めまいの診断基準化のための資料

2011年10月13日

厚生省の前庭機能異常調査研究班の診断基準には、メニエール病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、両側前庭機能高度低下、迷路梅毒があります。また、めまい平衡医学会からは以下の18の疾患の診断基準が提案されています。

 

1.慢性中耳炎由来の内耳障害

1.疾患概念

内耳骨包は強固なので、中耳の炎症が内耳に波及するには、正円・卵円両窓を経由するか、中耳真珠腫により骨包が破壊されるかの何れかによる。正 円窓膜は薄く、炎症波及の多くはここを経由すると考えられ、検査を精密にすれば、一般に考えられているよりもその頻度は高いことが分っている。

中耳に炎症があって、めまい、耳なりなどの訴えがあれば、軽いものでも、内耳波及を考慮におくべきである。

2.病歴からの診断
  • 1)耳なり、難聴、種々の性質・程度のめまいの訴えについて詳細に聴取する。
  • 2)中耳炎の既往、慢性中耳炎、点耳治療、中耳手術の既往について聴取する。
  • 3)中耳真珠腫を疑わせる症状(悪臭ある耳漏など)があれば、真珠腫の内耳侵襲を考慮する。
  • 4)中枢疾患との関連がないことの確認のための問診をする。

1),2)または1),3)により中耳炎由来の内耳障害の疑診とする。

3.検査からの診断
  • 1)気導聴力閾値と骨導聴力閾値についての上昇傾向を測定する。気骨導差狭小化の傾向を確認する。
  • 2)平衡機能検査所見としては、迷路性自発眼振の存在、前庭機能検査としては、温度眼振反応の低下、瘻孔症状の有無を判定する。鼓膜穿孔のある 中耳炎症例の温度刺激検査には清潔な生食水を用いる。また、真珠腫性中耳炎で、腔への入口の狭いものについては冷したアルコールを用いる。
  • 3)中枢所見の欠如を確認する。中枢所見のあるときには中耳炎ないしめまいとの関連性について検討する。
  • 4)側頭骨のX-PとくにCTが有用。
4.鑑別診断

中耳炎手術の副損傷としての内耳炎、点耳など経中耳内耳毒による内耳障害、メニエール病など、内耳疾患、中枢性のめまい症などとの鑑別を要する。

急性中耳炎、慢性中耳炎の存在する場合、他の原因によるめまい症が併存するかいなかの鑑別は困難なことが少なくない。中耳炎にたいする消炎治療、また、慢性中耳炎にたいしては手術治療を行って術後経過を慎重に観察することが診断に役立つことがある。

5.病期の判定

内耳機能検査、とくに骨導閾値測定、温度眼振反応測定を参考にする。

6.予後判定基準

内耳機能、すなわち聴覚、前庭機能それぞれについて、現状を正確に把握する。現状より改善は困難である。

7.疾患についての説明

急性中耳炎からも内耳への波及がある。しかし、抗生物質が有効に使用される今日では、むしろ慢性中耳炎における内耳機能低下の方が臨床上重要で ある。抗生物質などの点耳治療による内耳障害にも注意する。聴覚検査、とくに純音気導・骨導閾値検査、語音聴力検査の両者、ならびに前庭機能検査、さらに 平衡機能検査は必須の検査である。

中耳真珠腫では、内耳瘻孔形成による内耳侵襲が、しばしば緊急手術を必要とするという点で、臨床上重要である。中耳真珠腫症、また、術後耳の診 察にさいしては、常に瘻孔症状の有無を、問診、視診、機能検査などにより確認する必要がある。しかし瘻孔症状の有無は、一般に瘻孔の有無とは一致しない。

 

2.メニエール病

1.疾患概念

メニエール病は蝸牛症状を伴う発作性のめまいを反覆する内耳性めまい疾患である。発作時はめまい・平衡障害のため就床を要し、悪心・嘔吐などの 自律神経症状を伴うことが多い。間歇期には正常に回復する例もあるが、発作を反覆すると聴力障害、前庭・半規管障害が不可逆となる。発作間隔は数日から数 年に及ぶものがあり症例により異なる。

病理学的には側頭骨の病理学的検索により内リンパ水腫が存在することが明らかにされている。しかし、内リンパ水腫発生の原因はいまだ明確でない。

2.病歴からの診断
  • 1)発作性の回転性(時に浮動性)めまいを反覆する。
    [説明]めまいの種類は典型的な例では回転性である。しかし、発作時のめまいが浮動性の例も約10%存在する。めまいの持続は10数分~数時間 (発作性)である。一過性の(数秒~数分)のめまいのみではメニエール病は否定的である。典型的なめまい発作では発作中就床を要し、頭を動かすとめまい・ 悪心・嘔吐が誘発され便所にも這ってゆく程である。
  • 2)めまい発作に伴って変動する蝸牛症状(耳鳴・難聴)がある。
    [説明]めまい発作に伴い耳鳴・難聴が変動するのがメニエール病である。耳鳴・難聴の何れか一方のみが自覚される例もある。耳閉塞感や聴覚過敏を 伴うこともあるが、これらのみでは蝸牛症状とはしない。蝸牛症状はめまいに先行する例、同時に出現する例、発作後出現する例がある。
  • 3)第8脳神経以外の神経症状がない。
    [説明]めまいと関連して意識障害、複視、顔面神経麻痺、構音障害、嚥下障害などの脳神経障害、四肢・躯幹の運動・知覚障害などがあり、めまいと一元的な場合はメニエール病は否定される。
  • 4)原因を明らかにすることができない。
    [説明] 中耳炎、ウイルス感染、外傷、中毒性内耳障害、外リンパ瘻などの明確な内耳障害の原因がないことを確認する。。

1),2),3),4)が存在する時はメニエール病を疑う(90%)。

3.検査からの診断
  • 1)聴力検査においてメニエール病に特徴的な難聴を認める。
    [説明]メニエール病の聴力障害の特徴は低音障害型あるいは水平型の感音難聴で、補充現象陽性、中・低音閾値の変動、複聴である。すべての特徴を 満たさない場合でも、めまい発作にともなって変動する感音難聴で、後迷路性難聴を示す所見がなければメニエール病による難聴と判断してよい。なお、グリセ ロール試験における聴力改善、蝸電図における-SP増大は聴力障害がメニエール病によるものか否かの判定の助けとなる。
  • 2)平衡機能検査で内耳障害の所見を認める。
    [説明]発作時、水平あるいは水平回旋混合性の定方向性眼振を認め、この眼振は固視を除くと増強する。眼振は発作時患側に向かい、発作が軽減する と健側に向かうことが多いが、間歇期には自発眼振を認めないことも少なくない。温度反応低下(CP)は内耳障害の存在を強く示す所見である。めまい発作と 関連する中枢性平衡障害の所見があればメニエール病は否定される。
  • 3)神経学的検査でめまいに関連する第8脳神経以外の障害を認めない。
    [説明]第8脳神経以外の脳神経障害、脳幹・小脳などの中枢神経障害、運動・知覚麻痺などを認め、それがめまい発現と一元的なものであればメニエール病は否定される。
  • 4)耳鼻咽喉科学的検査、内科学的検査、臨床検査学的検査などで内耳障害の原因を認めない。
    [説明]めまいの原因となりうる中耳炎性内耳障害、内耳梅毒、頭頸部外傷、外リンパ瘻、neurovascular compression などがあればメニエール病は否定される。メニエール病例には、頸椎異常、低血圧、起立性調節障害、自律神経失調、高脂血症など内耳障害成立に影響を与えて いると推定される異常が存在することが多い。しかし、それのみではメニエール病の成立を説明し難い異常はメニエール病の素因と考え、原因とは考えない。

病歴でメニエール病が疑われ、かつ検査にて1),2),3),4)があればメニエール病確実である。
間歇期の検査で病歴を満たすが検査で陽性所見がなく、かつ否定所見もない場合はメニエール病ほぼ確実とし経過をみて診断する。
両側メニエール病の診断も片側性と同様に行う。

4.鑑別診断
  • 1)典型的な病歴、検査所見を示す例の診断は困難ではない。しかし、めまいを伴う突発性難聴とメニエール病初回発作の鑑別には経過観察を要することがある。
  • 2)遅発性内リンパ水腫、外リンパ瘻、内耳梅毒、聴神経腫瘍、neurovascular compression によるめまいとの鑑別に注意する。
  • 3)蝸牛症状を伴わない発作性のめまい反覆に対して前庭型メニエール病との診断名を用いる場合は、これがメニエール病の不全型であるとの確証が ないことを念頭におき原因検索に努める。このような例で温度反応低下がない場合、椎骨脳底動脈循環不全によるめまいを鑑別する。
  • 4)めまいを伴わない変動する聴力に対して蝸牛型メニエール病の診断名を用いる場合には、メニエール病不全型との判断が正しいか否か経過観察する。
  • 5.病期の判定

