講義概要

2011年10月13日

I.卒前教育に対する考え方

医科大学および大学医学部の社会医学系講座が卒前教育においてカバーすべき範囲として、医師国家試験出題基準に示されている医学総論の中の「保健医療論」および「予防と健康管理・増進」があります。当分野では、人類遺伝学分野(旧公衆衛生学)と共同で、これらの範囲について一通り講義をすることを前提にカリキュラムを編成しています。当分野は現在下記の11分野を担当しておりますが、これらの範囲はかなり広いため、限られた時間の中ですべてをカバーしようとすると講義が羅列的なものになってしまう可能性があります。また、学生さんの中には、医師国家試験合格のみが目的ではなく、卒業後社会医学の研究や厚生労働省等行政の分野に進みたい人もいると考えられます。そこで、当分野では、医師国家試験出題基準を意識しつつ、講義内容にメリハリをつけ、学部レベルを超える(修士レベルの)内容も織り交ぜて講義を行うように努力しています。

 

II.講義内容(社会医学)

1.疫学 (担当 有澤)

目標

(1)ヒト集団における健康障害の分布や規定要因を明らかにする疫学の考え方について説明できる。(2)疫学の基本的な手法を理解し、使うことができる。

 

(中小項目)疫学の定義、先人の業績(John Snow、高木兼寛)、疾病頻度の指標(罹患率、累積罹患率、有病割合)、死亡率、致命割合、PMI、標準化(年齢調整死亡率、標準化死亡比)、記述疫学(time、place、person)、分析疫学、コーホート研究、患者対照研究、オッズ比、オッズ比が累積罹患率比の近似値になることの証明、介入研究、寄与割合の公衆衛生上の意味(曝露者、人口)、疫学調査の型と特徴、原因の考え方、偏り、交絡とその制御方法、因果関係判断基準、妥当性、推定、仮説検定、P-値

 

2.保健統計 (担当 有澤)

人口静態統計、人口動態統計、粗死亡率、標準化、年齢調整死亡率、標準化死亡比、死因別死亡率、粗出生率、合計特殊出生率、総再生産率、純再生産率、平均余命、生命表関数、健康寿命、国民生活基礎調査、患者調査、有訴者率、受療率

保健統計の要点(40.5KBytes)

 

3.産業保健 (担当 上村)

目標

産業保健の目的は勤労者の健康を確保することであり、働く環境での疾病の発生機序、病態を理解し、予防対策を講じることができるようにする。さらに、労働災害、職業病、作業関連疾患だけでなく、メンタルヘルス対策や過重労働対策の重要性についても理解する。

 

  • 社会環境や産業構造の変化に伴う産業衛生の動向を理解する。
  • 産業衛生に関する基本法律を説明できる。
  • 産業医の役割、労働安全衛生管理について理解する。
  • 職場における1次予防の重要性を理解する。

 

(中小項目)産業中毒、職業病、筋骨格系障害、VDT障害など

 

4.環境保健 (担当 有澤)

目標

以下の項目について説明できる。(1)環境と健康・疾病との関係、(2)地球環境の変化、(3)生物濃縮と健康、(4)内分泌撹乱化学物質、(5)公害と環境保全、(6)環境基準、(6)廃棄物処理。

 

(中小項目) 環境と健康、生態系、食物網と生物濃縮、環境汚染物質の吸収、代謝、排泄、生物学的半減期、標的臓器、臨界濃度、中毒学に関する用語、量・影響関係、量・反応関係、しきい値、NOAEL、LOAEL、耐容一日摂取量、地球環境問題、公害、公害防止対策、公害健康被害補償・予防制度、環境基準、廃棄物処理、シックハウス症候群、環境アセスメント、化審法、PRTR、ダイオキシン類の健康影響とリスク評価

 

環境保健の要点、補足(43.5KBytes)

5.成人保健ー生活習慣病の疫学と予防 (担当 上村)

目標

(1)生活習慣病、とくに循環器疾患およびがんの死亡・罹患状況を把握、(2)循環器疾患の分類およびその要因について説明できる、(3)循環器疾患の予防対策について理解する、(4)がんの一次予防および二次予防について理解する、(5)その他、糖尿病や高脂血症などの疫学や予防について理解する、(6)運動不足、肥満や喫煙、アルコール多飲と疾病との関係について理解を深める。

 

(中小項目)

(1)がん 日本におけるがんの記述疫学的特徴、がん死亡、がん罹患、各論(胃がん、肺がん、肝臓がん、大腸がん、乳がん、その他のがん)、生活習慣と主部位のがん、がん検診の有効性

(2)循環器疾患 脳血管疾患の分類、脳血管疾患の死亡率、罹患率の動向、病型別の危険要因、虚血性心疾患の死亡率、罹患率、危険要因、日本人の血清総コレステロール値の年次推移、食事の健康影響、肥満の健康影響、循環器疾患の予防

 

6.国民栄養(公衆栄養) (担当 有澤)

目標

 

