【T-PEAKS 第5号】株式会社amidex伊原 晃CEOインタビュー

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【T-PEAKS 第5号】株式会社amidex 伊原 晃CEOインタビュー

 第5号は徳島大学発ベンチャーの株式会社amidex 代表取締役CEO 伊原 晃 氏に、研究支援・産官学連携センター長の馬場 良泰 教授がお話を聞きました。
 徳島大学発ベンチャーとして認定※1されている企業は43件あり、2026年5月11日時点で33件が活動しています。
 
 株式会社amidexは2023年8月に徳島大学の渡邉 佳一郎講師と保坂 啓一教授の両研究者により起業され、同年9月に36番目の大学発ベンチャーとして認定されています。今回、お話を伺った伊原 晃CEOは、2024年7月よりamidexの経営を牽引されています。
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異なる専門分野の技術が融合してamidexが誕生

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馬場センター長(以下、馬場):amidex社は、「健康な歯をできる限り削らない治療」を目指されています。歯科治療とデジタルの融合による革新的技術は、J-Startup WEST やForbes JAPAN 「地域発エマージングディープテック30」等にも選出されており、徳島大学として誇るべきベンチャーだと思っています。改めてですが、御社の事業の革新性や画期的な部分を、学生にも分かるように教えて下さい。

伊原CEO(以下、伊原):技術の観点では、コンポジットレジン(CR)※2や接着歯学は日本の研究者やメーカーが世界的にも高い技術力を有する分野です。最先端の歯科現場では、CRによる治療はこれまでも行われてきましたが、「歯科医師の技術に依存すること」と、「時間がかかること」が問題でした。特に治療時間は大きな課題です。歯科医院では、限られた診療時間の中で治療を行う必要があります。1歯の修復に1時間以上を要する場合もあるため、多くの歯科医院で日常的に提供するには時間的な制約がありました。優れた材料があり、患者さんのニーズもある一方で、治療の難しさや診療時間の制約から十分に普及せず、歯を大きく削る治療が選択されることも少なくありませんでした。
 型枠を使うという発想自体は、保坂啓一先生が世界で初めて考案したものではありません。保坂先生は2019年ごろ、米国で、事前に作製した透明な型枠にCRを注入する手法に触れたことをきっかけに、日本国内でいち早く臨床応用や研究、技術改良に取り組まれました。透明な型枠には、口腔内へ着脱できる柔軟性が必要です。一方で、柔らかい型枠は、CRを注入する際の圧力や型枠を固定する力によって変形したり、歯から浮き上がったりすることがあります。その結果、余分なCRが漏れ出し、修復物に段差やバリ※3が生じやすいという課題がありました。
 保坂先生が東京医科歯科大学(2024年10月に東京工業大学と統合、現在の「東京科学大学」)在籍時に、柔らかい透明シリコン層と、それを外側から支える硬い層を組み合わせた2層構造のシリコンインデックスを発明しました。これにより、口腔内への着脱に必要な柔軟性を保ちながら、CRを注入する際の変形を抑え、修復の精度を大きく向上させました。その後、保坂先生が徳島大学へ着任し、隣の研究室に所属していた矯正歯科とデジタル歯科の専門家である、渡邉佳一郎先生と出会い、本技術がより進化することになります。従来の製作工程にデジタル技術を取り入れることで、インデックスの精度や再現性だけでなく、設計・製作のスピードも向上しました。
 保坂先生が目指していたのは、健康な歯をできる限り削らない治療を、歯科医師個人の技術だけに依存せず、より多くの歯科医院で提供できるようにすることでした。そこに渡邉先生のデジタル技術が加わったことが、amidexの原点です。

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馬場:たまたまの出会いが革新的な技術につながったということでしょうか。

伊原:私が思うに、異分野のお二人の専門性がうまく融合したのは、お二人とも「不要に削られる健康な歯を減らしたい」という信念を持ち、目指す世界が一致していたからだと思います。そのうえで、互いの専門性を尊重しながら知見を持ち寄り、時には意見をぶつけ合いながらも、共通のゴールを見据えて開発を進められたのだと思います。