Ⅰ期 :聴覚障害、前庭・半規管反応低下とも可逆性である。

Ⅱ期 :聴覚障害、前庭・半規管反応低下の何れかあるいは両者が不可逆性であるが、変動を認める。

Ⅲ期 :聴覚障害、前庭・半規管反応低下が固定している。

Ⅳ期 :聴覚障害、前庭・半規管反応の何れかあるいは両者が喪失している

6.疾患についての説明

1861年、Prosper Meniere は耳鳴、難聴を伴うめまい発作が内耳障害によって発現することを明らかにするとともに、特発性に発作性のめまいをおこす内耳疾患のあることを提唱した。

1938年、山川、Hallpike はこの症候を呈する症例の剖検を行い、内耳病変として内リンパ水腫が存在することを明らかにした。

本症の内リンパ水腫の原因としてアレルギー説、自律神経異常説、血管運動神経説、細菌梅毒の中心性感染説、水分・塩分代謝障害説、精神身体的要因が大きいとの説があるが、いまだ成立機序は不明である。

メニエール病と同義にメニエール症候群も用いられるが、本症を蝸牛症状を伴うめまい発作の反覆を主症状とし、内耳病変として内リンパ水腫が存在 する1つの疾患単位と考え、メニエール病と呼ぶのが適当である。ただし、めまい症例に安易にメニエール病の診断を行うことは適当でない。診断基準に従った 診断を行う必要がある。

本症の疫学的調査において、スウェーデンでは1年間の初診数が10万人あたり45名、日本では厚生省特定疾患研究班調査にて有病率は人口10万人対16~17人(病院のみ)である。

本症の診断基準は厚生省特定疾患研究班(班長:渡辺勈)からも提示されている。研究班の基準は疫学的調査を目的として作 成されている。本報告で提示した診断基準は臨床的診断を目的とし、病歴より疑診を行い、検査で確診を行う点が特徴である。両者の特徴、差異を充分理解して 使用する必要がある。

メニエール病に関し現在、内リンパ水腫の成因に関する基礎的研究、疫学的研究などが行われているが、臨床的には治療、特にめまい発作制御、その 治療効果の評価、予後の推定が課題である。治療効果の評価に対しては、American Academy of Ophthalmology and Otolaryngology (1972)、American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery (1985) より規準が提示されている。

 

3.遅発性内リンパ水腫

1.疾患概念

本症(以下 DEH と略)は、陳旧性高度内耳性難聴の遅発性続発症として、膜迷路に次第に2次的に進行性内リンパ水腫が生じ、その結果メニエール病様の前庭症状が発現する疾患である。1976年、Schuknecht によって疾患概念が確立された。

したがって本症の臨床経過は、まず、高度な内耳性難聴(1側性が多い)の先行があり(early history)、かなりの年月(Nadol らの12症例では1~68年)の経過ののち、反復性めまい発作(聴覚変動は不随伴)が発現する(late history)。その際既往の難聴の原因については、明、不明を問わないが、一般に若年性片側聾(若年性1側高度難聴)が多く、そのほかには側頭骨外 傷、ウイルス性内耳炎、細菌性内耳炎、突発性難聴、アブミ骨切除術などが原因として知られている。

2.病歴からの診断
  • 1)1耳または両耳が高度難聴、ないし全聾(以前より存在し内耳障害が疑われる)。
  • 2)長年月経過後(ふつう、難聴発症より数~数10年)、メニエール病様前庭症状が発現(多くは反復性、発作性に発来する回転性めまいで、嘔気、嘔吐を随伴)。
  • 3)めまい発作時に、蝸牛症状とくに聴覚変動は不随伴(これはめまいの責任耳において、聴覚系がすでに高度に破壊されているためである。これに対して耳鳴増強や耳閉塞感などは、まれに発作時に随伴する)。

上記症状のうち、1),2)が認められるとき DEH を疑う。さらに3)が加われば、その疑いはますます濃厚である。

3.検査からの診断
  • 1)純音聴力検査で1耳または両耳が高度感音難聴ないし全聾。
  • 2)温度刺激検査で難聴耳に眼振反応低下を認めうる。しかしその場合でも迷路機能は廃絶には至っていない。
  • 3)発作時に水平回旋性の自発眼振の出現、ないし誘発眼振の証明。
  • 4)第8脳神経以外の神経症状、ことに中枢神経症状の欠如。
  • 5)そのほかに殊に内耳障害の確認のため、適宜、圧刺激検査(内リンパ水腫の証明)、フロセミドテスト、ENG 検査などを実施する。

[診断]1),2)の存在でほぼ確実。さらに3),4)が認められれば確定。 なお、DEH は多くの場合、1側全聾、他耳聴力正常である。

4.鑑別診断

進行性内リンパ水腫を生じるつぎの2疾患が鑑別の対象となる。

1)メニエール病

メニエール病では

  1. 聴覚障害が高度に至ることはまれ(DEH では1耳または両耳が高度難聴ないし全聾)。
  2. 小児期以前の発症はまれ(DEH ではしばしば高度難聴が幼少期から存在)。
  3. めまい発作に蝸牛症状、殊に難聴が随伴し変動する(DEH では聴覚障害は変動しない)。

2)内耳梅毒

内耳梅毒の臨床像は多彩で、一部の少数の患者で鑑別が問題となるが、最終的判断は梅毒血清反応による。

5.予後判定基準

とくにないが、一般にメニエール病より保存的治療による制御が困難である。

6.疾患についての説明

1)成立機転

Schuknecht(1976)は DEH の成立機転につき、つぎのように説明している。すなわち、陳旧性の高度難聴側の内リンパ吸収系(内リンパ嚢、前庭水管)に、2次的変化として萎縮、繊維性 閉塞などの組織変化が生じ、その結果として徐々に進行性内リンパ水腫が形成される。その際迷路機能に残存があれば、メニエール病様の前庭症状(反復発作性 めまい)が発現する。他方、聴覚系はすでに高度に破壊されているので、めまい発作時に蝸牛症状、殊に難聴の変動は随伴しない。

しかしその後 Schuknecht(1978)は、一部の患者で良聴耳(聴力正常耳)を患側に、やがて、メニエール病様症状や変動性聴力障害が出現する場合があると し、これをとくに contralateral type(対側型)と名付け、一方、通常多くみられる難聴側を責任耳にめまい発作が発現する場合を改めて ipsilateral type(同側型)と呼んだ。

したがって、これまで本稿で記述してきた DEH は、実際には同側型 DEH に該当する。以下、対側型につき若干説明を加える。

2)対側型 DEH について

これは1側聾において、良聴耳(聴力正常側)に遅発性に進行性内リンパ水腫が発生してくる場合である。比較的まれであるが、特有な臨床像を形成する。

しかし本症において、まだ側頭骨の直接の病理組織学的裏付けは得られておらず、したがってその本態についてはなお多分に仮説的である。しかも Schuknecht は、その成立機転につき十分な説明を加えていない。しかし、この点に関しては、ほかの報告者により、正常聴力側にも難聴側と同じ原因による、軽微な、潜在 的な内耳組織変化が遺残しており、これを基礎に2次的内リンパ水腫が発生してくる可能性が考えられている。いずれにせよ、本症の診断にあたっては、当面は 典型的な症例に限定することが望ましいと考えられる。

[診断(要点)]

  1. 1耳高度(感音)難聴ないし全聾(以前より存在)、他耳(良聴耳)に新たに聴力障害が出現(それまではこの側において、聴力は正常であったことが推定される)。
  2. 良聴側聴力が変動(同時に内耳性難聴の諸特徴が示されうる)。
  3. ときにメニエール病様前庭症状の出現(症例による)。この場合、通例、メニエール病との鑑別が困難である。しかし、反対側の耳に陳旧性の高度内耳性難聴が存在することにより診断する。
  4. 温度眼振検査で良聴側に迷路機能低下を証明しうる。ただし、めまい発作発現例では迷路機能は廃絶していない。
  5. めまい発現例では、発作時に水平回旋性の自発眼振が出現、または誘発眼振が証明される。
  6. 中枢神経症状の欠如
  7. 補助検査については同側型 DEH に準じ、グリセロールテスト、蝸電図検査も加え実施する。

 

4.めまいを伴う突発性難聴

1.疾患概念

厚生省調査研究班のまとめた診断基準に基づく ”突発性難聴” の約40%にめまいを伴う例がある。めまいを伴う例と伴わない例とで、病因が異なるか否かは不明である。ここでは、めまいを伴う突発性難聴について記す。

