29年度には学部1年生全員の1417名が受講している。

 また,平成28年度からは徳島大学はAPテーマ「アクティブ・ラーニング」のテーマ別幹事校となり,全国の9校の連携による成果の発信という新たな役目も担うこととなった。本APシンポジウムは,このテーマ別幹事校としての業務に伴い,これまで徳島大学の単独開催として行ってきた企画を,新たにAPテーマ採択校9
校による共同開催としたものである。実際に行った企画のタイムテーブルは以下の通りである。


 APテーマ「アクティブ・ラーニング」シンポジウム開催第1年目となる今回は,徳島大学の他,同じくAPテーマ採択校である京都光華女子大学,及び徳山大学の計3校による取組の紹介を行うと共に,筑波大学の茂呂雄二教授より,学習・発達論の見地から,これまでの成果や今後の課題について意見を伺った。また,文部科学省の河本達毅改革支援第二係長より,APの取組と質保証についてご講演をいただき,さらにフロアを交えた議論を行った。本報告では特に,各校の発表内容を概観し,指定討論及びフロアとの議論のなかで浮かび上がった論点について報告する。

時間

内 容

詳 細

担当者

13:00-13:05

開会挨拶

 

高石喜久

13:05-13:15

企画主旨

 

新原将義

13:15-14:30

話題提供

徳島大学の発表
京都光華女子大学の発表

徳山大学の発表

新原将義

酒井浩二

庄司一也・寺田篤史

14:30-15:00

指定討論

アクティブ・ラーニングの実践報告を受けて

成果・課題、議論の論点等

茂呂雄二

15:00-15:20

質疑応答

フロアとの議論

上田勇仁(司会)

15:30-16:00

講演

「大学教育再生加速プログラム(AP)と質保証~アクティブ・ラーニングに着目して~」

河本達毅

(文部科学省)

16:00-16:30

フリーディスカッション

講演内容、シンポジウム全体を

振り返っての議論

新原将義・上田勇仁

(司会)

茂呂雄二

(コメンテーター)

 
-2.2 各校の報告
 徳島大学の取組 徳島大学の新原将義助教より,徳島大学の取組の概要及びこれまでの成果,今後の課題について発表が為された。発表のなかでは,理工学部電気電子システムコース「STEM演習」や総合科学部「課題発見ゼミナール」といった授業事例が紹介されると共に,これまでの調査結果を用いた効果検証の経過が報告された。SIH道場受講者に対するアンケートの結果からは,ラーニングスキルに関する学修成果については回答結果に大きな変化は見られないものの,学修の振り返りについては,積極的に取り組んだとする学生の割合が増加しており,一定の成果が見られること,及び全学調査の結果との比較では,SIH道場実施前の結果よりも授業外学修時間に増加の傾向が見られることなどが示された。また,個人的な成果ではなく,コミュニティの変化を成果として捉える視点の必要性が指摘され,その指標として学内の学習スペースの稼働率などを調べることが有用なのではという提案があった。

 京都光華女子大学の取組 京都光華女子大学の酒井浩二教授より,京都光華女子大学の取組の概要及びこれまでの成果,今後の課題について発表が為された。発表のなかでは,ペアワークやクリッカーの活用を取り入れた授業の様子や,教室の改修,学修ステーションの活用といった環境デザインの取組,学生チューター制度による学年間の交流の活発化の事例などが報告された。また退学率や就職率,国家試験の合格率などを指標とした出口保証の取組についても共有が為された他,今後の課題として,専門課程におけるアクティブ・ラーニングの推進,ベストプラクティスの全学的共有,4年間の個別学生のアセスメントの体系化などが挙げられた。
 
 徳山大学の取組 徳山大学の庄司一也特任講師,寺田篤史特任講師より,徳山大学の取組の概要及びこれまでの成果,今後の課題について発表が為された。発表のなかでは,授業の評価に関する独自の指標であるBAL(Barometer of Active Learning)値を用いた授業評価システムや,地域課題によるアクティブ・ラーニングの体験を目的とした「地域ゼミ」の授業事例,「課題対応力評価コモンルーブリック」を用いた学習成果の評価の仕組みについて紹介があった。また学内専任教員を対象とした意識調査の結果から,教員がアクティブ・ラーニング導入を負担に感じていることや,アクティブ・ラーニング推進自体には否定的ではないものの全面的なアクティブ・ラーニング推進に対しては懐疑的であるとする意見などが紹介された。
 
