センターの研究テーマ
-新しい観点からの挑戦-
センターが仲立ちとして放射線化学、生物学、医学、生化学、薬学、酵素学、ゲノム学などRIを利用する異種領域の研究者との連係を推進し、相互に研究の違った側面を知る機会(セミナーの開催)を提示し、相互補完的な共同研究や新規な発想に基づく萌芽的研究を積極的に見い出し学際的プロジェクト研究としたい。
放射線の安全管理に関する研究としてRI施設ならびに周辺環境の放射線モニタリングを行う前に、バックグラウンドとしての放射性核種の分布状況を調べるため、土壌中の放射性核種の定性分析をγ線スペクトロメトリにより行う。現時点での自然放射性核種並びに人工放射性核種の分布状況を知ることは重要である。地表面から地下にかけての、すなわち、1945年以降から現在まで、明治から1945年まで、明治以前、弥生時代ごろの放射性核種の分布を調べる。
これらの研究は、埋蔵文化財調査室、化学応用工学科、センターとの共同研究として進める予定です。
1)人の放射線被曝により生じる放射線障害は、人体の約80%を構成する水から生じるOHラジカルが、その引き金になることが従来から言われてきた。しかし、近年、放射線照射された細胞内に、長寿命有機ラジカルが存在することが宮崎や渡部らによって1998年に報告された。また、阪大産研の田川が指摘しているように、DNA近辺で起こる非常に早い放射線の間接効果やDNAに対する放射線の直接効果については、従来から未開拓の分野として残っている。現在では、これらの研究を行うための装置類が市販されるに至った。フェムト秒の電子線パルスを発することのできるLinacとナノ秒単位でラジカルを捕らえることのできるパルスESRの開発である。一方、ナノテクノロジーの進歩に伴って、ナノメートルサイズのシリカナノバブルの調製が可能となった。シリカナノバブルは、粒子径20nmから調製でき、中身は空である。このため、その内部に様々な分子、例えば、蛍光分子を閉じ込めることができる。そうすれば、外部の環境に影響されることなく一定の強度の蛍光を発することができる。また、その蛍光寿命も水溶液中よりは長くなる。これらは、DNAより小さい。 また、酵素分子のシリカナノバブル中への内包化により、酵素分子を外部の環境に影響されることなく生きたまま、運ぶことができ、望みのところで、補酵素や基質と酵素反応を起こさせることができる。
そこで、シリカナノバブルを使うことによって、微小領域でのコンパートメント化された分子を含む水溶液への放射線照射によって水から生じる水和電子などのシリカ内部の分子に対する反応性を数ナノメートルのシリカの壁厚を調整して調べる。その後、同シリカナノバブルをDNAにラベルしてプローブとして放射線照射によって生成する水和電子の情報を得る。ナノドシメトリへの応用も可能である。
2)DNAへの放射線照射は、2重鎖切断等によりDNAは断片化することが知られており、その測定には、分子量の違いを利用した電気泳動法が用いられてきた。一方、DNA1個の直接観測は、すでに原子間力顕微鏡(AFM)を用いて光ピンセットなどの手法とも相まって行われるようになってきた。そこで、放射線照射によって断片化されたDNAを近接場走査型原子間力顕微鏡(NFSOM)を用いて、直接に観察する方法とその解析を試みる。
放射性同位元素は、その取扱を管理区域にて行なわなければならないが、その同位元素という化学的性質のため非放射性同位元素と共に使用することが可能で、かつ極めて微量で確実に知りたい情報を得ることができるという最大の利点を持っている。しかし、1研究手段として使用してしているのが現状である。その手法が妥当であるのか、また使用量が適切なのかに関しては、使用者だけでは、十分把握することが困難な状況にある。また、残存RIの管理についてもどのような方法をとれば、有効に使用できるかなど検討しなければならないことが多い。