2.病歴からの診断

1)聴覚症状

  1. 突然に高度の難聴が発生する。文字通り即時的な場合もあるが、朝、目がさめて難聴に気付く例もある(但し、これが就寝中に突発的に起こったのか、ある程度時間がかかったかは不明である)。
  2. 難聴は一側性の場合が多いが、両側例もある。
  3. 難聴の原因が不明である(原因が不確実なものも含む)。すなわち、当時カゼ気味であったという例や、ウイルス感染を疑わせる例などあるが、難聴との因果関係が明瞭でないものを全て含める。
  4. 耳鳴が難聴の発生と同時又は前後して生じる例が多い。

2)前庭症状

めまい(嘔気、嘔吐を伴うことがある)が、難聴の発生と同時又は前後して生じるが、めまい発作を繰り返すことは無い。難聴の前又は同時に起こるめまいは回転感が多く、後に起こるめまいは動揺感又は浮動感が多い。

3)その他の症状

第8脳神経以外に顕著な神経症状を伴うことは無い。

3.検査からの診断

1)難聴は高度の感音性難聴である。音の大きさの補充現象(recruitment)の有無は一定しない。経過中、聴力の改善悪化の繰り返しは無い。

2)自発又は頭位眼振を難聴発生時に認めることが多い。この眼振はごく早期に患側の方へ向かい、その後反対側方向に変わり、やがて消失することが多い。。

3)温度眼振検査では一般に患側の反応低下(CP)を認める。。

4)X線検査で器質的異常を認めない。

4.鑑別診断

1)メニエール病

”めまい発作の反復性の有無”や ”glycerol test、ECochG所見"等を参考にする(但し、突発性難聴の中に glycerol test 陽性を示す例がある)。

2)聴神経腫瘍

”CT所見”、”ABR所見”、”視運動性眼振所見”等が有用である。

5.病期の判定

回転中眼振検査で経過を観察すると、ごく早期に患側へ向かう眼振方向優位性を認め、その後は健側へ向かう眼振方向優位性を認めるようになる。前 者は患側迷路の興奮期、後者は麻痺期に相当する。但し、難聴の回復期に、再び眼振方向優位性が健側から患側へ変わることがある。一般に、温度性眼振のCP は存続することが多いが、回転中眼振の左右差は中枢の代償又は迷路病態の回復により早晩消失する。

6.予後の判定

一般に早期に治療を開始したもの程、難聴の回復する可能性がある。但し、めまいを伴う例はめまいを伴わない例より難聴に対する予後は悪い。めま い発作は一回限りであり、其の後、暫く浮動感が続くこともあるが、早晩消失する。若し、自発又は頭位眼振が長期に亘って持続する場合は中枢疾患を考えねば ならない。

7.疾患についての説明

突発性難聴は一つの独立した疾患と考えるより、突然、原因不明の高度の難聴が発来する疾患群と考えた方が妥当と思われる。従って、原因も血行障 害説、正円窓膜破裂説、ウイルス説等、区々である。何れにしても、他の類似疾患と正しく鑑別診断し、早期に治療を開始することが大切である。

 

5.外リンパ瘻

1.疾患概念

外リンパ(髄液)が内耳窓ないし fissura ante fenestrum などから、鼓室腔へ漏出し、聴覚・平衡障害を生じる疾患である。同義語として内耳窓破裂、前庭窓破裂、蝸牛窓破裂、perilymphatic fistula、perilymphatic leak、roundwindow rupture などがある。この外リンパ瘻は、奇形、あぶみ骨手術、梅毒、外傷(圧外傷を含む)などで生ずるが、原因不明の特発性のものも多い。

特発性外リンパ瘻は、手術により聴覚・平衡障害の改善が期待しうる数少ない疾患であり、その存在を念頭に置き、聴覚・平衡障害症例を診ることが重要である。

2.病歴からの診断
  • 1)髄液圧、鼓室圧の急激な変動を起こすような誘因の後に耳閉感、難聴、耳鳴、めまい、平衡障害が生じた場合
  • 2)外耳・中耳の加圧・減圧でめまいを訴える場合
  • 3)高度難聴が数日かけて生じた場合
  • 4)水の流れるような耳鳴、水の流れる感じのある場合
  • 5)pop 音の後耳閉感、難聴、耳鳴、めまい、平衡障害などが生じた場合

以上のうち1つでも有ると外リンパ瘻を疑う(厚生省特定疾患急性高度難聴調査研究班、昭和58年診断基準)。

3.検査からの診断

1)聴覚所見

急性感音難聴:突発性が多いが、比較的急速に進行するものや、変動するものもある。純音域値はさまざまで、聴力型は水平型、高音漸傾型、低音障 害型、谷型など様々。しかし発症初期には低音障害型が多い。recruitment は陽性。蝸電図検査の所見、予後判定基準は、ほぼ突発性難聴の蝸電図と変わらない。

無難聴性の症例や伝音・混合性難聴も稀に有り得る。

2)平衡機能検査

患側下頭位での頭位眼振(70%)、頭位変換眼振(32.5%)が認められる。温度刺激検査は半数以上が正常(CPは20%、DPは15%、反応廃絶は0.5%)。前庭窓破裂には Hennebert's sign 陽性が多い。

めまいは長時間持続する事が多い。

4.予後判定基準
  • 1)前庭症状、所見:ともに比較的手術後早期から改善する。注視・頭位・頭位変換眼振、Hennbert's sign も消失する。
  • 2)聴覚症状、所見:補充現象、耳閉感は比較的早期に消失する。純音聴力に関しては、発症早期に手術をした症例で聴力改善が良好である。聴力改善の可能性があるのは発症3カ月以内の症例と、変動する聴力を呈する症例。
5.鑑別診断

メニエール病を始めとするあらゆる内耳疾患。

6.疾患についての説明

外リンパ瘻の成因は鼓室、脳脊髄液圧の変化により、内耳窓を介して鼓室と内耳の間に、大きな圧差が生じるためである。しかし只、内耳窓膜の破裂 を起こしても感音難聴は生ぜず、破裂した内耳窓膜は完全に治癒することが知られている。従って、外リンパ瘻の難聴、眩暈は内耳窓以外の内耳病変で説明され なければならない。内耳窓と膜迷路の病態を分類すると、

  • 1)内耳窓の破裂だけで膜迷路の形態的変化がない例。これは殆ど症状のない外リンパ瘻に相当する。
  • 2)内リンパ水腫を示すものはメニエール病と同じ症状を示す可能性がある。
  • 3)前庭膜の破綻は膜迷路の虚脱を引き起こす。これは不可逆性の高度感音難聴にあたる。
  • 4)内耳窓の破裂が生じないにもかかわらず、膜迷路の虚脱が生ずる例。

に分けられよう。

 

6.前庭神経炎

1.疾患概念

前庭神経炎は突発性耳性めまい症の中でも後迷路に病態をもつと推定されるものである。めまいは突発的に発症し、強い回転性めまい感が数時間続 く。その時、蝸牛症状(耳鳴、難聴等)を伴わないのが特徴である(メニエール病との鑑別点)。通常めまい大発作は1回である。激しいめまい発作時には嘔 気、嘔吐を伴う。回転性めまい感は1~3日でおさまるが不快な頭重感と、体動時あるいは歩行時のフラツキ感が数週から数カ月間残存する。

病因は未詳であるが、ウイルス感染説、血管障害説あるいは脱髄性病態説がある。

2.病歴からの診断
  • 1)突発的なめまい発作を主訴とする。大きなめまいは一度のことが多い。
  • 2)めまい発作の後、ふらつき感、頭重感が持続する。
  • 3)めまいと直接関連をもつ蝸牛症状(聴力低下あるいは耳鳴)を認めない。
  • 4)めまいの原因、あるいはめまいを誘発すると思われる疾患を既往歴にもたない。
  • 5)めまいの発現に先行して7~10日前後に上気道感染症、あるいは感冒に罹患していることが多い。

[註]1),2),3),4)の条件がある場合、本症を疑う。

3.検査からの診断
  • 1)聴力検査で、正常聴力または、めまいと直接関係しない聴力像を示す。
  • 2)温度眼振検査で患側の温度反応高度低下、又は無反応を示す。時に両側性のものがある。
  • 3)めまい発作時には自発及び頭位眼振検査で方向固定性水平性(時に水平・回旋混合性)眼振をみる。通常健側向きである。
  • 4)神経学的検査で前庭神経以外の神経障害所見なし。

