1.4'置換核酸の合成と創薬展開

i) 4’-チオ核酸を利用したRNAi創薬

 

RNA干渉(RNAi)とは、ある配列の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞に導入するとその相補配列を持つ遺伝子の発現が抑えられる現象です。1998 年、Fireらが線虫でRNAiを報告した後、様々な生物種において同様の現象が観察されることが明らかとなり、ついに2001年ElbashirらによってRNAiが哺乳動物細胞でもおこる事が報告されました(FireとMelloが2006年度のノーベル医学生理学賞を受賞)。現在、このRNAiが遺伝子機能解析のための新手法に留まらず、がんやウイルス感染症をはじめとする様々な疾患治療の新たな方法論となることが期待されています。

現在、RNAi機構による遺伝子発現抑制法には、1.化学合成した短鎖二本鎖RNA (siRNA)を利用する方法と2.short-hairpinRNA(shRNA)を発現するDNAベクターを利用する方法が知られています。しかし天然型の核酸は血中で不安定であり、持続した効果を期待できません。また天然型の核酸は免疫応答を活性化させるので、いずれのアプローチを利用するにしてもこういった問題点を解決する必要があります。

私たちは、核酸医薬創製への展開を目的として、RNAやDNAの糖部環内の酸素原子を硫黄原子に置換した4’-チオ核酸(4’-チオRNA、4’-チオ DNA)を考案しました。Pummerer反応を用いたヌクレオシドユニットの立体選択的な合成に初めて成功し、さらにそれらを導入した4’-チオ核酸が高いヌクレアーゼ抵抗性や二本鎖形成能を有していることを明らかにしました。すでに4’-チオRNAが化学修飾siRNAとして優れた遺伝子発現抑制能を有していることを報告しています。現在、新しいRNAi創薬のアプローチとして、short-hairpinRNA(shRNA)を発現する4’-チオ DNAからなるベクターの創製に取組んでいます。

 

 

ii) 生物学的等価性を考慮した4’-セレノ核酸の合成

 

先に説明したように、私たちの研究室では4’-チオ核酸の合成と核酸医薬創製にむけた応用研究を行なっています。硫黄原子は酸素原子と周期表上、同族元素であり、この4’-チオ核酸は天然型核酸と生物学的等価性を有した核酸分子と考えられます。そこで私たちは、4’-チオ核酸と同様に生物学的等価性を満たした比較的単純な構造変換体として、酸素、硫黄原子と同族原子であるセレン原子を糖部フラノース環内に導入した4’-セレノRNAを設計しました。

既に、超原子価ヨウ素を用いたPummerer型反応によりヌクレオシドユニットである4’-セレノリボヌクレオシド類の効率的合成に成功しています。現在これらを含む4’-セレノRNAの合成を検討中です。

 

 

iii) ハイブリッド型修飾核酸の創製と核酸創薬への展開

 

核酸医薬品開発の方法論には、アンチセンス法やRNA干渉法、アプタマーを利用する方法等が知られています。また近年、マイクロRNA(miRNA)という生体機能を調節する小分子RNAの発見にともない、アンチmiRNA法という新たな生体機能調節法が提唱されました。この方法は、通常mRNAにハイブリダイズし翻訳調節を行うmiRNAに対して、アンチmiRNA分子 (AMO)をハイブリダイズさせることによって、miRNAによる翻訳調節の機能を阻害する方法です。

私たちは、4’-チオ核酸の性質の更なる向上と核酸医薬品開発への展開を目的として、2’-修飾核酸と4’-チオ核酸の構造的特徴を併せ持ったハイブリッド型修飾核酸の設計・合成と性質評価を行いました。その結果、ハイブリッド型修飾核酸はそれぞれの修飾体の性質が相加的、相乗的に発揮されていることが明らかになりました。

現在、ハイブリッド型修飾核酸のアンチmiRNA法への適用を目指して研究を行っています。また、核酸医薬創製のための全く新しい方法論としてスプライシング異常のエディット能を持った核酸分子の創製も並行して行っています。