-2.3 指定討論
 指定討論として,筑波大学の茂呂雄二教授より,学習・発達論の見地から3校の取組について論点を整理いただいた。発表では,古典的な能力観から新しい学力についての議論を含めたこれまでの学習・発達論の流れを共有し,近年の学習科学で着目されている「遊び」を通した発達という考え方について解説が為されたうえで,3校の取組において学生の遊びによる発達の過程をどのように生起させているのか,またそうした機会をどのように増やしていけるのかという論点が指摘された。
 
 また,アクティブ・ラーニングが世界的な新自由主義の流行に伴うグローバル化の中で注目されてきたという流れが解説されたうえで,3校の取組の中には新自由主義的な流れとは相反する要素が数多くあり,そうした要素を確保することの学習的・発達的な重要性について指摘が為された。具体的には,徳島大学の「教員も学習者である」と捉える視点や教員の学習を支援する取組,徳山大学のオーセンティックな地域課題を題材とした授業の事例,先輩と後輩との関係性を活用した京都光華女子大学の支援システムなどが挙げられ,新自由主義的アレンジメントのなかで学習の本質を取り戻すための取組として高く評価された。そのうえで,アクティブ・ラーニングを普及していく上では,教員の負担についてエフォート管理をしながら考えていくことも必要なのではないかという論点が挙げられた。

-2.4 講演
 文部科学省の河本達毅改革支援第二係長より,APの取組と質保証についてご講演をいただいた。講演では,高等教育の質保証の考え方について解説がされた後,これまでの制度改正の内容や,アドミッション・ポリシー,カリキュラム・ポリシー,ディプロマ・ポリシーを起点とした内部質保証の方法について紹介があった。
 
 さらに,学士課程における学修成果を捉える上での参考指針として,中教審がこれまで提案してきた活きる力や学士力,OECDの提案するキー・コンピテンシー,経済産業省の提案する社会人基礎力などの諸概念について解説と整理が為されたあと,こうした能力の育成につなげるために可能なアプローチとして,アクティブ・ラーニングの観点から,目標設定,評価,施設・設備,授業手法の4種のアプローチが考えられるという説明が行われた。

-2.5 フリーディスカッション
 フリーディスカッションでは,フロアから提出された質問の内容をもとに,登壇者とフロアとの間で議論が行われた。まず,アクティブ・ラーニングを全学的に推進する上での設備の整備やその利用状況について質問が為された。この点について新原助教より,発表資料をもとに図書館の学習スペースの利用件数の推移について紹介が為された。酒井教授からは,京都光華女子大学における「学習ステーション」と各学科に設置されている「コモンズ」の取組についてそれぞれ紹介が為された。また徳山大学からは,ラーニングコモンズの設置に際する学内の諸施設との位置関係の設計の重要性が指摘された。
 
 このほか,これまでの全学的な取組のなかで困難であった課題について質問が為された。これに対して酒井教授より,京都光華女子大学では,国家資格の取得を目指す学部と多様な進路の可能性を含有する学部とでは取組の内容が大きく異なるため,アクティブ・ラーニングの普及による各学部のメリットを示しながら協力を求めていく必要性があるとの意見が述べられた。

3.まとめ
 今年度より新たに実施した「APテーマⅠアクティブ・ラーニングシンポジウム」は,APテーマⅠ採択校9校による共同開催という新たな試みであり,採択校9校の取組の成果の共有及び9校連携による情報発信の取組として貴重な機会であったといえる。一方で,今回は首都圏や都市部から離れた地方での開催ということもあり,参加者が当初の想定よりも少なかったことは否めない。APテーマⅠの情報発信の機能を強化するためには,より多くの参加者を集めることが今後の課題であるといえ,そのためには開催地の変更などの工夫が必要であると考えている。 
 また,本シンポジウムでは指定討論として,従来から高等教育論になじみのある人材ではなく,教育・学習心理学の専門家をお招きし,学習・発達論という新たな観点からの議論を試みた。その結果,従来からの議論とは異なる観点からの議論が生起し,各校の取組の成果や今後の課題がより明確になったといえる。今後のシンポジウムにおいても,多様な分野の専門家による指摘を受けながら,各校の取組の成果や課題について様々な観点から再考する機会が重要になっていくといえよう。

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