[註}1),2),3),4)の条件を認めた場合、本症と診断する。

4.鑑別診断
  • 1)良性発作性頭位めまい症
  • 2)心因性めまい症
  • 3)上小脳動脈循環障害
  • 4)小脳腫瘍
5.病期の判定
  • 1)自覚症状(浮動感、頭重感、軽い回転感)は数カ月間持続する。
  • 2)自発眼振は発症後3週までに多くの場合、消失する。
  • 3)温度眼振検査では、反応低下が数カ月に及ぶ。
  • 4)頭位眼振は1年以上存続するものがある(25%)。
  • 5)GBSTは約3カ月で正常化する(70%)。以後もGBSTの正常化しないものは、自覚症状の消退しないものが多い。
6.予後判定基準
  • 1)温度眼振検査で反応低下が1カ月以内に改善した例では、自覚症状及び眼振所見の消失が早く、予後が良いと推定できる。反応低下の持続するものは予後不良である。
  • 2)頭位眼振検査で、眼振の方向優位性が変動する例では、頭位眼振が早期に消失する傾向がある。一方、経過中、一度消失した頭位眼振が再現した例ではその後、頭位眼振が存続するものが多い。
  • 3)GBSTが改善しない群では自発眼振の消失が遅い傾向がある。
7.疾患についての説明
  • 1)追跡期間と最終診断は3カ月間。その間、自覚症状、自発眼振と頭位眼振検査、温度眼振検査、GBSTを経時的に行う。
  • 2)温度眼振検査で無反応の場合、消失とし廃絶と区別する。
  • 3)GBSTは経過判断上、有用である。
  • 4)本症では髄液中、総蛋白量が発症後2週目以後増量し、8週前後で回復する傾向に注目。
  • 5)両側前庭神経炎については、慎重に診断する。

 

7.良性発作性頭位めまい症

1.疾患概念

本疾患の臨床像は1952年、Dix & Hallpike によって明確化された。しかし、剖検所見としては一側卵形嚢斑の変性(Hallpikeら)や、卵形嚢耳石らしい物質の後半規管クプラへの沈着 (cupulolithiasis,Schuknecht)が報告されており、病因はなお不明である。

2.病歴からの診断
  • 1)特定の頭位をとると、回転性ないしは動揺性のめまいがおこる(めまい頭位)。
  • 2)めまいはめまい頭位において次第に増強し、次いで減弱ないし消失する。
  • 3)引続いて同じ頭位をとると、めまいは軽くなるか、おこらなくなる。
  • 4)難聴、耳鳴、体のふらつきは自覚しないことが多い。

1),2),3)が存在するときは、「良性発作性頭位めまい症疑い例」と診断する。

3.検査からの診断

フレンツェル眼鏡下に、仰臥位より左・右側臥位への頭位変化と、坐位より懸垂頭位への頭位変化とを行わせ、出現する眼振の性状とめまいの有無を検査する。

本症に特徴的な眼振は、坐位より懸垂頭位への頭位変化によって出現することが多い。

  • 1)めまい頭位においては、眼振(回旋性成分の強い)が数秒の潜時をおいて出現し、次第に増強し、次いで減弱ないし消失する。
  • 2)患者は眼振の出現に伴って、めまいを自覚する。しかし、同時に難聴、耳鳴を自覚することはない。
  • 3)引続いて、めまい頭位をとらせると、眼振とめまいの出現は明らかに減弱する。
  • 4)めまい頭位より坐位または仰臥位に戻したときに、反対方向に向かう、主に回旋性の眼振が出現することがある。
  • 5)聴力検査、温度刺激検査において異常所見をみないことが多い。
  • 6)直接の関連をもつ中枢神経症状を認めない。
  • 1),2),3)が存在するときは、「良性発作性頭位めまい症」と診断する。

4.鑑別診断

1)頸性めまい

坐位における頸部の捻転によって誘発される。

2)いわゆる悪性発作性頭位めまい

中枢疾患による発作性頭位めまいとの鑑別には、良性発作性頭位めまい症では数カ月以内にめまいが出現しなくなること、および中枢神経症状が随伴しないことに注意する。

 

8.中枢性頭位めまい

1.疾患概念

頭位や体位を変化すると激しい回転性めまいが誘発されるが、頭位眼振に減衰現象が少なく、検査を反復すると常に再現される。眼振の性状は純回旋 性ではなく垂直性である。Bruns(1902) はこのような症候を示す脳腫瘍を報告し、後に Alpers と Jaskin(1944) も報告している。Kornhuber(1958) や Sakata(1971) は小脳虫部を中心とする出血例の慢性期において懸垂頭位をとる時激しい回転性めまい発作が誘発されると共に下眼瞼向き垂直性眼振が認められることを報告 し、急性小脳虫部症候となづけた。これらの症例には頸椎、前庭系の障害を認めず、小脳症状も認められなかった。Sakata(1971) は Bruns(1902) の発表した Bruns 症候群、急性小脳虫部症候群に認められるめまい発作が同一の発現機構によるものとして、悪性発作性頭位眩暈の名称をつけた。

2.病歴からの診断

空間における一定の頭位、体位の変化によって発作的にめまい発作、気持ちが悪くなる、目が動く、視線が定まらない、対象物が動いて見える(水平 方向、垂直方向に)。これらの患者のなかには僅かながら小脳症状、脳圧亢進症状等を示す者、大後頭孔付近の障害にあっては手、腕の運動、知覚障害を訴える 者も散見されるが、大部分は頭位変化によって発来する症状以外無症状の場合が多い。

3.検査からの診断

フレンツェル眼鏡で一定の頭位、頭位変換検査で次のような眼振を認める。

  • 1)眼振出現まで潜時がない場合が多い。
  • 2)眼振は同一頭位にしておくと減衰性が少なくいつまでも持続する。
  • 3)眼振にはめまい感、悪心、嘔吐等の自律神経症状を伴うことが少なく、あっても軽度である。
  • 4)眼振の性状は下眼瞼向きの場合が多い。
  • 5)反復検査で減衰性、疲労性が殆どない。
  • 6)他のENG所見、即ち注視眼振、視標追跡検査、OKN、温度性眼振への固視抑制の低下・消失、明所での特異な自発眼振(上・下眼瞼向き)等を認めることはあるが、温度性眼振の反応低下を示す事はない。
  • 7)めまいと直接関係する聴力障害を伴う事はない。
4.予後判定基準

神経症候学的、放射線学的に原疾患を把えられたものは予後は原疾患による。把えられないものは色々な薬物療法をして行く中に症状が消退していくものが多い。

 

9.薬物による前庭障害

1.疾患概念

全身的または、局所的な薬剤の投与が直接の原因となって、めまいを起こした状態である。病態は、末梢前庭器における種々の程度の感覚細胞レベル の障害で、平衡機能検査でこれを裏付ける所見が見出される。また、蝸牛も同時に侵され、聴力検査で異常が現れることもある。病変は、症状が認められる頃に は既に非可逆性となっていることが多く、治療困難であるので、予防が重要とされる。

2.病歴からの診断

1)薬剤投与中に発生しためまい

投与後いつから発生したかということについては、個人差あるいは投与経路による差があるため、規定しない。しかし、投与との関係は明らかにして おく必要がある。薬物中毒は原則として投与中止により進行が停止するので(DHSMのみが例外)投与中に生じたもののみとするのが適当と思われる。投与量 については、個人差(内耳の受傷性の差)が甚だしいため、とくに規定しない。

2)浮遊感を主体とするめまい

めまいの性状については従来より、回転性めまいよりも、フラフラ感、浮遊感の頻度が高いことが知られているため、この項目は必須である。特に両側同時・同程度に障害が進行するので自覚されがたい点は充分に留意すべきである。

3)Jumbling 現象の存在

障害が進行し、両側の前庭機能の高度低下や廃絶状態になると、体(頭)動時の動揺視が出現する。歩行時や急に頭部を動かした時、一過性に動揺視がみられる。

4)耳鳴の存在

一側性でもよいが、特に両側性の耳鳴があると薬物による内耳障害の可能性がより高くなる。

3.検査からの診断
  • 1)平衡機能検査では立ち直り反射の障害(特にマン検査、単脚起立検査での異常)が重要である。特に立ち直り反射の障害は、暗所、運動時に増強 し、閉眼で顕著となる。上記の Jumbling 現象や、頭部運動時の視力低下も重要であるので、それを証明する検査法の工夫が重要と思われる。ストマイ投与患者に対する我々の統計では、単脚起立検査の 異常発現率61.9%であった。カロリック反応は進行すると両側高度低下または廃絶となる。OKN、ETTでは時に軽い異常をみることがある。
  • 2)オージオグラムでは、薬物中毒を推測させる両側同程度の有毛細胞障害型の難聴が存在する。特に初期では、高音障害型を示す。病期が進むと、中低音にも障害がおよぶ。
  • 3)中枢神経系の異常を認めない。
4.鑑別診断

問診を充分に行って薬剤使用の有無を確かめることが、すべての鑑別診断に共通する。似たような症状を呈し、鑑別すべき疾患としては、脳循環不全 性めまいと自律神経失調症があげられる。前者は、血圧、シェロングテストの異常、血中コレステロール値、中枢性めまい所見、中枢神経症状の有無により鑑別 する。後者については、自律神経機能検査の異常と末梢前庭障害の有無に注目する。