馬場:デジタル技術を歯科に利用することで、全国から御社に患者の口腔内の3Dデータが届き、それを基にインデックスを作成することが出来るということは、全国どこでも治療が受けられるという理解でよろしいでしょうか。

伊原:はい、その通りです。以前は、歯科医院から石こう模型を物理的に送っていただく必要がありましたが、現在は口腔内の3Dデータをオンラインで送っていただけるため、輸送にかかる時間を短縮できます。離島を含め、全国の歯科医院からご依頼いただけます。

 

経営者と研究者の相互尊重が基盤

馬場:二人の先生が出会い、ディスカッションの中で、こういった製品を作ろうという方針は合っていたのでしょうか。

伊原:当時の詳細は分かりませんが、健康な歯をできる限り削らない治療を広げるという大きな方向性は一致していたのだと思います。一方で、現在も具体的な開発方針について意見が分かれることはあります。例えば、保坂先生からは「さらに精度を高めたい」、渡邉先生からは「臨床実装を見据えて、工程をより合理化できないか」といった意見が出ます。
研究には探究の終わりがなく、着地点を定めることが難しい面もあると思います。一方、企業では、誰にどのような価値を届けるのかというゴールを明確に設定しやすいという違いがあります。双方の専門的な意見を踏まえながら、マーケティングや事業戦略との整合性を調整し、最終的な判断をすることが私の役割です。

馬場:そこでもう一人のキーパーソンである伊原さんが関わってこられたわけですが、どういう経緯でCEOになられたのか、ご自身のご経歴を教えて下さい。

伊原:私は徳島出身で、名古屋大学・大学院で航空宇宙工学を学びました。ただ、研究は自身の性格には向いていないと思い、環境分野のベンチャー企業に入りました。その後、徳島の地域活性化に関わりたいと考え、そのためのビジネス力を身につけるため、経営コンサルティング会社に転職しました。約5年間、問題解決力を磨いた後、地域経済活性化支援機構(REVIC)に移り、投資と人材派遣を通じた地域企業の経営支援に携わりました。福井県小浜市では、観光まちづくり会社や観光施設を約3年半支援しました。
 その後、徳島大学発ベンチャーの創業・経営支援を行う産学連携キャピタル(AIAC)の立ち上げをきっかけに徳島へ戻りました。AIACの担当者として、多くの徳島大学の先生方と面談し、研究成果を基にした起業を支援するとともに、既存の徳島大学発ベンチャーに対する投資や経営支援にも携わりました。
 AIACを退職した後、保坂先生と渡邉先生からamidexの経営を是非お願いしたいと声をかけていただきました。お二人が目指す「健康な歯をできる限り削らない治療を広げる」という世界に大きな魅力を感じたことが、社長就任を決めた一番の理由です。また、それまでは企業を支援する立場でしたが、自ら経営の主体となる経験を得ることで、将来再び支援する立場になった際にも、より実感と迫力を持って経営者を支えられるのではないかと考えました。

馬場:amidexの製品を見ていると、機械部品に近い印象がありますが、もともと技術者でいらしたのですね。

伊原:技術者とまではいえませんが、理系出身だからでしょうか。製造プロセスがあるため、会社を立ち上げた当初は、3Dプリンターの造形精度を安定させることに苦労しました。各パラメーターを変えながら結果を確認する試行錯誤を繰り返しましたが、そうした調整には、工学部で学んだ考え方が役立ったと思います。
 例えば、当初は洗浄を7回、約1時間かけて行っていましたが、2年ほどかけて工程を検証し、品質を維持しながら、現在は20分程度まで短縮できています。こうした製造工程の改善には、理系的な考え方を生かせたと思います。

