分野の研究内容1

2011年10月13日

分野の研究内容について

1. 生活習慣病予防に関する研究

 

私達は、平成19年度より、徳島県において、生活習慣(栄養、喫煙、飲酒、運動等)、体質(遺伝要因)の組み合わせとがん、糖尿病を含む生活習慣病との関連を明らかにする、前向きコーホート研究を開始致しました。

この調査は、日本全国で実施されている日本多施設共同コーホート研究の徳島地区における調査であり、徳島県総合健診センターのご協力を得て行っているものです。研究協力者数の増加が現在の最大の課題となっています。

 

2. 環境カドミウムによる腎尿細管障害の予後および死亡率との関連

 

私達は、長崎県対馬のカドミウム汚染地域における23年間のコーホート調査(追跡調査)により、カドミウムによる腎障害(低分子量蛋白尿、尿中 β2-マイクログロブリン排泄増加、血清クレアチニン濃度上昇)が死亡率の上昇(生命予後悪化、寿命短縮)と密接に関連していることを明らかにしています (Toxicol Lett 173, 168-174, 2007)。2005年までの23年間の追跡調査では、カドミウム汚染地域に居住し、1982年の尿中β2-マイクログロブリン濃度が1000μg/g クレアチニン以上であった人の2005年までの死亡率(年齢調整)は、対照地域の1.4倍でした。また、Cox回帰分析を用いて、年齢、血圧値、肥満度、 血清コレステロール値を補正しても、尿中β2-マイクログロブリンが1000μg/g クレアチニン以上であった人の死亡率は、1000μg/g クレアチニン未満であった人の1.8倍でした。女性では血清クレアチニン濃度の上昇も死亡率の上昇と関連していました。この結果は、カドミウム汚染地域に 高頻度にみられる腎障害が死亡率の上昇(生存率低下)と密接に関連していることを示しています。

一方、長崎県対馬において、土壌汚染が解消して10年経過した後(1992年)の受診者では、このような関連は消失しており、尿細管障害の軽症 化(重症者の死亡による脱落)およびカドミウムの曝露量および体内負荷量の低下が関与していると考えられました(Toxicol Lett 169, 214-221, 2007)。

 

図 カプランマイヤー法による生存割合。(A)男性、(B)女性。(1)40-69歳、尿β2-マイクログロブリン濃度1000μg/g クレアチニン未満、(2)40-69歳、尿β2-マイクログロブリン濃度1000μg/g クレアチニン以上、(3)70歳以上、尿β2-マイクログロブリン濃度1000μg/g クレアチニン未満、(4)70歳以上、尿β2-マイクログロブリン濃度1000μg/g クレアチニン以上。

 

 

3. 女性医学分野に関する臨床疫学研究(骨代謝、性差医学)

 

女性において、閉経期のエストロゲンの急激な低下を引き金として、骨代謝や脂質代謝が大きく変化し、引き続くエストロゲン欠乏の持続が骨粗鬆症 や動脈硬化性疾患の発症に関与することが知られている。また、最近注目されているメタボリックシンドロームも閉経後に急増することが報告されている。臨床 の場で、骨粗鬆症患者にしばしば動脈硬化症が合併することが知られており、骨粗鬆症および動脈硬化症の発症に関わる因子が相互に影響を及ぼす可能性も示唆 されている。骨折や動脈硬化性疾患は寝たきりの主要原因であり、高齢化社会の到来に際して、これらの疾患を予防することがQOLの向上や医療費の削減にお いて重要であり、予防医学上の重要課題であるといえる。そのためには、閉経後の内分泌・代謝・免疫系などをはじめとした幅広い知識や検討および性差に関す る十分な知識や検討が必要であり、これまでみずからの診療データを通じて、検討を行ってきた。今後は、診療データや前述の生活習慣病に関する前向きコー ホート研究のデータを通じて、骨粗鬆症や動脈硬化症、メタボリックシンドロームなどの危険因子や代替マーカーの同定や有効な予防策について解明するととも に、実践につなげたい。

 

4. 環境医学領域におけるプロテオミクスの応用

 

