研究テーマ

ソノ壱

血糖を調節するホルモンにはインスリン、グルカゴン、アドレナリンなどがありますが、血糖の低下に関与するホルモンはインスリンだけです。このインスリンの作用の不足により生じる慢性の高血糖を主徴とする病気が糖尿病です。現在日本には740万人の糖尿病患者がいるといわれています。糖尿病にはインスリン依存型の1型糖尿病 (インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊される) とインスリン非依存型の2型糖尿病 (インスリンの分泌の低下やインスリン抵抗性により相対的なインスリン作用不足がおこる) がありますが、90~95%以上は2型糖尿病です。


インスリン受容体はインスリン作用発現の第一段階として非常に重要ですが、当教室は1985年に世界で初めてヒトインスリン受容体cDNAの単離に成功しました (CELL, 1985. Ebina et al.)。近年、遺伝子工学や発生工学の進歩はめざましく病気の原因解明や治療法の開発に応用されています。当教室でも、これらの手法を用いて“インスリン作用のメカニズムと糖尿病の病態の解明”を主なテーマとして研究を展開しています。

 

 

インスリン刺激によるグルコース取り込みの概要02

“インスリン刺激によるグルコース取り込みの概要”

インスリン受容体にインスリンが結合し受容体自身のチロシンキナーゼが活性化します。その刺激はIRS→PI3k→Aktなどの伝達物質を介して細胞内に伝えられていきます。これがいわゆる“インスリンシグナル伝達”です。このシグナル伝達の結果、骨格筋や脂肪細胞内のGLUT4が細胞表面上に移動しグルコースを細胞内に取り込みます。

IRS: Insulin Receptor Substrate
PI3K: phosphoinositide 3 kinase
GLUT4: Glucose transporter Type 4

 

インスリン刺激によるグルコース取り込みの概要02インスリン刺激によるグルコース取り込みの概要03

 

 

“GLUT4細胞表面上への移行を測定する実験系の確立”

当教室ではこのGLUT4をc-mycの14アミノ酸からなる抗原で標識し、細胞表面に移動したGLUT4だけを検出する実験法を確立しました(JBC, 1993. Kanai et al.)。この方法を用いることにより、GLUT4の細胞膜上への移行とグルコースの取り込み能が正確かつ簡便に検討できるようになりました。現在この実験法は国内だけでなく海外の研究室でも広く用いられています。

 

ソノ弐

2型糖尿病の発症における肝臓の関わり

“2型糖尿病の発症における肝臓の関わり”

膵臓からインスリンが分泌されると各臓器にグルコースが取り込まれますが、その割合は骨格筋85%、脳9%、肝臓5%、脂肪1%であると報告されています。さらにその後の多くの研究からも2型糖尿病の発症には骨格筋におけるインスリン作用不全が一つの主な原因であると考えられてきました。当教室はインスリンシグナルを伝達しない変異インスリン受容体を主に骨格筋に発現するトランスジェニックマウスを作製しました。このマウスを用いて詳細に検討したところ糖尿病を発症しないことが判明し、骨格筋ではなくむしろ肝臓でのインスリン作用不全が糖尿病の発症に重要である可能性を示しました(BBRC, 1997. Wang L et al. .Nature Genet., 1998. Ebina, Accili et al. Diabetes, 2004. Yuasa et al.)。


 

インスリンに依存しないグルコース取り込み能上昇機構の解明

“インスリンに依存しないグルコース取り込み能上昇機構の解明”

インスリン刺激はインスリン受容体→IRS→PI3K→Aktという経路をたどって細胞内へのグルコースの取り込みを促進します。当教室では、PDGFがIRSを介さずにPI3Kを活性化しグルコースの内の取り込みを促進すること発見し、グルコースの取り込み促進にはPI3Kの活性化が重要であることを報告しました(Proc. Natl. Acad. Sci, 1995. Kamohara et al.)。さらに、その下流のAkt(特にAkt2)が重要なエフェクターであることも報告しました(JBC, 2003, Obata et al.)。また、アドレナリンやブラジキニンなどのレセプターは三量体Gタンパク質Gqと結合します。当教室では、このようなGqと結合するレセプターを刺激すると細胞内へのグルコースの取り込みが促進することを発見し、インスリンシグナル伝達経路とまったく違う経路でグルコースの取り込みが促進することを報告しました(JBC, 1996. Kishi et al.)。この事実は、糖尿病治療のインスリン経路以外の新しい可能性を示唆するものであります。


PDGF: Platelet-derived growth factor