馬場:ベンチャーの社長は大きなプレッシャーや責任がある中で、現在、経営を続けるモチベーションになっているものは何でしょうか。

伊原:現在の大きなモチベーションの一つは、出身地である徳島をはじめ、地域を活性化したいという思いです。地域を活性化するためには、新しい産業や雇用を生み出す必要があります。その方法の一つが、大学にある優れた研究シーズを事業として社会実装することだと考えました。
 私は、いわゆる起業家タイプではありませんが、事業を着実に組み立て、前に進めることには強みがあると思っています。優れた研究シーズに適切なビジネス人材が加わり、双方が本気で取り組めば、大学を起点に地域の産業を生み出せる。そのことを徳島大学発ベンチャーとして実証し、他の地域や大学でも再現できることを示したいという思いも、現在のモチベーションの一つです。

馬場:J-PEAKSも地域中核大学ということで、地域の特色ある研究を地域産業として根付かせることがミッションです。スタートアップも含めて社会実装につなげることが求められています。一方で、研究者にとっては研究を続けること自体が幸せで、社会実装へ少しベクトルを変えるモチベーションにならないことがあります。研究者は何をモチベーションとして社会実装へ向かうでしょうか。

伊原:保坂先生と渡邉先生は、研究成果を世の中に広げ、より良い治療につなげたいという思いが非常に強い方々です。当初は大企業との連携も模索されましたが、実現には至らず、それなら自分たちで社会実装しようと考えられたと聞いています。利益を得ること以上に、この技術を広く届けたいという思いが原動力になっているのだと思います。
一方で、スタートアップによる社会実装には、技術だけでなく、マーケティング、製造、組織づくり、資金調達など、さまざまな要素が必要です。技術は中核ですが、それだけで事業を成立させることはできません。
 私自身も経営者として人生を懸けることになるため、お二人がどのような考え方を持ち、専門外の領域にどう向き合う方なのかは、慎重に見極めました。自分の専門外のことを単に事業側へ任せるのではなく、社会実装に必要であれば自ら学び、異なる専門性を尊重できる方々だったからこそ、私も経営を担う決断ができたのだと思います。

 

大学発ベンチャーと研究大学の理想的な連携の形

馬場:先生方も伊原さんを信頼したからここまで来たのですね。

伊原:ただ、常に厳しい状況の連続です。だからこそ、率直に話し合い、互いに知恵を出し合える関係が大切です。それができなければ、どこかで空中分解してしまいます。
最近はさまざまな場面でポジティブな評価をいただき、順風満帆に見えるかもしれませんが、実際には、目の前の課題を一つずつ必死に乗り越えながら前に進んでいる状態です。その過程を一緒に歩み、困難なときにも知恵を出し合える先生方でなければ、ここまで進むことはできなかったと思います。 

馬場:医療分野では、技術面や制度面、普及面など、多くの壁があると思います。これまでに直面した課題について教えてください。 

伊原:はい、壁はたくさんありました。技術面や製造面では、今も課題が次々に出てきますが、一つずつ検証し、改善を重ねています。
 その中でも大きな壁は、歯科治療の考え方そのものを変えていくことです。私たちは、健康な歯を削ることを前提としてきた従来の歯科治療に、新たな選択肢を加えようとしています。しかし、従来の治療でも診療は成立するため、歯科医療従事者に歯を削らない治療の必要性を理解していただき、導入につなげることは簡単ではありません。
 ただ、2026年5月に四国放送で取り上げていただき、番組がYouTubeで70万回以上再生されたことで、潮目が変わってきているのを感じています。患者さんの視点から作られた内容だったためか、多くの問い合わせをいただきました。患者さんの声やニーズを届けながら、新しい選択肢を普及させていくことが重要だと感じています。

馬場:医療系のマーケティングは一般とは異なりますね。従来の治療でも診療が成立する中で、新しい選択肢を広げるには、患者さんの声が重要ということでしょうか。手応えはありますか。

伊原:はい、手応えはあります。一方で、受注の増加に伴い、オーダーメイド製品を安定して供給するための生産能力が、新たな課題になっています。事業が進むたびに、次の課題が現れると感じています。 