(1)食事摂取基準について概説できる、(2)国民健康・栄養調査について概説できる。

 

(中小項目) 日本人の食事摂取基準(2010年版)、推定エネルギー必要量、生活習慣病の危険性と肥満度、運動指導とエネルギー必要量、炭水化物、食物繊維、脂質、脂肪酸摂取比率、蛋白質必要量、ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、ビタミン、国民健康・栄養調査(平成19年度調査結果の概要)、食品衛生法、ビタミン欠乏症

 

国民栄養(公衆栄養)の要点(26.0KBytes)

 

 

7.感染症の疫学と予防 (担当 有澤)

目標

(1)集団における感染症予防の考え方について説明できる、(2)感染症法の概要および届出義務について説明できる、(3)予防接種の意義と現状について説明できる。

 

(中小項目) 感染症の疫学的事項、incubation period、latent period、attack rate、人獣共通感染症、流行、汎流行、感染症の成立条件、感染経路(伝播様式)、Basic Reproductive Number(R0)、感染症法、感染症類型、検疫感染症、学校感染症、感染症発生動向調査、感染症予防、結核の現状と対策、予防接種、感染症流行予測事業、各ワクチンの要点、感染症集団発生のケーススタデイ(epidemic curve、オッズ比による原因食品の推定)

 

感染症の疫学と予防の要点(32.5KBytes)

 

(補足)

学校感染症 第3種

飛沫感染が主体ではないが、放置すれば学校で流行が広まってしまう感染症。

 

8.Evidence-Based Medicine (担当 上村)

「エヒデンスに基づく医療」(evidence-basedmedicine:EBM)とは、個人の臨床的専門技能に、体系的研究から得られた最新の利用可能な外部の臨床的根拠を組み込むための手法のことである。

目標

EBMを実践するための以下の手順について理解し修得する。

  1. 問題の定式化「判断を求められている課題をまとめる」
  2. 情報検索「課題に基づいて最も妥当な情報を探す」
  3. 批判的吟味「手に入れた情報を批判的に吟味する」
  4. 判断の適用「吟味した結果を基に判断を下す」
  5. 自己評価「一連の作業を振り返る」

 

9.中毒物理的要因による疾患 (担当 有澤)

目標

化学物質や物理的要因による健康障害の概要について説明できる。

 

(中小項目)金属中毒(金属熱、鉛、カドミウム、金属水銀、無機水銀、有機水銀、マンガン、クロム、砒素、ベリリウム、ニッケル)、有機溶剤中毒(共通する毒性、個別の作用、尿中代謝物)、酸、アルカリ、その他の産業中毒、職業がん、ガス中毒、農薬中毒、騒音、振動、減圧症、電離放射線、熱中症

 

10.医学統計学 (担当 有澤)

目標

(1)データの種類と分布に応じて正しい統計的方法を適用してデータの要約、検定が行える。(2)平均値、割合の区間推定が行える。

 

(中小項目)母集団と標本、データの種類と統計量、ヒストグラム、平均と標準偏差、正規分布、標準誤差、母平均の区間推定、母平均の検定(1標本のz検定、1標本のt検定)、平均値の差の検定(独立2群、分散が等しい場合、対応のあるt-検定)、分散分析法、多重比較、割合の検定(母比率の検定、カイ2乗検定、割合の区間推定、相関と回帰

 

医学統計学の要点(57.5KBytes)

 

11.医療保健制度 (担当 厚生労働省 森岡、名古屋市立大学 大森)

目標

(1)衛生行政の組織を説明できる、(2)医療保険、公費医療、介護保険を説明できる、(3)国民医療費の収支と将来予測を概説できる、(4)日本の社会保障制度を説明できる、(5)卒後の進路として厚生労働省医系技官の道があること、およびその職務を知る。

 

(中小項目) 衛生行政の沿革、衛生行政の組織、地域保健法、健康危機管理、医療の歴史、医療圏、医療施設、保健医療従事者、保険医療制度、国民医療費、社会保障、社会福祉

11.教科書、参考書

教科書(つぎのうちどちらか)

1)シンプル衛生公衆衛生学 鈴木庄亮、久道茂編 南江堂(2010)

2)New予防医学・公衆衛生学 改訂第2版 岸玲子、古野純典、大前和幸、小泉昭夫編 南江堂(2007)

 

参考書

  1. 国民衛生の動向 厚生統計協会(2010)
  2. 疫学辞典 第3版 日本公衆衛生協会 (2004)
  3. 分子予防環境医学 分子予防環境医学研究会編 本の泉社(2003)
  4. Monograph on Cancer Research No.47 Cancer Morbibity and Mortality Statistics Japan and the World-1999.Karger(1999)
  5. 日本人の食事摂取基準 第一出版 (2010)
  6. 厚生労働省 平成19年国民健康・栄養調査報告 第一出版(2010)
  7. 予防接種の手引き第9版 木村三生夫、平山宗宏、堺春美編 近代出版(2003)