また、前述した体(頭)動時の動揺視(Jumbling 現象)の有無に注目する。

5.病期の判定

1)初期

浮遊感のみのめまい。検査上は立ち直り異常のみで、歩行障害はみられない。カロリック反応は両側とも存在する。

2)後期

以上に加えて、歩行障害、体動時の動揺視(Jumbling 現象)、両側カロリック反応の低下~廃絶、高度感音難聴などがみられる。

中期は以上の中間とする。

6.予後判定基準

予後良好:前庭機能検査上は、立ち直り異常のみで、カロリック反応は正常または一側障害のみにとどまる。

予後不良:両側カロリック反応の高度低下~廃絶、著しい動揺視、または著明な歩行障害のいずれかが認められるもの。治療に反応して回復するものもある。

7.疾患についての説明

薬剤投与が直接の原因となって発生しためまいで、末梢前庭機能障害型を示す。薬剤としては、アミノ配糖体系薬剤が代表的なものである。病態は、 種々の程度の前庭感覚細胞の障害に代表されるが、前庭器の受傷性、特に薬剤投与量との関係については個人差が著しい。症状としては、回転性めまいよりも浮 遊感を訴える症例が多い。病期が進むと歩行障害や、動揺視が出現する。難聴、耳鳴などの蝸牛症状も伴うこともある。検査上は立ち直り反射の障害が重要であ る。カロリック反応は、初期には存在するが、進行すると低下、又は廃絶となる。オージオグラムでは、両側同程度の蝸牛障害型の聴力障害が認められる。病変 は、症状発現時には非可逆性であることが多く、治療にも反応しないので、内耳障害を起こす薬剤の使用にあたっては、細心の注意が必要である。

 

10.内耳梅毒

1.疾患概念

内耳梅毒は、梅毒に由来する血行性内耳炎あるいは第8神経炎で、古くより知られている疾患であるが、蝸牛と前庭の各症状がいろいろに組み合わさ れて発病するため、病態を把握することは非常に困難で、しばしば診断に迷わされる。従って、今日でも難聴やめまいの鑑別診断に際して重要な疾患であること にかわりはない。

2.病歴からの診断

内耳梅毒は先天性と後天性に分類される。

1)先天性梅毒

  1. 聴覚症状
    • A.胎生期に発症すると先天性難聴(全聾)となる。
    • B.生後に発症する場合、10歳以前では、難聴は突発的、両側性かつ高度。成人発症では、難聴は軽度。
      聴力は必ずしも左右対称的ではなく、高音漸傾型が多く、混合性難聴のことが多い。成人になるに従い進行する場合もある。女子では、月経、妊娠に関連し難聴の発現することがある。
      耳鳴の程度は強く、本症患者にはほぼ必発である。
  2. 前庭症状
    さまざまで、時にメニエール病と類似することがある。
    Hennebert 徴候、Tullio 現象がみられることもある。
  3. 家族歴
    母親が梅毒血清反応を示す。視力低下などの眼疾患、難聴者、流産、死産者などをみることがある。
  4. ハッチンソン3主徴
    難聴、角膜実質炎、ハッチンソン歯がみられることもある。

1.、2.、3.の条件を満たせば内耳梅毒を疑う。

4,はきわめてまれであるが認められると内耳梅毒を強く疑う。

2)後天梅毒

  1. 聴覚症状
    両側性であり、進行性難聴型、突発性難聴型、聴力変動型(メニエール型)の3つに分類される。耳鳴はほぼ必発である。
  2. 前庭症状
    めまい、眼振、迷路性失調がさまざまにみられる。
  3. その他の脳神経症状
    慢性髄膜炎による頭痛を訴えることがある(meningo-neuro-labyrinthitis)。

1.、2.の条件を満たせば内耳梅毒を疑う。

3.検査からの診断

1)梅毒血清反応

  1. STS(serologic test for syphilis)
    • A.ガラス板法
    • B.RPR 法
    • C.凝集法
    • D.緒方法
  2. トレポネーマ抗原法
    • A.TPHA(treponema pallidum hemagglutination test)
    • B.FTA-abs(fluorescent treponemal antibody absorption test)

感染初期を除き、1.、2.とも陽性である。

1.のみ陽性:生物学的偽陽性

2.のみ陽性:古い梅毒または治療済みの梅毒

2)聴力検査

両側性の内耳性難聴(必ずしも左右対称ではない)で、語音明瞭度の低下をみることが多い。

3)平衡機能検査

  1. 温度性眼振反応の低下(多くは両側性)
  2. 立ち直り反射の障害
  3. 回転検査で VOR gain の低下

4)蝸電図

CM の振幅低下、ーSP の増大、AP の振幅低下

1),2),3),4)の条件を満たせば内耳梅毒を疑う。

4.鑑別診断

1)突発性難聴

時に急性感音性難聴として発症することがあるので、突発性難聴との鑑別が必要となる。両側性に発症し、血清梅毒反応が陽性であることにより鑑別する。

2)メニエール病

鑑別が非常に困難である。両側性に発症すること、血清梅毒反応が陽性であることにより鑑別する。

3)小脳橋角部腫瘍

X線、CT が鑑別に役立つ。

4)椎骨脳底動脈循環不全

血管造影が鑑別に役立つ。

5.病期の判定

1)先天性梅毒

treponema pallidum の胎内感染により10~30%が発症する。

2)後天梅毒

第2期(感染後3カ月~3年)、第3期(感染後3年以後)に発症する。

6.予後判定基準

発症後の経過が長くなるに従い、両側高度の難聴および両側迷路機能の低下を示す。治療後も難聴を予防できないこともある。高度障害型の予後は不良。

7.疾患についての説明

抗生物質の進歩により、近年の顕性梅毒患者は減少しているが、内耳梅毒と診断される症例は現在なおめまいや難聴を訴えて受診する患者の5%前後 と多い。また、本疾患は種々の臨床像をとり、診断が困難であるため他の疾患と誤診され適切な治療がなされないまま症状の進行する症例も間々見受けられると いう。

一般に、診断は血清梅毒反応によるが、この反応が陽性であっても本症の確定診断には慎重であるべきで、突発性難聴やメニエール病などとの鑑別が困難である。

梅毒の治療は今日ではペニシリンを中心とする抗生物質による治療が主体となっているが、内耳梅毒に関しては問題が残され、治療効果のためには長 期間の投与が必要とされている。ステロイド剤は主に先天梅毒に用いられている。ペニシリンとステロイドの併用により約50%の臨床効果を認め、純音聴力よ り語音弁別能がよく改善される。

 

11.ハント症候群

1.疾患概念

ハント症候群は、

  • 1)耳介、外耳道及びその周辺、もしくは軟口蓋の疼痛と帯状疱疹
  • 2)難聴、耳鳴、めまい
  • 3)顔面神経麻痺

などの第7、8脳神経症状を来す症候群で、varicella zoster virus(VZV)の感染によるものと考えられている。

2.病歴からの診断

1)耳介、外耳道及びその周辺、もしくは軟口蓋の帯状疱疹

顔面神経麻痺の発症前後、数日に起こる。疼痛を訴えるものも多い。

2)難聴、耳鳴、めまい

難聴、耳鳴など蝸牛症状の出現率は非常に高い。めまいがみられ る場合、ほとんど蝸牛症状を伴う。めまいの性状は一般に回転性で徐々に軽快する場合が多い。時に回転性でない時もある。

3)顔面神経麻痺

一般に完全麻痺の比率が Bell 麻痺より高いとの報告が多い。

1),2),3)の3主徴のいずれか1つの症状を欠く不全型ハント症候群もある事に注意

3.検査からの診断
  • 1)顔面神経機能検査(NET、ENoG、Schirmer-test、味覚検査、アブミ骨筋反射等)
  • 2)耳介、外耳道の帯状疱疹の確認
  • 3)純音聴力検査で1側性感音難聴
  • 4)平衡機能検査
    自発眼振はめまい発作中麻痺性眼振、即ち健側向き水平・回旋混合性が多い。感染初期には患側向きの場合もある。温度性眼振検査では高度の CP を示す。最初、健側向き DP もあるが、徐々に消失。CP は長期間(1年以上)続き、無反応の時は回復し難い。
    また、めまいを自覚しない症例でも CP を認められる症例があり注意すべきである。
  • 5)ウイルス検査
    VZV 感染の証明、補体結合(CF)反応によるペア血清の抗体価の上昇、同ウイルスに対する特異的 IgM抗体価の上昇。
4.鑑別診断

1)ベル麻痺

3主徴のいずれかを欠く不全型ハント症候群との鑑別が困難な場合がある。ベル麻痺の中にも VZV を含めたウイルス混合感染が認められ(3~16%)、ハント症候群の中にも VZV 感染の他に他のウイルス混合感染がみられるものがあり、従って両者の鑑別が困難なことがある。

