分野の研究内容2

2011年10月13日

分野の研究内容2

7. カドミウム曝露によるヒト末梢血球細胞中遺伝子発現の特徴

 

カドミウム曝露の生体影響を明らかにするため、オリゴDNAマイクロアレイを用いて、カドミウム曝露の末梢血球細胞中遺伝子発現に及ぼす影響を検討した。

研究対象は、カドミウム汚染地域に居住する女性20人(平均年齢 68.7歳、カドミウム曝露群)および年齢を個人マッチさせた非汚染地域の 女性20人(平均年齢 67.6歳、コントロール群)である。オリゴDNAマイクロアレイを用いて、遺伝子発現の変動を測定し、リアルタイムPCRで変動 の確認を行った。また有意な発現変動を示した遺伝子の関連を見るため、パスウェイ解析も行った。

マイクロアレイ解析およびリアルタイムPCR解析より、CASP9、TNFRSF1B、GPX3、SLC3A2、ITGALの有意な発現の上 昇とBCL2A1、COX7Bの有意な発現の低下が確認された。パスウェイ解析において、これらの遺伝子が酸化ストレス応答とミトコンドリア依存性のアポ トーシス経路に関連していることが明らかとなった。

同定された7つの遺伝子は、慢性的なカドミウム曝露による生体影響評価に役立つマーカー遺伝子となる可能性が示唆された。これらの結果は Toxicology (Dakeshita S, Kawai T, Uemura H, Hiyoshi M, Rokutan K, Arisawa K, et al. 2009)に報告した。

 

 

 

8.四塩化炭素肝傷害で変動するタンパク質の大規模解析 (1)

 

我々研究グループは、ラットに四塩化炭素肝傷害を誘導し、二次元電気泳動、質量分析を利用した大規模プロテオーム解析を実施した。その結果、 メラニン生合成に関与するd-Dopachrome tautomerase (DDT) の著しい増加を明らかにした。既報告から、DDT タンパク質レベルの上昇はHBVトランスジェニックマウス肝臓(Yang et al., Journal of Hepatology, 2008)中や、70%部分肝切除後の肝臓(Christoph et al., Proteomics, 2005)中においても報告されており、様々な条件により誘導される肝傷害で『DDTの発現上昇』 → 『メラニンの増加』が起こるものと推察された。

また、四塩化炭素による傷害肝では、傷害の程度の低い領域でメラニンが強く染色された。メラニンは肝傷害抑制効果(抗酸化作用)を有すること が報告されていることから(Life Sciences, 2003; Biol.Pharm. Bull., 2006)、肝細胞への傷害を抑制するための反応であると推察している(Toxicology 255(1-2)6-14. Hiyoshi M, Konishi H, Uemura H, Matsuzaki H et al. 2009)。

たんぱく質の大規模解析

 

9.一般日本人におけるダイオキシン摂取量の推定

 

日本の25県75地域に居住する男性86人、女性288人(年齢17-72歳)について、連続3日間のかげ膳方式によってダイオキシン摂取量を推 定した。PCDDs+PCDFs、co-PCBs、総毒性等量の平均値(および中央値)は、それぞれ0.46(0.34)、0.59(0.39)、 1.06(0.79 pg/kg体重/日であった。ダイオキシン摂取量は、漁村地区で最も高く、次いで農村、都市の順であった。重回帰分析において、PCDDs+PCDFs、 co-PCBs、総毒性等量は、年齢、魚介類摂取量、および牛乳および乳製品摂取量と関連していた。PCDDs+PCDFs、co-PCBs、総毒性等量 のいずれも、食事中摂取量と血液中濃度との間に有意な正の相関が認められた(相関係数=0.35-0.36)。食事中ダイオキシン摂取量が世界保健機関 (4 pg/kg体重/日)および欧州連合(2 pg/kg体重/日)の耐容一日摂取量を超えた人の割合は、それぞれ2.1%、10.4%であった。しかし、これらの割合は、個人内の日間変動により過大 評価されていると考えられた。そこで、別の35人のグループから得られた繰り返し測定のデータ(連続3日間、3回)にrandom effects one-way analysis of varianceを適用し、個人内/個人間分散の比を推定した。この結果をもとに、個人内の日間変動の影響を除いたlog(摂取量)の正規分布を考え、長 期のダイオキシン摂取量が世界保健機関および欧州連合の耐容一日摂取量を超える人の割合を推定したところ、それぞれ0.06%、2.9%となった。この研 究は、かげ膳方式による実測データを用い、日間変動を除いた長期のダイオキシン摂取量の分布を初めて推定したことに意義がある。これらの結果は Environmental Research(Arisawa K, Uemura H, Hiyoshi M, et al. 2008)に報告した。

 

 

10. 日本のHTLV-1流行地域における成人T細胞白血病/リンパ腫の罹患率の年次推移

 

我々は、1985-2004年に長崎県がん登録に登録された成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)1,851人について、記述疫学的検討を行った。前半 の10年間(1985-1994年)に比べ、後半(1995-2004年)の10年間では、ATLの平均発症年齢が63.4歳(SD 11.9)から68.5歳(SD 11.5)に有意に高くなっていた。年齢階級別罹患率は、40-59歳で有意に低下し(rate ratio=0.65-0.71)、逆に80‐99歳で有意に上昇していた(rate ratio=1.55)。全年齢をあわせた年齢調整罹患率に有意差は認められなかった。以上の結果は、1987年に全県下で開始された母乳遮断による HTLV-1母児間感染防止事業の効果が出現する前に、すでに40-59歳でATLの罹患率が自然に低下していることを示唆する。80‐99歳における罹 患率の上昇は、non-Hodgkin’s lymphomaに誤って分類される人の割合の低下では説明がつかず、今後の課題とされた(Arisawa K, Soda M, Ono M, Uemura H, Hiyoshi M, Suyama A. International Journal of Cancer 125(3), 737-768, 2009)。