馬場:知財も重要です。徳島大学とは共同研究でいくつか特許出願させていただいていますが、大学と連携しながら進める研究スタイルについてはどう思われますか。

伊原:とても大切だと考えています。研究者という立場だからこそ、技術を深め、研究や講演を通じて広げられることがたくさんあります。
 会社だけでは、基礎的な研究まで十分に取り組むことが難しい面があります。例えば、3Dプリンターの積層ピッチを50ミクロンから30ミクロンに変更した場合、表面性状や研磨工程がどのように変わるかといった検証では、共同研究の枠組みの中で、大学の分析設備や研究知見を活用できます。
 一方で、当社には歯科技工士や製作設備があるため、保坂先生が考えた研究・改善内容について、大学だけでは時間のかかる試作や検証を短期間で進められることがあります。会社が研究を後押しし、大学の研究成果が会社の技術開発につながる、相互補完の関係を築けていると思います。
 海外大学との共同研究の話も進んでいますが、これもamidexの活動があるからこそ広がった機会だと思います。大学の研究者の活躍の場を広げられることも、大学発ベンチャーの価値だと考えています。

馬場:大学にとっても、スタートアップと一緒にできることはメリットだと感じました。本当に、amidexの事例は大学発ベンチャーと大学の連携の仕方の理想形だと思います。

 

起業が自分を飛躍的に成長させる

馬場:ここで、起業を考える教員や学生にメッセージをお願いします。 

伊原:技術系スタートアップでは、やらなければならないことが本当にたくさんあります。ただ、その分、総合的な成長のスピードは非常に速いと思います。私は前職までで、社会人としてある程度の経験を積んだつもりでいましたが、この数年でさらに大きく成長したと感じています。
 起業すると、技術、事業、組織、資金調達など、さまざまな分野で決断を迫られます。成功しても失敗しても必ず結果が返ってくるため、幅広い経験を短期間で積むことができます。物事を前に進めるための総合力を持つ人材は、これからますます求められると思います。
また、以前に比べると、起業のハードルは下がっています。AIを活用すれば少人数でもさまざまな業務を進められますし、リモートワークの普及によって、地域にいながら全国の人材と仕事ができるようになりました。
 ただし、簡単な道ではありません。最後までやり切る覚悟は必要です。私は、若い頃から起業を志し、すぐに行動へ移すような典型的な起業家タイプではありません。学生時代に起業したわけでもなく、まずビジネスの経験を積み、その後40歳で経営の世界に飛び込みました。若いうちに挑戦する道もあれば、経験や専門性を身につけた後に、セカンドキャリアとして起業する道もあります。起業する時期は一つではないと思います。

馬場:最後の質問ですが、御社の技術の普及に関し、海外を含めて、今後の展開はどのようにお考えですか。

伊原:私たちは、健康な歯を削らない治療を、世界中の患者さんに当たり前の選択肢として届けたいと考えています。ただ、保坂先生が目指している世界は、さらにその先です。先生は「最終的には、そもそも歯の治療が必要なくなる世界を実現したい」とよくおっしゃっています。amidexとしては、まず削らない治療を国内外に広げることで、その大きな構想に近づいていきたいと考えています。

馬場:本日はありがとうございました。

 

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伊原CEO、馬場センター長(左)

 


株式会社amidex(アミデックス)
設立:2023年8月1日
所在地:徳島県徳島市
資本金:8,880万円
URL:https://amidex.co.jp/



※1:徳島大学発ベンチャー認定は2016年11月から始まった制度で、徳島大学又は徳島大学の役職員若しくは学生が所有する知的財産権を基に設立した企業、その他、徳島大学で達成された研究成果又は習得した技術等を基に設立した企業を認定しています。研究支援・産官学連携センターは大学発ベンチャーが円滑かつ適正に活動できるよう、支援を行っています。

※2:コンポジットレジン(Composite Resin:CR)は、レジン(樹脂)にガラスやセラミックなどの微粒子を高密度に配合した歯科用の複合材料です。近年は微粒子を重量比で8割程度含む製品もあり、強度や耐摩耗性が向上しています。専用の光で硬化し、歯の色や形を自然に再現しやすいため、虫歯や歯の欠けた部分の修復に使用されます。

※3:バリは、英語の「burr」に由来する言葉で、主に歯の表面に形成される小さな突起や凹みのこと。

 

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