2)Guillain-Barre 症候群、Melkersson-Rosenthal 症候群等

いずれも症状から鑑別は容易である。

5.疾患についての説明

ハント症候群は、

1)耳介、外耳道及びその周辺、もしくは軟口蓋の疼痛と帯状疱疹

2)顔面神経麻痺

3)めまい、耳鳴、難聴

など第7、8脳神経症状を来す症候群であり、帯状疱疹ウイルス、varicella zoster virus(VZV)の感染によるものと考えられている。

上記1),2),3)の3主徴がみられる場合、完全型ハント症候群と容易に診断出来るが、この3主徴のいずれか1つを欠く不全型ハント症候群も 多くみられ、この場合ベル麻痺との鑑別が困難なことが多い。一般に感染を証明する為にはペア血清を採取し、補体結合(CF)反応によって抗体価の上昇を確 認する必要がある。しかし、全例で有意の抗体価上昇がみられるわけではない。最近はCF抗体価と併せ、同ウイルスに対する特異的 IgM抗体の測定が診断上重視されつつある。

又、ハント症候群のウイルス感染は VZV 単独のものと他のウイルスとの混合感染もみられ、一方ベル麻痺においても VZV、単純疱疹ウイルス、アデノウイルス、インフルエンザA型ウイルス等の重複感染がみられ(3~16%)、特に不全型の場合は両者の鑑別を困難にして いる。臨床的には現時点では不全型の場合は第7、8脳神経症状の存在の有無で診断せざるを得ない。

 

12.聴神経腫瘍

1.疾患概念

聴神経腫瘍は、内耳道内の第8神経に Schwann 鞘より発生する神経鞘腫で、前庭神経起源の腫瘍が蝸牛神経起源の腫瘍より頻度が高い。

本来は内耳道内に発生するため、臨床的には、内耳道内の臨床症状を示すが、腫瘍が増大し、内耳孔より小脳橋角部に進展し、小脳や脳幹を圧迫するとそれぞれの神経症候を呈する。

その早期診断は治療上重要であるため、早期診断を中心に示す。

2.病歴からの診断
  • 1)聴覚症状
    1. 中年以後にみられる、次第に進行する一側性の原因不明の感音難聴、耳鳴、時に耳閉塞感に注意する。
    2. 時に急性の感音難聴の臨床症状を示すため、突発性難聴との鑑別が重要である。
  • 2)前庭症状
    多くの場合は浮動性めまい、あるいは急に身体を動かした時にみられる一過性の不安定感などで、回転性めまいは比較的少ない。
  • 3)その他の脳神経症状
    顔面神経麻痺で初発することは稀。

1),2)の条件を満たせば聴神経腫瘍を疑う。

3.検査からの診断
  • 1)純音聴力検査で一側性感音難聴
  • 2)後迷路性難聴の所見
  • 3)聴性脳幹反応の異常
  • 4)温度性眼振反応の低下
  • 5)X線検査で内耳道の拡大
  • 6)X線CT、air X線CT、MRI にて腫瘍の明視化

1)~4)の機能検査で高度の疑いをもち、5),6)の検査で腫瘍が明視化されれば診断は確定する。

4.鑑別診断

1)突発性難聴

聴神経腫瘍は時に急性感音性難聴として発症することがあるので、突発性難聴との鑑別が必要となる。鑑別の要点は、めまいの既往がなくて、温度眼振が高度低下の場合、また内耳道拡大の所見がみられたとき。

2)小脳橋角部腫瘍

聴神経腫瘍以外の小脳橋角部腫瘍との鑑別には、X線CTが役立つ。また、その場合は、内耳道の拡大は認められない。

3)神経血管圧迫症候群

air X線 CT にて腫瘍が否定され、血管走行に異常を認める。

5.病期の判定

1)内耳道内に限局している時期

感音性難聴、温度性眼振反応の異常、内耳道拡大、air X線 CT にて内耳道内腫瘍の明視化。

2)小脳橋角部に 2cm位進展した時期

臨床症候は、上記1)と本質的にはかわりない。ただ、X線 CT にて後頭蓋窩の腫瘍が明視化される。

3)小脳橋角部に 3cm以上進展した時期

上記1),2)の臨床症状の他に、歩行障害、左右側方注視眼振の出現、視運動性眼振や視標追跡検査の異常など、その他、三叉神経の症状として角膜知覚の異常、さらに、腫瘍が増大すれば小脳失調、嚥下障害などがみられることがある。

腫瘍の大きさの判定にはX線、CT、MRI が役立つ。

6.予後判定基準

予後判定は腫瘍の大きさ、および機能異常の程度による。すなわち、聴力検査所見、平衡機能検査所見、あるいは神経放射線学的所見などで決める。

7.疾患についての説明

聴神経腫瘍は内耳道内の、主として前庭神経より発生する良性腫瘍で、蝸牛神経由来の腫瘍は少ない(10%以下)。腫瘍は内耳道内に原発し、増大 すれば内耳孔より後頭蓋窩に進展する。その早期症状は、内耳道内の前庭神経症状、蝸牛神経症状が主で、顔面神経症状は少ない。すなわち、一過性のめまい 感、不安定感、難聴、耳鳴、まれに耳閉塞感がある。その早期診断には病歴上、次第に進行する一側性の感音難聴、一過性のめまいなどを注意する。

難聴は、時に急性に発症することがあり(約10%)、突発性難聴との鑑別が必要であるが、内耳道拡大の有無、X線 CT などが役立つ。

機能検査上は、一側性感音性難聴、後迷路性難聴の所見、温度性眼振反応の高度異常などは、聴神経腫瘍を疑う所見となる。近年、温度眼振反応の比 較的良好な症例の存在も指摘されており、また、聴力障害の軽度な時期に診断のされる症例も多くなったが、この場合、聴性脳幹反応(ABR)の異常(無反 応、Ⅰ~Ⅴ波の潜時の延長、Ⅱ波以後の波形の消失など)は、聴力の比較的良好な症例に対しても 90%以上にみられる所見である。

内耳道内腫瘍の確定診断は、上記の機能検査の異常にて存在を疑い、X線学的に内耳道の拡大、air X線 CT 、MRI などで腫瘍の存在を明視化することである。

腫瘍が内耳道内を充満し、内耳孔より小脳橋角部に進展すると、腫瘍による小脳や脳幹の異常としての歩行障害や、左右側方注視眼振の出現、視運動性眼振や視標追跡検査の異常などが出現する。

 

13.椎骨脳底動脈循環不全

1.疾患概念

椎骨脳底動脈循環不全とは一過性脳虚血発作(transient ischemic attack、略して TIA)の一種であり、この発作の発現には椎骨動脈系血流量の一過性減少が原因と想定される病態を総称している(Williams and Wilson、1962)。

2.病歴からの診断
  • 1)めまいの特徴
    1. めまいの誘因 :首を回したり、体位を変えた時、起こることが多い。
    2. 性状 :回転性めまい(45%)が最も多く、浮動性めまい(25%)、眼前暗黒感(15%)もみられる。
    3. 随伴症状 :めまいと同時に、視覚障害(霧視 60%、動揺視 20%、複視 30%)、意識障害(気が遠くなる 40%、短時間の意識消失 15%)を訴えるとともに悪心・嘔吐(70%)、上肢のしびれ(50%)などが出現する。
  • 2)聴覚症状
    耳鳴・難聴の随伴は極めて少ない(5%)。
  • 3)その他の脳神経症状
    上肢のしびれ、四肢末端の知覚障害も伴うことがある。

1),2),3)を中年以後に満たせば、椎骨脳底動脈循環不全を疑う。

3.検査からの診断
  • 1)首の回転・過伸展によりめまい、失神、霧視などが出現し、眼振も出現する。
    Adson 徴候 :過呼吸し首を回転すると、橈骨動脈の拍動が消失し、上肢のしびれ、鎖骨上窩の血管雑音(bruit)が聴取される。
  • 2)神経耳科学的所見 :頸部の回転・過伸展による眼振の誘発、注視眼振、視運動性眼振、追跡眼球運動の障害など中枢性平衡障害の所見を示すことが多い。
  • 3)Doppler 法血流計により椎骨動脈血流を計測すると、病的な左右差を認め、頸動脈圧迫時に血流の増加率が減少。
  • 4)椎骨動脈写で、頸部の回転、・過伸展により走行異常(屈曲 kinking、コイル形成 coiling)、狭窄などを示し、血流の遅滞や椎骨動脈起始部の動脈硬化像がみられる。
  • 5)頸椎のX線像で椎体上面・側面の鈎状突起、骨棘などがみられる。
  • 6)時に、内頸動脈の形態異常、循環不全がみられることがある。