人にもたらされる様々な疾患は、生まれついての体質によるものだけでなく、生活習慣(食事、睡眠時間等)、環境汚染、ウイルス感染等の様々な影 響で誘発されている。当教室では環境汚染物質によりもたらされる生体影響を、遺伝子発現物質であるタンパク質の、量的・質的変化を大規模に解析すること で、体内環境の変化を評価し、どのような遺伝的背景を持つ個人が環境汚染物質に高い感受性を示すかを明らかにし、将来の保健指導に役立てることを目指して いる。

 

5. HTLV-1感染と発がんに関する疫学研究

 

私達は、成人T細胞白血病/リンパ腫の原因ウイルスであるHTLV-1と発がんに関するコーホート研究により、以前の患者対照研究で報告されて いた結果と異なり、HTLV-1感染者では非感染者に比べて他臓器がんのリスク上昇は見られず、逆に胃がんではリスクの有意な低下(約0.4倍)が見ら れ、その理由としてヘリコバクターピロリの低い感染率が考えられることを初めて報告しました(Cancer Causes and Control, 14, 889-896, 2003, Cancer Science 97, 535-539, 2006)。最近、2つの他の研究グループにより同様の報告がなされ、この結果の再現性・外的妥当性が明らかにされました(Hirata T et al., Journal of Gastroenterology and Hepatology 22, 2238-2241, 2007, Matsumoto S et al., Journal of Infectious Diseases, 198, 10-15, 2008)。

 

6. 一般環境におけるダイオキシン曝露が健康に及ぼす影響

 

わが国の一般環境におけるダイオキシン曝露(低濃度の曝露)が健康に及ぼす影響を知る目的で、 2002~2006年に一般住民のダイオキシン類の蓄積状況やそれらに影響を及ぼす因子の検討、および糖尿病の有病状況との関連を検討した(環境省請負事業)。

全国を5ブロックの居住地域に分け、各ブロックで1つの都道府県を選び、さらに各都道府県で3つの居住地区(漁村地区、農村地区、都市地区)か ら、15~73歳、10年以上居住、職業曝露がないなどの条件を満たした男女を登録し、5年間で計1374人を対象とした。対象者から原則として空腹時採 血し、ダイオキシン類濃度をGC-MS法で測定し、一般健康診査のデータも解析に使用した。既往歴、喫煙習慣や生殖関連要因などを含む質問票調査も行った。

血液中ダイオキシン類の総毒性等量は、年齢とともに上昇し、地区別では漁村地区、農村地区、都市地区の順に高かった。多変量解析(重回帰分析) で種々の因子を調整して解析したところ、魚介類の摂取頻度が多いほど男女ともdioxin-like polychlorinated biphenyls(DL-PCBs)の血中濃度が高く、また喫煙している男性ではDL-PCBsの血中濃度が低かった。さらに、出産歴のある女性では、 授乳形態が母乳、混合乳、人工乳の順に総毒性等量が低く、授乳によるダイオキシン類の排泄が確認された。また、出産歴のない女性の血液中ダイオキシン類の 総毒性等量は、授乳形態が人工乳の女性と差はなく、出産自体は血液中ダイオキシン類濃度に影響を及ぼさないことが示唆された。これらの結果は Chemosfere(Uemura H, Arisawa K, Hiyoshi M, et al. 2008 Chemosfere, DOI (digital object identifier))に報告した。

次に、一般環境におけるダイオキシン曝露が健康に及ぼす影響を検討として、糖尿病の有病状況との関係を検討した。血液中ダイオキシン類の毒性等 量を四分位にわけて、第1四分位+第2四分位を対照群として、多変量解析(ロジスティック回帰分析)で年齢、性、BMI、喫煙習慣、居住地域、居住地区、 調査年を調整して解析したところ、糖尿病有病のオッズ比は最高四分位で対照群と比較して有意に高く、とくにDL-PCBsの最高四分位ではオッズ比が 6.8(95%信頼区間 2.6-20)と高値を示した。糖尿病患者でしばしばみられる肝・腎機能低下による影響を取り除くために、対象者から肝機能あるいは腎機能の低下を認めた 患者を除外して再解析しても、結果は同様であり、一般環境におけるダイオキシン曝露により、糖尿病の危険性が上昇することが示唆された。これらの結果は Environmental Research(Uemura H, Arisawa K, Hiyoshi M, et al. 2008 Environmental Research, DOI (digital object identifier))に報告した。

血液中Co-PCBs濃度、ダイオキシン濃度と糖尿病との関連