[診断]検査により1),2)の所見があり、3)~6)の所見の何れかが認められると、診断の確実性が増大する。

4.鑑別診断

1)頸性めまい

頸部の障害によって起こるめまい症候群を総称しており、発現機序として、

]
  1. 椎骨動脈の一過性循環障害
  2. 頸部交感神経叢の刺激
  3. 頸反射の異常

によるものが考えられている。したがって、病態は椎骨脳底動脈循環不全症と同一、類似の病態に属しており、頸性めまいの一種と解釈される。画像診断で鑑別。

2)小脳出血

回転性めまい発作、頭痛、嘔吐が特徴的であり、四肢の麻痺、意識障害(50%)も早期に出現し、項部強直、小脳失調、眼振も出現し、CT-scan、MRI で早期に診断される。橋部出血との鑑別は難しい。

3)Wallenberg 症候群(後下小脳動脈閉塞)

回転性めまい発作で発症し、嘔吐、患側への転倒、嚥下障害、交叉性解離性知覚障害、患側の Horner 症候群などが出現する。注視時の回旋性眼振、温度性眼振の患側低下、perversion などがみられる。

4)前下小脳動脈梗塞

回転性めまい発作で発症し、難聴、耳鳴、顔面神経麻痺、協同運動障害などの小脳症状もみられ、解離性知覚障害、健側向き自発眼振、患側の温度性眼振の低下、注視麻痺などがみられる。

5)神経血管圧迫症候群(neurovascular compression syndrome)

5~6分以内の短い回転性めまいが頭位変換に関係なく頻発。

5.病期の判定

病期の進行とともに脳神経症状の出現が多くなる。発作の反復により最終的には脳幹、小脳、後頭葉、側頭葉に梗塞を生ずる例(5年以内に 35%位)もみられる。

6.予後判定の条件

頸部回転、過伸展によるめまい・平衡障害の出現と他の脳神経症状(複視、失神など)を参考にする。脳梗塞例の 80%は7~8カ月前に椎骨脳底動脈循環不全を経験しており、発作後の再発、間隔に注意し、画像診断(血管写、CT)による原病巣の検索が必要。

7.疾患についての説明

椎骨脳底動脈循環不全とは脳梗塞を伴わない椎骨動脈系の一過性の血流減少が原因と想定される病態であり、めまい発作に次いで、意識障害、内頸動 脈系の虚血による視覚障害(霧視、複視)、脱力発作、悪心・嘔吐などもみられる一過性(2~15分位)の症候群である。したがって、50歳以上の高齢者 で、高血圧、高脂血症などに合併することが多く、蝸牛症状の随伴は極めて少ない。

めまい、眼振、知覚障害などの神経徴候はその持続時間により、TIA(24時間以内)、RIND(reversible ischemic neurologic deficit、24時間~3週間)、梗塞(infarct、3週間以上)に分類され、TIA の70%は持続時間1時間以内で、通常2~15分で発作前の状態に復する。TIA より脳梗塞に移行する例は年間5~8%の比率にみられ、発作の反復例が多い。めまい発作は、椎骨動脈系のみならず、内頸動脈のTIA (8%)、後大脳動脈の梗塞(24%)でも起こる。

神経耳科学的検査、特に眼振検査とともに頸椎のX線、脳血管写(VAG、CAG)、CT-scan、MRI

などによる画像診断は機能検査とともに診断に不可欠である。

病態としては

  • 1)椎骨動脈屈曲症、コイル形成
  • 2)椎骨動脈の起始部圧迫によるめまいと患側上肢のしびれを伴う Powers 症候群(椎骨動脈間歇的圧迫症候)
  • 3)アテローム硬化により上肢運動に伴うめまい発作と筋力低下を来す鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome)
  • 4)頸椎の変形症に伴う椎骨動脈の圧迫によるめまい(頸性めまいの一種)

に分けられる。

 

14.血圧異常によるめまい

1.疾患概念

血圧異常を惹起する機構はきわめて複雑であるが、血圧が安定している場合、めまいは普通発症しない。血圧が不安定で変動の大きい場合、主として椎骨脳底動脈系の循環不全の左右差と関連してめまいを発症する。

血圧の変動はストレスに満ちた近代生活、個人のライフスタイルと関連するところが多いので大切である。

2.病歴からの診断
  • 1)めまいは必ずしも回転性ではない。非回転性めまいの方が多い。
  • 2)めまいの持続時間は比較的短い(分の単位)。
  • 3)逆上感、肩こり、耳鳴、頭重感などの不定愁訴を合併することが多い。
  • 4)高血圧、低血圧、起立性低血圧(起立性失調症)、動脈硬化、貧血、不整脈などの心臓疾患、高齢者、薬物服用者など判明した場合は注意すべきである。
  • 5)めまいに随伴して難聴は伴わないことが多い。
  • 6)めまいの発作時、血圧は上昇することが多い。

1),2),3),4)の条件を満たせば、血圧異常によるめまいを疑う。

3.検査からの診断

一般に聴力検査、平衡機能検査に異常があれば脳・内耳循環不全のめまいに該当するので、検査所見のないことが特徴である。

1)高血圧、とくに境界高血圧、低血圧の存在、および血圧・心拍数の変動の観察

例えば

  1. シェロング試験の経日的検査(外来で、スクリーニングテストとして最も実施し易い)。
  2. 1日血圧記録による血圧の変動の大小、血圧サーカジアンリズムの異常、心拍数の変動の大小、とくに血圧・心拍数の関係から圧受容器反射の感度測定は将来有用と考える。

2)自律神経機能(全身的)

交感神経機能、副交感神経機能検査のため R-R間隔の変動、アトロピン、プロプラノロール静註による心拍数の変動の測定。

3)頸部交感・副交感神経機能(局所的)

これらの左右差を検討するため、アシュナー試験、氷水負荷皮膚温回復試験、瞳孔検査など。

4)椎骨動脈の血流検査

ドップラー法による超音波血流計、digital subtraction angiography による血流の異常、左右差。

5)CTにて異常所見のないこと

6)環境ストレス要因の調査、心理的検査

1)の検査で高度の疑いをもち、2),3),4)の検査で異常を認めれば診断は確定する。

4.病期の判定
  • 1)めまいの活動期は一般に血圧の変動大、間歇期は心拍数の変動大、治癒期はこれらの変動が少ない。
  • 2)めまいの活動期は主として副交感神経機能低下と交感神経機能亢進、めまいの間歇期は副交感神経機能低下による相対的交感神経機能亢進。
5.予後判定基準
  • 1)糖尿病、Shy-Drager 症候群など器質的自律神経系の異常のないものは予後良好。
  • 2)若年齢者は一般に予後良好。
  • 3)薬物療法に反応するものは予後良好。
6.疾患についての説明

血圧異常によるめまいには、全身の血圧調整に関与する機序を十分考慮しなければならないが、高血圧、低血圧でも血圧が恒常に保持されているとき、めまいの発症は少ない。

急激な一過性の血圧変動がめまいの発症に大きく関与すると考える。

したがって椎骨脳底動脈循環不全と病態的に同じ場合が考えられる。

血圧異常によるめまいの場合、器質的疾患で血圧異常を惹起するものを区別すること、機能的に急激な血圧変動を惹起する機序を解明することが大切 である。後者のなかで、圧受容器反射を介する全身的自律神経機能が問題となると考えられる。なお、血圧異常によるめまいの中に、自律神経失調症、心因性め まいの占める役割を検討することが肝要と考えられる。

 

15.頚性めまい

1.疾患概念

頸部に原因があり、多くの場合頸部の回転または伸展により生じるめまいを意味する。その原因に関しては、頸部の骨、筋、靱帯の異常によるもの、 椎骨動脈、椎骨動脈周囲の交感神経線維などにあるとされるが、いくつかの原因が重なったり、連続して起こることも多く、めまいの他多彩な症状を伴うことも 少なくない。

2.病歴からの診断
  • 1)頸部の回転または伸展によって起こる各種のめまいを訴える。
  • 2)めまいは一定の頸部運動により反復性に起こり、その頸部運動を継続すると次第に減弱することが多い。
  • 3)頸部以外にめまいの原因となる障害が認められない。
  • 4)めまいの他、頭痛、項部痛、嘔気、冷汗、その他各種の不定愁訴を訴えることがある。
  • 5)過去に機能的または器質的頸部損傷の既往歴があったり、頸椎異常を指摘されたことがあったりする。
  • 6)現在頸椎異常、椎骨脳底動脈循環不全、Barre-Lieou 症候群、むち打ち症などの診断を受けている。

1)~3)があれば頸性めまいを疑う。

3.検査からの診断
  • 1)直立障害:頸部運動により生じる動揺の増大、転倒傾向
  • 2)頸部運動に伴う異常眼球運動の出現
  • 3)自律神経異常
  • 4)椎骨脳底動脈循環不全の証明
  • 5)頸椎レ線写真上 spondylolysis、osteophyte の存在、椎間孔狭窄などを認める。
  • 6)Adson 徴候、bruit などの内科診断学的所見、Schellong 試験成績などを参考にする。
  • 7)collar test : polyneck の適正な装着により頸部痛の減少、平衡機能の改善をしめす。
  • 8)その他、温度眼振異常(一側性CPまたはDP)、視運動眼振異常、視標追跡能低下、VOR、VVORの異常(gain 低下、位相の遅れ)などをみることがある。
4.予後判定基準
  • 1)頸部運動によるめまいが減衰傾向を示すものは一般に予後が良い。
  • 2)原疾患の程度。
  • 3)立ち直り反射異常が著明なものは予後がよくない。
  • 4)視運動眼振解発状態をみる。

[注]上記の諸要素を考慮した判定基準は、本疾患の多様性を考慮すると、必ずしもクリアカットにはいかないであろう。

5.説明

頸性めまいは、1926年、Barre が cervical arthritis によって誘発されためまいとして発表したものが最初で、今日 Barre-Lieou 症候群と呼ばれている。

1955年、Ryan & Cope が頸椎異常、特に spondylolysis に起因するめまい対して cervical vertigo なる名称を与え、それ以後、本名称が使われるになったとされる。

本症は、その起源か3種類に分けて考えるのが妥当とされる。

  • 1)感覚性:頸椎骨棘形成により後根圧迫症状を生じた場合である。筋、関節受容器に影響を及ぼす場合もある。
  • 2)椎骨動脈起源:頭部回転により椎骨動脈圧迫または閉塞が生じる場合である。
  • 3)交感神経性:椎骨動脈表面を囲む交感神経繊維に対する影響により、いわゆる Barre-Lieou 症候群を生じる場合である。

疾患の病期の判定は困難な問題であり、原疾患との関係において判定する必要があるが、臨床的には、

  • 1)前駆期:頭痛、項部痛、嘔気、手足の冷感、異常感などを訴える時期
  • 2)活動期:頸部運動によりめまい、ふらつきなどを生じ、各種検査成績に異常を認める時期
  • 3)緩解期:めまいはあまり起こらないが、頭位変換眼振や頭振眼振は存在する時期

のように分けることができよう。

本症の起源は症例によって異なるので、単一疾患としてでなく、症候または症候群として考えていく必要がある。

 

16.心因性めまい

1.疾患概念

心因性めまいには器質的あるいは機能的なめまい疾患があり、それに心因性反応が合併する場合と他のめまい疾患がなくて心因性反応によって発症する場合とがある。前者は血圧変動のめまい、頸性めまいなどの中にもみられる。以下後者について述べる。

2.病歴からの診断
  • 1)めまいは回転感、動揺感、眼前暗黒感など不定で時に平衡失調も訴え多彩である。発作は瞬間的、数秒間にみられるが持続的に訴えることが多い。
  • 2)随伴症状は耳鳴(両側が多い)、耳閉塞感、頭重感、肩こり、不眠、気分がすぐれない、脱力感など自律神経症状や精神的不定愁訴が多いが難聴は少ない。
  • 3)他の器質的あるいは機能的めまい疾患を除外する。
  • 4)めまい発症には心因的契機または誘因がある。
  • 5)1),2)の症状は時期的に関係のないことが多い。

1),2),3)の条件を満たせば心因性めまいを疑う。

3.検査からの診断
  • 1)平衡機能検査、神経学的検査で異常所見がないか、あっても誇大化された異常所見や異常所見間に説明し難い不一致がある。
  • 2)各種の心理テストで心因性反応を思わせる異常所見がある。
  • 3)補助検査としてのアドレナリン負荷平衡試験(檜法)でA型(心身症と見なされる)、B・C型(不安神経症、うつ病、ヒステリーに多い)の所見が得られる。

2の1)~3)と3の1),2)の条件を満たせば心因性めまいを考えて精神神経科医や心療内科医と相談する。

4.鑑別診断

詐病としてのめまいとの鑑別が大切である。経験的に、

  • 1)身体動揺が他の四肢の偏倚に比べて極めて大きいか、全く説明つけ難い不一致がある。

     

  • 2)重心動揺を記録しながら暗算など stress interview で動揺が変動する。
  • 3)起立時の下肢筋の EMG の所見と動揺が一致しない。
  • 4)「これから苦しい検査を行います」というと患者が「やめてくれ」という。
  • 5)短時間に繰り返し同じ検査をしても異常所見に再現性がない。
  • 6)心理テストで心因性反応の異常所見が少ない。

などの場合、詐病を疑うが、心因性めまいとの鑑別は慎重でなければならない。

5.病期の判定

精神神経科医や心療内科医と相談する。

6.予後

一般に治療に抵抗する症例が多く、治療は長期間かかる。アドレナリン負荷平衡試験A型はその傾向が強い。

7.疾患についての説明

心因性めまいには、

  • 1)心身症のめまい
  • 2)不安神経症、心気症のめまい
  • 3)仮面うつ病のめまい
  • 4)ヒステリーのめまい

などが含まれる。これらは静的および動的身体平衡の無意識的な心身の精神的・自律神経障害である。診断にあたっては心理的障害、心因性反応、心因性自律神経障害などの心理的原因を精神神経科医、心療内科医と相談して調べることが必要である。

心理テストとしては、

  • 1)質問紙法(CMI、Y-G、SDS、MAS、宮城法の性格テストなど)
  • 2)投影法(PF-study、ロールシャファー法、SCT、TATなど)
  • 3)作業検査法

などがあるが、臨床的簡便法としてCMI(不安神経症、心身症)、SDS(うつ病)、Y-G、性格テスト(ヒステリー)を用いることが多い。

 

17.神経血管圧迫症候群

1.疾患概念

元来顔面痙攣については顔面神経と血管が、三叉神経痛については三叉神経と血管が小脳橋角部において接触しており、これらを剥離減圧することに より、それぞれの顔面痙攣や三叉神経痛が治癒することが多いことからこの疾患の概念は出発している。そして第8脳神経についても血管が神経を圧迫している ことにより、耳鳴・難聴・めまいが起こったとする症例が報告されるようになった。しかしながら未だ世界的に見ても報告例は少なく、明確な診断基準を作り得 る状況には至っていない。

2.病歴からの診断

症例によりメニエール病、突発性難聴、良性発作性頭位眩暈症などと似た症状を呈するので、本疾患に特徴的な病歴は今のところ確立されていない。

上記各疾患の症状が保存的では治癒し難く、また患側に顔面痙攣を伴っている場合は、本疾患の可能性を疑って検査をすすめる。

3.検査からの診断

グリセロールテストが陰性のメニエール病、椎骨動脈写やair X線CTでの動脈の走行異常が認められる場合、顔面痙攣を認める場合などは本疾患を疑う。

4.疾患についての説明

疾患の概念の項でも述べた如く、第8脳神経についての神経血管圧迫症候群は未だ報告も少なく、診断基準を作成することは現状では困難である。 従って上記に記した項目も、あくまでneurovascular compressionの可能性を考慮した推定診断にすぎない。

しかいながらメニエール病、突発性難聴、良性発作性頭位眩暈症、前庭神経炎等の原因が明確でない現状では、少なくともneurovascular compressionが、めまい・耳鳴・難聴の原因となり得ることは念頭におく必要がある。

 

18.頭部外傷後のめまい

頭頸部外傷は、その受傷部位や受傷様式の多彩さ、複雑さにより頭部外傷といわゆる鞭打ち損傷とに明確に分けることは難しい。

頭頸部外傷後のめまいは頭頸部外傷後遺症の主たる症状の一つであり、受傷直後の即発性と受傷1~3ヶ月後からみられる遅発性のものとに分けられるが、後者の方が多い。

頭頸部外傷のうち、側頭部外傷では側頭骨骨折、迷路振盪症、鼓室外傷などがあり、即発性めまいのみられる場合その診断は簡単にできることもあるが、遅発性めまいの場合は後遺症として他の臨床症状(耳鳴、難聴、耳出血、髄液漏など)や検査所見と合わせて診断する。

頭部外傷後のめまいは、

回転感、動揺感が多く、比較的治りやすく

2)めまいを客観化しうる他覚的所見の得られることが多いが、鞭打ち損傷のめまいは、

1)眼前暗黒感、動揺感が多く、概して治りにくく

2)めまいは客観化しうる他覚的所見が得られることが少なく、非前庭性要因によるものもみられる

 

頭頸部外傷後のめまいの障害部位としては、末梢迷路、中枢、頸部があり、病因としては、器質的障害、機能的障害あるいは心因性によるものが考え られるので、これらの点を考慮して診断する。もとより一元的障害より多元的障害で説明しなければならぬものの方が多い。本症には詐病によるめまいの訴えも あるので、その診断には充分慎重でなければならない。